第21話

太陽が空高く昇った頃、一人の男性が本部の通路を歩いていた。

その男性は東京支部の支部長―――オウバイであった。

大勢の隊員達はいきなり入って来たオウバイに一度は銃口を向けたが、向け続けることは出来なかった。

オウバイは武器を持っている訳ではない。誰かが撃つなと命じた訳でもない。ただ、隊員達は悟ったのだ。―――この人を撃とうとすると、引き金を引くより先に殺される―――と。

やがてオウバイは本部の一番の執務室で足を止め、ノックを三回、「失礼する」と言って部屋に入る。

中にいたのはショウゾウだけだった。

「義理堅いのは相変わらずだね〜オウバイ」

「貴君も少し礼儀を身に付けてはどうだ?」

「昔のように名前で読んでくれないのかい?戦場で共に背中を預けた旧友じゃないか」

「昔の話だ」

キッパリと拒否をすると、ショウゾウは悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに元に戻った。

「さて、オウバイが来た理由としてはあの手紙のことだろう?」

「そうだ。貴君が渡した手紙についてだ」

オウバイはじっと、何かを探るようにショウゾウの仮面の笑顔を凝視する。

「そのまま、書いた通りの意味だよ。厄災の原因であるヒイラギを、、、」

「巫山戯るな!!」

まだ言い終わらないうちに怒声を発した。

ショウゾウは予想していなかった行動に目を見開く。

「人を殺して得るものは何かあるのか?何もないって一番知っているのはお前だろ、、、!」

大きな声が響く。

「、、、この国の平和と欣幸きんこうを得ることが出来る」

「それでも、、、!」

「私も、出来ることなら人を殺したくはないんだよ。だが、所詮は理想論だ。何かを得るには何かを手放さなければいけない。何人も見てきただろう?リピットに殺され、むくろと成り果てた仲間を、リピットとなった仲間を殺さなくてはいけない時、、、。オウバイはあの絶望を子供達に体験させられるのかい?」

その目は何処までも他者のことを案ずる、本部長としての眼差しだった。

オウバイが説得させられる言葉を探す。

五秒、、、十秒あれば完璧な言葉が出てくるはずだった。きっと、納得させられる言葉があるはずだった。探して見付けないと、何も変わらない。

だが、三十秒経ってもオウバイは口をつぐんだままだった。

オウバイは「ほらね」というように、化学物質について話し出す。

「リピットを生み出した化学物質にはヒイラギの遺伝子の一部が組み込まれている。その遺伝子が突然変異した結果、リピットが生まれた」

ショウゾウは立ち上がり、目の前に立つ。

「ヒイラギは天才だった。稀代の天才と呼ばれた。リピットというのは偶然生まれたのではなく、彼自身が作り出したんだから」

衝撃の事実にオウバイは言葉を失う。

「だが、あまりにも感染力が強かった。だが、その誤算も彼の頭の中にあった。誤算は彼にとっては些細なことであり、彼の生命維持が止まった時にリピットという生物が消滅するようにあえて生み出した。それに関しては彼自身が言っていたから信じる価値はある」

「そんなことが出来るのか、、、?」

オウバイは信じれないように言う。

当たり前だ。故意で人を生き返らせるようなことがあるなんて、、、。

「大方、誰か生き返らせたかったかも知れないね。終わった命は戻らないというのに、、、」

ショウゾウからは笑顔の面影は消えている。今の表情は心底吐き気がすると物語っていた。

「ショウゾウ」

オウバイが口を開く。

「さっきの答えだが、、、確かにショウゾウの言う通り理想論かも知れない。だが、今の話が本当だとしても、人を殺してはリピットと同じだ」

ショウゾウの返答を待つ。

「、、、同じで良い。それしか方法はなかったのだから」

二人の間に長い沈黙が流れた。静か過ぎて虫の羽音までも聞こえそうだ。

「そうか、、、失礼する」

オウバイはそう告げ、踵を返した。

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