第8話 三人で住むの?

「エイミーは気が強い子かと思っていたんだけど、すぐ謝ることができるんだな」


 俺は疑問に思っていたことをエイミーに対して言った。

 どう考えても最初のエイミーとティナのやり取りは、雰囲気の良いものとはいえず、エイミーが所謂悪役令嬢のように見えたし、実際異世界ではそうだったのだろう。


「ここは、イヴアセスト帝国ではないですからね」

「つまり?」

「ここでは、私の両親や周りの人たちの目を気にする必要がありませんから、今までと同じ接し方をする必要もないのですわ。最初は、つい今までと同じ接し方をしてしまいましたが……」

「つまり、両親にもエイミーやその一家には悪い扱いをしろと言われていたの?」


 エイミーは、申し訳なさそうな顔をしながら答える。


「そう……ですわ……」

「貴族社会だとそういうこともあるのか」


 ティナの方を見てみると、驚いた表情をしていた。

 恐らく、ティナはエイミー自身の意志で自分に対して良くない扱いや接し方をしていたと思っていたのだろう。

 だが、実際は親から言われていたのだという。


 もちろん、貴族社会で、エイミーの家系は上級貴族で、ティナの家系は下級貴族なのだから少しは自分の方が上という考えもエイミーには会ったのかもしれない。が、それを行動に移させたのはその両親ということになる。



 この世界にはエイミーの両親はいないのだから、今までと同じ接し方をする必要はない。

 これからはエイミー自身の意志で行動していけるんじゃないかな。


 俺は過去がどうだったであれ、二人には仲良くいてほしい。


「それより、それはなんですの?」


 そう言ってエイミーはティナの来ている服に指を差した。

 やはり、異世界にはこのような服はないのだろう。エイミーもティナと同じくこの世界のファッションに興味があるようだった。


 ティナは今日買ってきた服を取り出し、エイミーに見せる。


「これは、この世界の衣服です。璃空に買ってもらいました」

「これが、この世界の衣服なのですね。とても素敵なものばかりですのね」

「はいっ」


 ティナが取り出した服などを見ながら、エイミーはとても羨ましそうにしているようだった。これはどうやらエイミーにも買ってあげる必要がありそうだ。


「流石に今日はもう買いに行けないけど、明日買ってあげるよ」

「本当に?!」

「うん、本当だよ」

「ありがとう、璃空!」


 買いにいくのは明日になるので、それまでは別の服を貸してあげたいがクローゼットにまだ優香が忘れたいった服があるかどうかまだわからない。

 なかった場合は俺の服を貸すことになってしまいそうだが、どうしたものか……。


 ん?

 というか、ちょっと待ってくれ。


 このままの流れで行くと、エイミーもこの家で一緒に暮らすことになるよな?

 さすがに異世界から来てこの世界に家を持っているはずもないしな。


「どうしたのですか?」


 考え込んでいる俺の姿をみたエイミーが心配そうに声をかけてきた。


「いや、エイミーもこの家で暮らしていくよね? と思ってさ」

「はい、璃空が良いのであればここで暮らしたいと思っておりますわ」

「俺は良いんだけど、エイミーは良いの? 俺は今日が初対面の男だよ?」

「良いに決まっているじゃありませんか!」

「そ、そうか」


 つまり、俺はティナとエイミーの二人と一緒に暮らしていくことになるのか。

 まあ、二人ともこの世界に住む場所はないのだから、仕方ないよな。


 そういえば、エイミーはここが元いた世界とは違う世界――異世界ということに何の違和感も持っていなかったよな。それは、どうしてなのだろうか。


 気になった俺は直接聞いてみる。


「そういえば、エイミーはここが元いた世界とは違う世界だってことは気づいているよね?」

「はい、もちろんですわ!」

「違和感とか感じなかったの?」

「あー、それには理由がありましてよ」

「理由……?」


 やはり、エイミーはここが元いた世界とは違う世界だということに気が付いているようだ。それに対して驚いている様子はない。

 そうやら、それには理由があるようだ。


「私はティナがどこかに転移された瞬間を偶然目にしまして、それでティナの家のメイドに頼み込んで私もここに転移させていただきましたわ」

「でも、ティナが転移してきてから結構時間たってから来たよね?」

「どうやら、転移魔法は連続で使える魔法ではないようで」

「そういうことだったのか」


 これで理解した。

 偶然、ティナが転移させられる瞬間を目撃して、エイミーも転移してきたのか。

 その時に、ティナの家のメイドにどこに転移したのかも聞いたのだろう。


 ティナの家のメイドはティナを逃がすために転移させたはずなので、どうしてエイミーの頼みをすんなり聞き入れたのか、と疑問にも思ったが、よく考えてみれば上級貴族令嬢の頼みを断ることなどできないか。


「まあ、改めて二人ともこれからよろしくな」

「「こちらこそよろしくお願いします」」


 こうして俺はティナとエイミーという異世界から来た貴族令嬢二人と一緒に暮らしていくことになった。


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転移してきた異世界令嬢に惚れられて同棲することになったのだが、なぜか悪役令嬢まで来たみたいです。 夜兎ましろ @rei_kimura

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