🌌🐈‍⬛宇宙ねこ日本に向かう🛫

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

全一話 猫をかぶろう!

「自己紹介をするんだな。ぼくは宇宙ねこのユーリ・タチネンコなんだな。なんとか日本に連れて行ってほしいんだな。ちゃんとお礼もするからお願いなんだな」


 二本足ですっくと立っている黒猫が右の前足をこちらに差し出してきた。握手をするつもりらしい。その手をカズマたちは順に軽くつまんだ。


「おお、ユーリの手って肉球でぷにぷにやな。ボクは山本カズマや。よろしくな」


「瀬田チカよ。よろしくね。どれどれ、あたしにも肉球触らせて~」


 チカはユーリの肉球を触りまくってその感触を楽しんでいる。


「どうぞどうぞなんだな。それくらいで日本に行けるんならお安い御用なんだな」


「いや、それとこれは別やで」


「そうね、生きているネコやイヌは簡単に海外から日本に持ち込めないのよ」


「知り合いが苦労しとったで。まず獣医さんにお願いしてイヌなりネコなりにマイクロチップを埋め込んで、それから狂犬病予防接種を2回やって、次に狂犬病の抗体検査やって」


「ぼくはマイクロチップも注射も血液検査も痛いから嫌なんだな」


「でも、それがルールだから」


「その後入国まで180日の待期期間があるようにして、なおかつ到着40日以上前に事前にイヌなりネコの持ち込みの届けを出して、出国する国のもろもろの証明書をそろえて、ヤット飛行機に乗せられるんや」


「ぼくは急いでいるんだな。それじゃあ困るんだな」


「そんでもって日本についたらまた検査や。ボクらたかだか一週間ほどの日程の旅行者やし、仕事もあるからそんなに時間かかる手続きは無理やなあ」


「そうねえ」


「そんな面倒はしなくていいんだな。むしろしちゃいけないんだな」


「なんでかな?」


「ぼくはこの星のねこ型生命体じゃなくて宇宙ねこなんだな。手続き通りにやってバレたらやばいんだな」


「それもそうやな」


「捕まってきっと取り調べられたり研究材料にされるんだな」


「ありえるわね。それもかわいそう」


「それに、もしぼくが無事に帰れなかったらこの星も困るんだな」


「どういうことや?」


「ぼくは銀河連邦の使者なんだな。ぼくが無事に帰らないと、この星は銀河連邦と戦闘状態になるんだな」


「「マジですかあ?」」


「まじなんだな。そうなったらギッタンギッタンにされるんだな」


「地球の危機じゃない!」


「その表現やと緊迫感ないけど、やばいっちゅうことはよ〜く伝わったわ」


「だから、こっそり日本に連れて行って欲しいんだな」


「でもどうやって」


「せやなあ」


、あれを使えばいいと思うんだな」


 宇宙ねこのユーリは古本屋の向かいの店を指差した。


「「あれかあ」」


 そこには世界的に有名な日本生まれの白いネコ型キャラの大きなぬいぐるみが飾られていた。


「ぼくはあの中に入ってぬいぐるみのふりをするんだな。抱いて持ち帰って欲しいんだな」


「文字通り、ネコが猫をかぶるのね」


「うまい! 座布団一枚」


「なんだな」












タイ🇹🇭発日本🇯🇵行き国際線の機内✈️


「あんなあ。なんでボク、ええ歳こいて白いネコちゃんのぬいぐるみを抱えて飛行機にのらなアカンねん。絵面えずらがイタ過ぎるわ」


 機上でカズマがぼやく。


「同感なんだな。ぼくもチカさんに抱かれていた方が柔らかくて居心地いいんだな。カズマの身体は硬いからちょっと痛いんだな」


「イヤよ。ユーリはすぐにあたしの胸を揉みたがるから」


「このスケベネコが!」


「そうは言ってもあれはウールサッキングと言ってねこ型生命体の本能なんだな。リラックスして安心したときについつい出てしまうんだな」


「ならなんで、ボクの胸は揉まへんのや! このエロネコ魔人!」


「ウールサッキングは、ねこ型生命体の子供がおっぱいを飲むために母親の胸を押していたことの名残りなんだな。チカさんの適度な弾力と柔軟性のある胸は最高なんだな」


「まあ、最高だなんて」


「喜ぶなや」


「カズマに抱かれても硬くてリラックスできないんだな。それにガチムチな大胸筋を押してもサンドバッグを相手にしてるみたいで全然楽しくないんだな」


かとうて悪かったな! ホンマわがままなやっちゃ」


「ごめんなさいなんだな。それより今ちょっと問題があるんだな」


「どうしたの?」


「トイレに行きたくなったんだな」


「「マジですかあ!」」


「まじなんだな。お願いだから、トイレに連れて行って欲しいんだなああ!」


「カズマ! 早くトイレに連れて行ってあげなさいよ」


「アホやろ! ボクにこの飛行機の中、白いネコちゃんのぬいぐるみを抱きかかえてトイレに入れっちゅうんか!」


「カズマが抱えてんだから、あんたが持ってかないでどうするのよ!」


「ボクにトイレに入るときまでぬいぐるみを手放せないかわいそうなあんちゃんになれ、言うんか!」


「仕方ないでしょ!」


「わかったんだな。じゃあぼくは自分で歩いてトイレに行くんだな」


「いや、それもっとアカンやつ!」


「そうよ! ぬいぐるみが歩いたらダメでしょ!」


「でも、そろそろ限界なんだな。是非に及ばずなんだな」


「ああもうええわ! ボクが連れてったる!」


「恩に着るんだな。日本に着いたら二人にはお礼をするんだなああ!」


「ありがとうね」


「そんなんええから、漏らさんといてな!」


 日本までのフライト中、身長185センチのガチムチなカズマが、大事そうにキティちゃんのぬいぐるみを抱えて機内のトイレに何度も向かうそのシュールな姿は、後々まで人々の語り草になったのであった。


「なんでこんな目に会わなならんねん! ホンマもう勘弁してほしいわ!」


「カズマ、どんまい!」


「でも助かったんだな。ありがとさんなんだな」

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