九十九 千尋の場合


「今回のKACのお題は『はなさないで』か」


 趣味で小説投稿サイトカクヨムに投稿を始めて早数年。老若男女溢れる様々な人が書籍化するこの小説投稿サイトで、僕は鳴かず飛ばずの三流物書きである。

 主にファンタジー作品を書きたいのだが、趣味がホラゲ実況動画鑑賞ということもあり、気が付けばホラーの作品ばかりを書いている。伝奇とか民間伝承、民俗学とかチョー好き。なのだけど、どれも週間ランキングは芳しくなく、PV数も多くない。まあ……ツイッターとかで作品の宣伝、サボってるもんなぁ。僕には全体的に勤勉さ、さが足りないと、最近個人Vtuberの人のまめなファンサを見て学んだところである。


 そんなまめさが足りないと自覚があるサボり魔な僕だが、KACには参加したいと思っている。作品や作家の知名度を上げるのにKAC、カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップは有効だと考えているからだ。カクヨム運営が定期的に開催する「短期間でお題に合わせた小説を書く」このお祭りは大変なのだけど、横のつながりも増えるし練習にもなって一石鳥かの効果があって、できうる限り参加……できてないことも多い。

 そうして、今回のKAC2024にも参加して早五回。

 今回のお題はかなりホラー向けだな、と……さっそく僕はネタを集めるためにネットの広大な海へ漕ぎ出した……という名目でサボり始めた。基本的に僕の書き方は「振ってきたのをキャッチしてこねくり回すスタイル」なので、降ってこないことにはそもそも自分が納得できない。


 とはいえ、今回はなかなか降りてこない。……嘘です、毎回降りてこない。

 今回のお題は「はなさないで」なのだから、例えばホラーな現象に合っている男が恋人の手を離さずに走り続けるも彼女の手を掴んでいるわけではなかった話とか……いや、定番でありきたり。何より過去にそういうホラーノベルゲームがあったはず。あのホラゲ、怖くてやってないです。あるいはお題を「離さないで」ではなく「話さないで」とすれば、語ってはいけないホラーの話などになるだろうか。例えば聞くだけで呪われる話など……これもまた定番だ。そして肝心の“話してはいけない内容”はまた決めねばならないだろうし、そこに毎回悩んでいるのだから、また締め切りギリギリまで苦労する未来しか見えない。というか他の作品も書けいい加減に。固定読者を逃しては元も子もないぞ。


 とはいえ、語ってはいけない「話さないで」の方向で考えてみることにした。が、そうすると都市伝説に毎回のツッコミが脳裏を過ぎる。

 世の中に「聞いてはいけない」系のホラー話は多くあるが、その話はどうしてネット上にも転がっているのだろうか? 例えば、聞いただけで死ぬような内容の怪談であれば、語り手はあの世から語っているでも無ければ説明はつかない。言わずもがな、創作が故に、ということなのだ。

 しかしそうとなると、「はなさないで」を「話さないで」と解釈して語ってはいけないホラー話などにして、果たしてそれは恐ろしいのだろうか? ……いやそこは文才次第じゃねぇかなぁ、などと身も蓋も無いことを思う。あと、ホラーで怖い思いをするの、実はとんでもなく苦手なので、ホラー物を書くくせに‟創作故の安心感”って大事だと痛感している。創作のホラーとリアル体験のホラーはちげぇよ!?


 そういえば……作業をサボっている最中にあるホラー漫画のことを思い出した。その漫画が作中で、とある作家の話を取り上げていた。「その作家は小説中に作家本人を出し、日本各地で調べた怪異怪談話を『作中で作家の家の周辺で怪異が起きたこと』として書いて出した」らしい。

 ホラー漫画での説明では、「その作家の家の周囲で本当に怪異怪談が発生し、ついには作家は狂い死んだ」のだとか。そこでその漫画ではそれに倣い、みんなのホラー体験談を募集し、それを漫画に書き出す“作者”を作中で描くことにより「あえてそうして大衆の怪談をまとめて作中のキャラクターと化した作者の分身を呪うことで厄除けとする」というコンセプトで書かれていた。めっちゃ怖かった。二重三重の入れ子構造の中に作者を模したキャラクターを囮にすることで、本当の作者に呪いが降りかかるのを回避するという防御方法? らしい。

 困ったことに、ここで降りて来てしまった。


 すなわち、語ってはいけない話「話さないで」とはこれのこと……実在する怪奇現象の引き寄せ方というわけだ。


 作中に実在の怪異怪談の類を登場させ、しかもそこに実在の人物を虚実織り交ぜて登場させる。すると、作家の周囲ではマジの怪奇現象が発生する。つまり、が書けるということになる。

 おバカ! これはいわば、自身を呪う行為にあたるじゃないか! 呪いを舐めるんじゃあないよ!! 民間伝承と伝奇、神話悪魔学を学んでオカルト話を探って量子力学や心理学を少しでもかじってればこんな恐ろしいことに手を出そうって言う発想がまずもってホラーだよ! お風呂で頭洗えなくなるし夜中に一人でお手洗いに行けないよ!!

 件の作家はホラー作家だというのに心のどこかでそういう目に見えない、実在も疑わしい、科学的に証明できないが……しかしことを信じなかったんでしょう……合掌。

 だが僕は違う……普通に怖い。今までは運が良かっただけだ。ホラー話を書いても怪奇現象に合ってないか、あるいは視えなかっただけだ。ホラーはフィクションに限る。なんだったらホラージャンルでほのぼのした作品を書きたい。僕は堅実に……ファンタジー作品で書籍化して左うちわ生活したい。



 というわけで、このひとつ前の話の「俺」と僕は無関係であるという証明をもってして呪い避けとするところまで倣って、この作品を閉じようと思う。



 ……これ本当に大丈夫?

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呪物の作り方 九十九 千尋 @tsukuhi

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