番外編 迷えるネズミの王①

 日本の大都市の下水道に住む、長命の大ネズミ。


 彼はネズミの世界では尊敬される傑物で、「夢見るネズミの王マイケル」と讃えられる存在だ。


 彼は異世界ドリームランドへ渡る力を持ち、複数の呪文を使えるだけの魔力を兼ね備えていた。


 冒涜的な生物であり、非常に残忍な嗜好を持つマイケル。


 その反面、仲間思いな所があり、長きにわたって弱き仲間を庇護してきた。


 人類と共存する道を選んだ獰猛な野獣――あの憎き猫どもから隠れ住むようになったネズミの歴史は、苦難の連続だった。


 それでも、マイケルの助けを支えに、陰ながらささやかな幸せを享受してきたネズミたちだったが。


 近年になり、状況がガラリと変わってしまった。


 マイケルの力をもってしても、飢える仲間を十分に満たせなくなりつつあるのだ。


 このことに、マイケルは強い不安を感じていた。る。


 現代社会には、ネズミたちが安心して暮らせる場所がほとんど残されてない。


 山は年々削り取られて狭くなっていき、実を付ける植物が激減してしまった。


 食糧を求めて人里に下りれば、ドブネズミなどと害獣呼ばわりされた挙句、殺鼠剤、罠、猫により一方的に虐殺される。


 もはやネズミたちにとって、この世界のどこにも安住の地などないのだ。


 と、マイケルが種族の未来に思いを馳せながら、下水道の通路をトボトボと散策していたところ。


 願ってもないチャンスが舞い降りたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

消えた店主(猫、飼い主を捜索する) なみっち8 @namicchi8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ