リハビリ編
第10話『ありがとう…か』
「これは…なかなかに酷いな。」
1人の女性はそんなことを呟きながら、2人の少年の容態を見ている。
(腕を欠損に身体中の打撲…もう片方の少年はどうやったらこんなことになるんだ?)
静かに眠っているふたりの体を静かに見ている彼女の名は
「…そこの君」
近くにいた職員に声をかけ、直ぐに病院へと運ばせる。
(これは…私でも完璧に直せるか分からないな。)
そんな不安を抱えながら、彼女は治療へと向かった。
───────
「…」
ただ明るく、眩しい陽光で目が覚める。
「お、起きたか」
見慣れない天井に困惑していると、横から聞き覚えのある声がする。
「量弥か」
「そうそう、その量弥」
彼の所へ首を向ける前に少しばかり周りを見る。
「俺ら、相当重傷だったらしいぜ」
俺の様子から察したのか、量弥はそう教えてくれる。
「なんでも、国でもトップレベルのヒーラーが来たとか何とか!」
「…」
今は、量弥と話す気にもなれない。
「はぁーあ、お前さ、無視すんなよ。」
「大体な、いきなり飛び出してどっか行ったかと思えばめちゃくちゃ重傷で運ばれたらしいじゃねぇかよ。」
「俺も結構不安だったんだからな?ある意味一番の被害者俺だからな?」
好き勝手言いやがってこの…
「っ〜〜るせぇな!お前だってちゃっかり重傷で運ばれてんじゃねぇかよ!」
「いやまぁそうなんだけどな?」
そんな会話をしていると、それに割って入るように1人の女性の声がした。
「その通りだ、君たち。」
俺たちはほぼ同時に声の主へと振り向く。と、同時に怪訝な顔になる。
「驚かせてしまったようなら謝礼を詫びる。」
声の主は超絶クールビューティーお姉さんだったのだ。
「…え、だれ?」
俺はついそんなことを呟く。
「ああ、すまない。自己紹介がまだだったね、私の名前は癒月 優華。今回の治療を担当させていただいた。」
「…その癒月さんがなんの用で?」
「君たちがこうして仲良く喋っていられるまで回復したところを見に来ただけだ。」
「それと、ひとつ、伝えなければいけないことがあってね。八重咲君は左手の、張間君は右手の袖をまくって欲しいんだ。」
そう言われ、俺は右手を見る、起きた時から違和感を感じていたため多少の覚悟は出来ていたが、手の甲から二の腕にかけて、そう、あの時俺が炎を纏わせたところが赤いアザのようになっていた。
量弥の左手を見ると、肘窩の辺りを一周するようにして傷ができていた。
「っおお」
「…マジか」
思い思いの感想を口にすると直ぐに癒月さんが喋り始めた。
「すまない、手はつくしたのだが、どうしても完全に治すということは不可能だった。特に重大な後遺症が残る訳では無いが、少なくとも無理はしない方がいい。」
これは、なかなかにきつい傷だな、量弥はともかく、俺はこれかなり目立つんじゃないか?
そんなことを考えていると、量弥はそっと口を開いた。
「…まぁ、後悔はしてねえけどな」
後悔…か。
正直俺はあんな目にあうのは二度とゴメンだし、妹の圧樹を守るためとはいえやりすぎたとは思っている。
「…それはいい事だ。」
癒月さんは少し難しい顔をしてそう言った。
彼女自身も褒めていい事なのか分からないのだろう。
「ま、でもどうせ白魔を目指す以上こんくらいは覚悟しないとな。」
「驚いた、白魔志望なのか。」
白魔、という単語が出た途端、癒月さんは目を丸くしてそう言った。
「そうなんすよ、白魔はやっぱ進学率も、レベルも高いですしね、何より俺は開拓者になって、世界を見てみたいですから。」
量弥はやっぱそうなのか、まぁいつもなりたいなりたい言ってたしな。
白魔学園、それは一流の高校であると共に国内有数の開拓者育成機関でもある。
白魔に来るやつの半分はその開拓者志望なのだ。
「…それはいい夢だ。是非とも白魔に来てくれ。」
「それはそうと、張間君、君は白魔を受けないのか?」
突然何を言い出すかと思えば、この方は何を言っているんだ。
「どういうことですか?」
「いや、てっきり君も白魔を目指しているものだと思っていたのだが…」
白魔を目指さないのか…か。
「……」
正直偏差値は頑張れば全然足りるとこだと思うし、目指してみるのも悪くないかもしれない。
けど、なによりも学費が高い。
安くしてもらうことも出来るが、そのためには例の開拓者課に入らなければならない。
そして正直、俺はもうあんな目に遭うのは御免だと思っている。
「まあ私も無理に聞こうという訳では無い。ではそろそろ行かせてもらうよ。」
「さようなら。」
「また会いましょー!」
別れの言葉を告げ、俺らは彼女を見送った。
しかし、最後にあの人が残した言葉が、ずっとこだましている。
───────
「そうそう、最後に、張間君。君が戦っている様子を見た生徒たちから伝言が届いているよ、『助かった。ありがとう』だそうだ。
選ぶのは君の自由だが、私は君には開拓者が天職だと思うよ。」
───────
ありがとう…か。
思えばあの時だけじゃない、度々体が勝手に動いて助けに行こうとすることもあったな…
正直俺は自分が傷つくのは嫌だ、けど、それ以上に。知り合いが傷つくのが嫌なんだな。
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