【KAC20246】魔羊ネエネエの日々の3。

豆ははこ

トリあえず、と、トリあえた。

『トリあえずはいやですねえ』


 黒き魔羊ネエネエ、四つ足を駆る。


「今日は仕事を休みなさい」 


 偉大なるあるじ、森の魔女様のお言葉を背に。

 旅立つ渡り鳥を見送りに行くのだ。


『転移魔法は使いたくないですねえ。渡り鳥さんですからねえ』

 普段なら転移魔法でぽーんと跳ぶところだが、見送る相手は普通の渡り鳥たち。

 突然モフモフが現れたら、驚かせてしまうだろう。


 高級魔馬車よりも早い魔羊は……驚かれないのだ。だって、ネエネエだから。


『おや』

 バタバタと激しい動きの……鶏だ。


「魔羊ネエネエさん! 鶏舎我が家魔鶏まどりに襲われています! 雌鶏よめさんのお腹には、が!」


 それは助けなければ。

『鶏舎の方角はどちらですかねえ』

「あっちです……ネエネエさん?」


 雄鶏はさぞかし驚いていることだろう。

 だが、今は構ってはいられない。


 すたーん!


 数分後。

 魔鶏の眉間をしたたかに打ち据える、羊蹄。


『時間短縮ですねえ』

 なんとネエネエ、方角から到着地点を予測して、着地点を魔鶏としたのだ。


「俺が、こんな、い最期を遂げるなんて……!」

 意識を失う瞬間、魔鶏が呟く。


 だが、ネエネエは取り合わない。


雄鶏さんから聞いていますですねえ。よいお子を生んで下さいですねえ』


「は、はい……」

 何故か雌鶏の目が潤んでいたが、気づかないネエネエ。


『よっこいしょですねえ』

 魔鶏を自分の羊毛に押しこむと、目的地へと、再び四つ足で駆け始める。


『間に合いましたですねえ』


 馴染みの渡り鳥たちが羽を振っている。


 トリあえずには、ならなかった。



「ネエネエ、渡り鳥の見送りと、それから魔鶏退治を? たいへんだったね。その上、料理まで……」


『魔女様にお料理をお出しするのは喜びですねえ。はい、どうぞ。まずは、えないトリ料理ですねえ。トリあえずですねえ』


 無事の帰宅後、魔鶏の処置と調理を終え、笑顔のネエネエ。


 卓上には、揚げたトリ、茹でたトリ、蒸したトリ。

 そう、様々な魔鶏肉料理が。


 今日の献立。

 トリあえず、えないトリ料理。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20246】魔羊ネエネエの日々の3。 豆ははこ @mahako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ