第11話『鬼ごっこ』

「おはようございます。張間さん。八重咲さん。」


 ただいま俺は入院してるわけなんだが。

 そこで知り合った彼方さんと院内でばったり出会ったわけだ。


「おはようございます」


「おはよう。」


 あれは2日前のこと...見舞いに来てくれた圧樹を見送った時のこと、その時にちょうど入院してきたのがこの彼方さんなんだ。


 ここで少し彼方さんについて説明しておこう。

 密陀僧の色をした髪に整った見目、二重の切れ目の、いかにもクール系という見た目をしている。

 魔法が得意なのだが、体が弱いのもあって今回はなにやら魔法の使いすぎで倒れたらしい。

 持病もあってか少しの間入院するそうだ。


「体の調子はどうですかね。」


 俺がそう聞くと穏やかな表情で返事をしてくれる。


「はい、かなり良くなりましたよ。」


「それは良かったですね。」


「お二方こそ、お体の調子はどうですか?」


 俺は正直この数日でかなり良くなっている。


「まあ生活する上で困らない程度には回復してますね。」


 実際そうなのだ。生活する上では困りはしない。

 正直言うと最近、マナが取りにくいというか、とにかく魔法が使いにくくなったのだ。

 特に炎属性。


「俺はたまーに腕が疼くな。」


「おい厨二病ェ」


「厨二病じゃねぇわ!」


 そんな俺たちのやり取りを微笑みながら見ていた彼方さんはいきなりこんな提案をしてきた。


「じゃあ今日外に出て鬼ごっこでもしませんか?」


 鬼ごっこ、そんなワードが出たのは実に3年ぶりだ。

 いや中学入ったらやる時間ないんだよ。


「鬼ごっこ···か。」


「いいんじゃねえの?久しぶりに運動でもした方がいいと思うぞ。」


 いやまあそうか···?


 ということで俺が悩んでる間に2人は勝手に話を進め、昼から鬼ごっこをすることになった。

 ​───────

 女、光ヶ丘彼方は退屈していた。

 その理由は病弱だったからでも、今入院しているからでもない。

 ただ1つ。


 周りが遅いことに退屈していた。


 そう、彼女は速すぎた。

 彼女の固有魔法は『光速』

 書いて字のごとく光速まで動くことができるというもの。

 これは微量ながら魔力がある限り常時発動する。

 つまり、常に速いのだ。


 もちろんそれは彼女から見れば周りが遅いことに他ならない。

 それは常にストレスを抱えるということでもあり、病弱な体にさらに負担をかけた。


 唯一、周りと同じように過ごせるのは魔力を練らない、つまり、衰弱している今のみだった。

 ───────

「じゃ、始めましょうか。」


 病院の敷地内にある広場にて集合した俺たちは、鬼とかなんやらを決めて開始した。


 ジャンケンの結果、彼方さんが鬼。そんでもって範囲はこの広場。


「30秒待ちます。」


 正直俺らはこの時彼方さんを舐めていた。

 今までか弱い姿しか見てないのもあるが、何より雰囲気が運動でき無さそうだと勝手に思っていたからだ。


「...3、2、1」


 そんな思い込みは、このカウントダウンと共に打ち砕かれる。


「0」


 カウントが終わった瞬間、彼方さんは動き出した。

 と感じ取るまもなく、真横を弾丸が走った。


「おっと、危ない。」


 気がつくと俺の真後ろにその弾丸の正体、彼方さんはいた。


 はっ...えええええええええ!


「危うく広場から出るところでした。久しぶりだとなれませんね。」


 そんな姿に唖然としていると彼方さんは少し笑って


「驚きました?」


そう言った。


「じゃあ気を取り直して始めましょうか。」


この後俺は地獄を見ることになる。

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gravity tension さぼてん @saboten33

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