七不思議の禁

鶴川始

勘違いしてほしいんだけどなあ

「絶対に『はなさないで』と云われている怪談、聞いたことある?」


「……? 有名なネット怪談とかなにかか? いや、話すなって云われてるなら聞きようがなくないか? それとも、会話の話すじゃなくて距離の方の離すとかか?」


「会話の方の話すだよ。そしてネット怪談とかじゃなくて、私たちの高校の七不思議に関する怪談だよ」


「七不思議!? 今日日きょうびの高校で!? はー……怪談どころか七不思議すら聞いたことねえよ」


「まあ『話さないで』と云われているから街談に巷説しないというのもあるのだけれど……それでね、」


「いや、待て、一応ツッコんでおくけど、話すなって云われてる怪談なんだろ?」


「ああそれに関してはね、条件付きなんだよ。学校の敷地内で話さないで、と」


「それで放課後わざわざファミレスに寄った、と……そんな話をするためにィ?」


「おや、もしかして告白でもされると思ったかい?」


「お前はファミレスで告白する女なのか……? 毎日ここで二人で勉強してました、みたいな思い出が特にあるような場所でもないのに……?」


「そうだねえ、どうせ告白するなら丸太橋の上とかかな」


「そこは吊り橋じゃねえ? 丸太橋は恐怖が勝ちすぎるだろ」


「まあその話は追々するとして、だ。このセクシィは後ほど目を通しておいてくれ」


「それはそろそろ結婚したい圧を彼氏にかけるときのやつだろうがよ。俺たち付き合ってもいないのに……」


「それでウチの高校の七不思議についてだが――とかくこの『はなさないで』というワードが付帯する――


一、深夜に一階職員用男子トイレの奥の個室には幽霊が出る。この体験の内容は学校の敷地で『話さないで』

二、二つある学校の公衆電話のどちらかからもう片方に電話をかけると幽霊が出る。このとき電話の相手と『話さないで』

三、生物部の管理している虫三匹で蟲毒を行うと妖怪が出る。このときその昆虫を野に『放さないで』

四、夜中に中庭でヘリウムを入れた風船を四つ持ち込むと妖怪が出る。このときその風船を『放さないで』

五、午前五時に講堂のピアノを鳴らすと悪魔が出る。このとき鍵盤から指を『離さないで』

六、美術室にある自画像を描く用の鏡を六つ合わせると悪魔が出る。このとき鏡を『離さないで』

七、概要不明。ただし『話さないで』『離さないで』『放さないで』のすべての制約があるとされる。


――――これで七不思議だそうだ」


「……ふうん、なんか変な七不思議だな。いや変だから七不思議ってことではあるんだろうが」


「そうなんだ、実際変わってるんだよ、この七不思議。普通この手の七不思議なり怪談なりは、所謂見るなのタブーとかカリギュラ効果のような、禁止する旨の行動をとることによって怪現象なり怪異が発生するものなんだよ。でもこの七不思議における『するな』は全部怪異が発生したあとのことなんだよね。その上、禁を破った後のことが不明なんだ」


「そもそも――禁を破ろうとすることがしにくい内容だしな。高校生になってまで大真面目に七不思議に取り組もうとする奴はそう居ないというのを抜きにしても」


「しにくいというか、事実上不可能なものが多いね。携帯電話の普及によって公衆電話は相当前に撤去されたらしいし、生物部も部員が定数に満たず休部――事実上の廃部だね。職員用トイレは移設されて今は三階にしかないし、美術部には鏡は六つもないらしい。講堂にもピアノはないらしいね」


「やろうと思えば出来るのは四の風船くらいか……」


「まあ生物部を復活させたり美術部の備品に鏡を増やしたりくらいはできなくもないかもしれないが……まともにやろうとしたら手間なのは間違いないね。そもそも深夜の学校に這入ろうとしたら警備会社がすっとんでくるよ。昔より全然厳しくなったらしいし」


「まあ簡単にできたとしてもやろうとは思わんけどな」


「そして私が気になっているのはね……このタブーとは誰にとってのタブーなのかということだ」


「……誰にとって、というのは……学校の生徒、とか?」


「というより、怪異を発生させる条件を満たしてしまった者……とでもいうか。なんというか、『はなさないで』とされている内容は、実は『はなして』しまった方が良い禁なんじゃないかと思うね」


「あー……鏡とかはそうかもな」


「電話相手と話さないでとかは兎も角、他はどちらともつかない内容だしね」


「他の人のことを考えたら蟲毒は単純に野に放さないでほしいけどな」


「だから――この七不思議において、怪異を発生させる方法そのものには禁を行わず、その後の行動に禁をするということは……その禁を破ると怪異側に不都合なことがある――ということかもしれないね」


「……ふうん、それは――面白い発想だな」


「ま、私の妄想に過ぎないけどね」


「……ところで結局、七不思議の内容――いや七つ目あるかどうか微妙なところだが、それは置くとして――別に学校の敷地でも大丈夫な内容だったんじゃないか? それとも本当にお前、職員用トイレで幽霊見たのか?」


「いや? どれも試してはいないよ」


「じゃあ別に学校でもよかったんじゃないか? ていうか、そもそも誰にこの七不思議の話を聞いたんだ? 七不思議どころか、昔生物部があったとか、職員用トイレが一階にもあったなんて、そこから俺は知らなかったぞ」


「ああ、それについては本当に――『はなさないで』と言われてるんだ」











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