第5話 巨乳お姉さん
クラスメイトの言及を適当にかわし続け、放課後になる。
結局、俺と陽菜は通学路でよく会ううちに仲良くなったという設定に落ち着いた。
校舎を出て下校する。陽菜は当たり前のように俺の後ろをついてくる。帰る場所が同じなので、そりゃそうだ。
「もし同居してるのがバレたら、また面倒なことになりそうだ……」
「私は、問題なし」
クラスメイトにどう思われようと気にしない陽菜は、さらっと言った。両手には何も持っていない。普段から鞄ごと教科書類を教室に置いて帰るので、実に身軽そうだ。
「そうだ、生活用品を買いに行かないと」
「もう買った」
「そうなのか」
「うん。スマホでポチポチして。コンビニで受け取る」
通販サイトで注文し、受け取りはコンビニにしたらしい。
陽菜は俺を追い越すと近所のコンビニのほうに駆け出していく。俺は彼女の背中を追った。
陽菜が指定したコンビニは、我が家から徒歩数分ほどの場所にあり、俺が昨日行っていたところだ。日頃お世話になっている七がつくコンビニに入店し、レジで荷物を受け取る。
「ん……なかなか重い」
多くのものを買い込んだようで、段ボールはコンビニで受け取れるギリギリのサイズ。陽菜は段ボールを抱え込み、コンビニを出ようとする。
「あっ」
「どうした?」
「ソフトクリーム食べたい……」
陽菜の視線はアイスコーナーに向いている。
「食べたいなら、買っていけばいいじゃないか」
「そうする」
アイスコーナーでソフトクリームを掴み上げた陽菜は再びレジに向かう。片手で段ボールを支えているせいでフラフラして危なっかしい。財布の中身を取り出すのに苦戦している様子だったので、代わりに段ボールを持ってあげる。
「れろ……美味しい」
帰り道でソフトクリームを舌ですくい、ご満悦な表情を浮かべる野良猫。ちなみに段ボールは俺が家まで持つことにした。早く食べたそうだったし。
「ソフトクリーム、好きなのか」
「うん、アイスで一番好き。毎日食べても飽きない」
夢中でソフトクリームを舐める陽菜。
真っ赤な舌先でペロペロする様は、猫が水を飲んでいるみたいだった。
家に到着する頃にはソフトクリームを食べ終えていた陽菜は、満足げに玄関のドアを開ける。
「――ち~ちゃ~~~ん!!」
家の中から巨乳お姉さんが飛び出てきて陽菜に抱きついた。
「原稿が終わらなぁ~~い! このままだと締め切りに間に合わないよぉ~~! どうしよぉ~~~!?」
「苦しい……」
「あれっ!? ちーちゃんじゃない!?」
豊かなおっぱいで顔を圧迫されてもがく人物が俺ではないことに気づいたお姉さん……千冬姉は慌てて陽菜を離した。
「ごめんね、いきなり抱きついちゃったりして!」
女子高生にぺこぺこと頭を下げる巨乳お姉さん。
この慌ただしい人こそが俺の姉、高宗千冬。
常日頃から締め切りに追われているイラストレーター兼、漫画家だ。
「あなたが陽菜ちゃん? すっごく可愛いね!」
「ありがとう。お姉さんは、おっぱい大きくて柔らかい」
「ああっ、そんなにおっぱいじっと見ないで! バカみたいに大きいの気にしてるんだから!」
おっぱいをガン見された千冬姉は両腕で隠す。
腕の拘束でおっぱいはむにゅっと潰れた。
ふわふわのロングヘア、おっとりめの童顔、華奢な身体に反してむっちりと膨らんだ巨乳。我が姉のことながら、男が放っておかないような容姿だ。実際、学生時代はモテていたらしい。
「帰ってきてたんだな、千冬姉」
「うん、さっきね! タコ部屋の空気ばっか吸って憂鬱になっちゃって!」
「早く原稿終わらせないから……」
「それは言わないで! 私だって頑張ってるんだから!」
もともとイラストレーターだった千冬姉。
なんとなく描いてSNSに投稿した短編漫画がバズり、長編漫画化して雑誌に掲載された後も反響があり、ついにアニメ化まで決まった結果、急激に仕事が増えて忙しくなった模様。
今は仕事だけに集中したい時に籠もる別荘にて、連載漫画の原稿を描く毎日を送っていた。
「いやぁ、それにしてもちーちゃん、やるねぇ。こんな可愛い子を拾ってくるなんて。ちーちゃんの好みは、こういう子だったんだねぇ」
「好みだから拾ってきたわけじゃないぞ」
「美少女と一つ屋根の下しっぽりですか、このこの~」
弄り文句が母親とそっくり。やっぱり血の繋がった親子なんだな。
「とりあえず中に入って休んでいいか? もう俺、疲れたわ」
ちょっとウザいノリの姉は置いておき、段ボールを陽菜に渡して家に上がり込んだ俺は、自室へと向かうのであった。
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