第32話 四姉妹のイベント 11 各々の楽しみ方
会場の即売会のブースを荷物を抱えながら夏葉は進んでいく。
オリジナル立体系の即売会を目当てにしていたのだが、所謂ディラーダッシュまで仕掛けて己の欲望に忠実に動いたが、今日のイベントが終われば姉の叱責が待ってるだろうなあと少しクヨクヨしている。
瀧家の長男、夏葉は所謂オタクである。
高身長、体格も良く、顔つきも端正だがオタクである。
最近は妹の雪に内情がバレ、末の妹季璃もコスプレネタの提供をせがんでくる状況である。
本人は巧みに隠したつもりだったが、割とバレバレだったのが軽いショックだった。
六畳の部屋を二つぶち抜いて確保した自分の部屋は、模型制作ブースと今までの戦利品が犇く魔窟となっていた。
バレないように少し離れたところに有料のコンテナ倉庫を借りていたが、妹たちにバレたのなら裏のスペースにコンテナ倉庫を増設しようかと考えていた。
そうぼんやり考えながら戦利品を抱えてヨタヨタ歩いていると見知った二人が、ミリタリー系のブースであーだこーだ言い合っていた。
「二十一型の翼端の形状はこれであってるっす」「そうか?もう少しエッジが効いてたと思うが」堀と清澤のやや言い争うような声が聞こえた。ブースの主も困った顔をしていた。
「清澤さん、堀さん」「…夏葉か」「おつかれさんっす」「どうしたんです?」夏葉が間に入ったが、美少女フィギュアのキットを抱えているので奇妙な状況になっている。
「いやね、オレと清澤さんと」堀はひたさし指で地面を指した。「こことどれだけ関わったものに食い違いがあるか見てたんっすよ」夏葉はそのブースにあった古い戦闘機の模型を見た。夏葉にはよくわからなかった。
堀はブースの主からその戦闘機の模型を購入した。
「ところでどうしたんです?今日は」「社長のお供っす」「佐倉がここにくると言ったからな。俺たちは足だ」夏葉は頷いた。
「で?佐倉さんは?」そう聞くと二人は肩をすくめた。
「何やってる?」「…これはこれは…というか、何をしているとはこちらの台詞」佐倉はエリカと共に女性向け同人誌を扱うところに来て、そのスペースで自身の親友であり宿敵である人物と、道を別れた妹が居たことでそう聞いた。
「クォージの希望に沿っただけですよ」白いスーツを隙なく着こなし、貸し出された折り畳み椅子を豪奢な玉座のように座る金髪、碧眼の男、タイロンは優雅に微笑んだ。
周囲に居る本を物色している幅広い年代の女性達が彼をうっとりと見ていた。
そして彼はエリカの兄でもあった。
そのエリカは黒いゴスロリ調のドレスを纏ったクォージ…佐倉、ザグリュイレスの妹だ…彼女の作った同人誌の見本誌を丁寧にパラパラと捲っていた。
「…スゴイ…これをクォージ様が?」「…えぇ…いかが?」「既刊と新刊全部いただきます」妹の思い切りの良さにタイロンは肩を竦めて、ため息を吐いた。
「この世界の文化は歪んでると思いませんか?ザグリュイレス」「多様性が保証されているのは良いことだ。タイロン」親友であり、宿敵は顔を合わさずにそう言い合い、互いのパートナーの自由にさせていた。
「…ところで、新たな風呼びはかなり歪なようですね」「貴様がそれを言うか?」憂うように言うタイロンに佐倉は平素な表情で言う。
「いえ、これでも私は心配しているのですよ」タイロンは目を閉じて言う。「…秋華にそれを言えば恐ろしいことになるぞ」佐倉はため息を吐いて言った。「…肝に銘じておきます」タイロンは少し嫌な顔をして頷いた。
その間、互いの連れ合いは本の内容の感想と次回作について盛り上がっていた。
搬入口の入り口付近に敷物を敷いて座り、春菜はキッチンカーで出店しているお店で売られている大きめの三種チーズ盛りピザを食べていた。
横では季璃が敷物の上でキチンと正座してクロワッサンにハムとチーズを挟んだサンドイッチを幸せそうに食べていた。
春菜はピザを手早く食べ終わって、アイスラテをストローで啜った。
コスプレ衣装の売り上げは上々どころか速いペースで商品が減っていった。
現在は落ち着いて来たので遅めの昼食を摂っている。
先に双子に食事を摂ってもらい、今は春菜と季璃の順番だ。
食べ終わってひとこごちつくとふと空を見る。
「いいおてんきだね!」ふと見ると季璃も空を見てニコニコしていた。
「…そーだねー」春菜はそうのんびり言って、体育座りの状態から後ろにでんぐり返り、両手を頭の下に付けて思いっきり手足、身体を伸ばす。
春菜が着たコスプレ衣装の裾がフワッと音を立てたと思ったら五メートルほど飛び上がっていた。
そのまま体を捻る、二回、三回、五回転して両足を揃えてピタリと着地した。
「すごい!はるなちゃん!」アンドロイド姿の季璃がパチパチと拍手した。
「…さ、休憩終わり!がんばろか」「うん!」
「…っち…完全マークされてたわね…」会場の隅、目立たない場所でナヴィ・ガトリは毛染めの茶髪が伸びて地毛が中途半端に生えたのでプリン模様になったボサボサの髪の毛をガシガシ掻き、豹柄のトレーナーにピンクの猫のキャラクターのスウェットのズボン、ラメ入りにくたびれたサンダルという格好でしゃがみ込んでいた。
「あそこのコスプレ衣装なら転売で儲けれるのに…」ナヴィはラメ入りに過剰デコレーションしたスマホを器用に操ってメールを確認していた。
「…吝いねぇ…」溜息を吐くと配下の連中に撤収準備を指示した。
ナヴィ・ガトリは立ち上がるとブツブツ言いながら用済みの会場を後にし、同時に数十人の部下も撤収した。
春菜たちがスペースに戻ると少し落ち着いた空気になっていた。
見れば商品もだいぶ減っており、争うような感じでは無かった。
その証拠に雪が旧海軍の制服を着込んだオジサンとポーズを取って舞が楽しげにオジサンのスマホで撮影していた。
ただ、オジサンは楽しげだが、雪は無表情ながら面白く無いというオーラが出ているのに気づいた。
チラチラと視線を動かす先は、晃が着ているシリーズのコスプレをした女児が、晃との写真を母が写しているところだったが、その後ろには少し年上や同世代の女子も待機していて、雪は気が気じゃなかったようだ。
「雪―こっち見ろー」ニヤニヤ笑いながら舞が預かったスマホで撮影した。
「わあ!しゃしん?!きりちゃんもー!」季璃がユサユサプリンプリンと写真を撮っているところへと走っていった。
突然子供っぽいグラマラスな女性が胸とお尻を揺らせながら駆け寄ったのだ。
男性客が驚いて半分出てる季璃の胸を凝視していた。
「お客さんの要望でね、戻ってきた夏葉のケツ叩いて許可貰ってきたんだよ」姉が面白そうな口調で春菜に話しかけた。
「… 大丈夫なの?」「ま、いいんじゃない?」そんなものかと春菜が思っていると、母がこちらを見て手招きしていた。
「行っといで」「ヒャン!…もう…」冬菜は春菜のお尻をパチンと叩いて、春菜の着ているコスプレの作品の人たちが集まってる所へと小走りに向かっていった。
次の更新予定
咲き誇る世界 風の四姉妹 初瀬 方貞 @teioh-hase
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