その後……
「姉さま、おはよう」
若君はいつものように襖を開けて、姫君の部屋に入ると、彼女の体を抱き起こす。
「あぁ、ごめんね。私が来るのが少し遅かったね。冷たいし、気持ち悪いでしょう?今すぐ、体を
すぐに手拭いとお湯を用意した若君は、手づから姫君の体を拭う。
もう、いつものことなので、慣れた手つきで若君は姫君の体を拭い終えると、自身がいつの日かに贈った着物を彼女に着せた。
若君自身が用意した食事を、姫君の口元に運んでやれば、彼女はそれを口に含み、飲み込み、喉を通り、腹の中におさめていく。
その姿はまるで
若君にされるがままになっている姫君は、恥じらいや
雛鳥のようになった姉を見て、心の底から嬉しそうに微笑む弟。
姫君にとって、自身のために、甲斐甲斐しく世話をする若君。
最愛の姉のために甲斐甲斐しく接する弟。
それは今までも同じだったと思うから。
ただ、毒が強く回った姫君は死は免れたが、首から下の体の一切の自由を失った。
姫君が数日の長い眠りから目を覚ました時。
弟は言った。
「今までと何も変わらないよ。私が姉さまのお世話を全てしてあげる。私が、父上やお母君に代わって姉さまを守ってあげる。食事も、
屋敷の奥の部屋で目を覚ました姫君は、弟のその言葉に恍惚に微笑み、頷いた。
それからは、これが姫君の暮らしとなった。
今となっては誰が毒を食事に混ぜたとか、今この屋敷がどうなっているのかなんて興味もない。
変わらない日常。
平行線の日々。
普遍的な関係。
その終わりは永遠にやってこない。
もはや、この二人しかいない浄土のなか、その二人しかいないこの屋敷では。
「ずっと一緒だよ。姉さま」
互いに離れることなどできない。
この感情が愛情でないなら、何を愛と呼ぶのか。
この愛情が恋情でないなら、何を恋と呼ぶのか。
「この手を離さないで……」
そこには弟がいなければ生きていけぬ姫君と、体の不自由になった姉を恍惚の表情で支えている若君の姿があった。
その表情はとても幸せそうで、あぁ、
猛毒を喰らわば、あなたまで うめもも さくら @716sakura87
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