本日のミンナは、なんか、やってしまった
葛鷲つるぎ
第1話
「【トリあえず】定食ください」
ミンナは大衆食堂で一つ注文した。店の外では王国の兵士がミンナを探し回って騒がしい。店内では何が起きているのか外を見遣る者がいる。
どうでもよさげにしている者も居て、ミンナはそのうちの一人だった。兵士らはミンナを追いかけていたが、それを撒いて食堂に入ったとは思えない落ち着きぶりである。
ミンナはもうすぐ十八になる少女だった。黒髪に白のだんだら模様。高く一つに結っている。黒装束に身を包んでいる。今は魔法を使って、どこにでもいるような村娘に化けていた。
少女は背が高く、平均的な村娘と比べると頭一個分の違いはあったのだ。
「トリあえず一丁!」
「いただきます」
ミンナは出来立ての料理を受け取り、空いている席についた。
【トリあえず】という鶏を和えず出している和え物がついた定食セットをゆっくり食べる。他に奇を衒った要素はなく、名前だけが特徴的ないたって普通の定食である。
外は相変わらず騒がしかった。兵士たちはミンナの幻影を追いかけている。どたどたと屋根の上を走る音がした。木造だからよく軋んでいた。
外のミンナは幻影だが、土くれのゴーレムを核にしているので質量はある。ゴーレムを遠くから操るのにも技量が要るので、ミンナが滞在している間、ゴーレムには町中をひたすらに走ってもらっているのだった。
もちろん、無駄に走っているわけではない。同時に金目の物を嗅ぎつけ、市井にばら撒く手筈を整えている。
これで三度目なので、兵士たちは躍起になっているし、町の人間はどこか期待している様子だ。この町にもいる旅行客もイベントと捉えているようで、少々どころでなく興奮を隠せていなかった。
ミンナはご飯を食べながら、それらを見遣る。
(これは、ちょっと興奮する振りをした方がいいのかも……?)
そう思ったが、慣れない仕草はボロが出る。ミンナに演技は出来ない。早々に諦めて食事に戻った。
その間にも、噂話が耳に入った。
「この頃現れる義賊って実は魔王を倒した勇者様なんだって」
「え、ほんとに?」
なんでも、魔王の次は国王が正義の鉄槌を下されようとしているとかなんとか。
ミンナは瞬いた。
王国の秩序を乱している自覚はあったが、まさか義賊と思われていたとは。これはますます国王の顰蹙を買いそうだ……いや、もう買っているのだろう。
ただの目くらましのつもりが、余計な火種を生んでしまった。
「御馳走様でした」
【トリあえず】定食を食べ終え、お盆を下げる。
とりあえず、予定通り欲しい物だけ買って帰ろう。
本日のミンナは、なんか、やってしまった 葛鷲つるぎ @aves_kudzu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます