第6話 野良猫の謎

 しばらく自室でダラダラしながら、陽菜について考える。

 親との喧嘩で家出した。それは普通に理解できる。だけど、どうして公園の前に立っていたのか。そして、俺の家の場所を知っていたのか。


 俺と陽菜は今まで無関係だった。教室で会話した覚えすらない。

 なのに俺の家を知っていて、気軽に上がり込んできた。いくらマイペースな子でも、知らない男の家にためらいなく入るだろうか。


 うーん、謎だ。

 もう本人に直接聞いてみるか。


 陽菜が使う部屋は、二階の突き当たりにある。

 ドアは開けっ放しになっており、部屋の中では千冬姉と陽菜が座ってタブレットを覗き込んでいた。


「ちーちゃん見て見て、これ凄くない!?」


 千冬姉はタブレットを持って画面を見せてくる。

 表示されたキャンバスには、リアルな猫のイラストが描かれている。まるで本物の猫をスキャンしたように精緻だ。


「陽菜ちゃんが描いてくれたんだよ。ガチ上手いよね!」

「ああ、ガチ上手いな」

「陽菜ちゃんがこんなに絵が上手いんだったら、私のアシスタントとして雇っちゃおっかなーなんて思ったんだけど」

「ん、いいよ」


 絵が上手いと褒められた陽菜は、得意げな表情で胸を張りながら、千冬姉に頷く。

 

「ありがとう陽菜ちゃん! これで私の負担も減って、腱鞘炎と眼精疲労と寝不足にならず済むよ!」

「……なんか大変そう、やっぱやめる」

「やめないで陽菜ちゃあああん!」


 千冬姉は陽菜に泣きついた。


「お給料いっぱいあげるから、どうか私にお慈悲を……!」

「……千隼も一緒にやるなら」

「えっ、俺!?」

「よし! ちーちゃんもアシスタントになって私たちと一緒にタコ部屋で楽しくお絵描きしよう!」

「やだよクソ忙しそうだもん! 絶対にやらないからな!」


 俺にまで泣きついてきた千冬姉を引き剥がす。

 しつこく食い下がる千冬姉に対して首を横に振り続けたら、なんとかアシスタントになることを回避できた。


 陽菜は千冬姉の哀れな姿に同情したのか、気が向いたら手伝うと言った。


「というか、二人とも打ち解けるの早くね?」

「陽菜ちゃんにはシンパシーを感じたんだよね。あ、私と同類だ、って」

「千冬姉の同類に思われるなんて、陽菜もツイてないな」

「それどーゆう意味!?」

「千冬は面白くて、おっぱいが牛さんみたいに大きい」

「陽菜ちゃんそれ褒めてる?」


 わいわいと騒いでるうちに日が暮れた。

 そろそろ夕食を作らないと。


 結局、陽菜の事情を聞きそびれてしまった。

 まあ、いつでも聞く機会はあるだろう。

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家の前にいた野良猫系女子の世話をしたら懐かれた 夜見真音 @yomi_mane

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