第31話 四姉妹のイベント 10 イベント開始と大盛況

会場の館内放送がイベント開催をアナウンスした。

「…で、結局どういうイベントなの?フリーマーケットとは聞いてるけど…」春菜は雪に聞いた。

存外こういう事に詳しい妹なのだ。

「…正確にはフリーマーケットでいい…ただ、別会場では同人誌や立体物も売ってる…うちも佐倉さんの伝手で権利的に危ないやつも扱えるように…」しれっととんでもないこと言いつつ、普通のイベントでは無いようだと春菜は理解した。

そうしているうちに入り口からはゾロゾロと人が入って来た。

「…春菜姉さん」「なに?」「言い忘れてたけど」「うん?」「…コスプレ衣装の販売、ホームページで告知してたら反響がすごい事になってそう…」自分のスマホを見ながら雪が顔色を悪くしていた。

「え?どうして顔色悪くしてんの?」晃が慌てて聞いた。

「…ホームページで告知したのが四日前…金曜日の夜から今朝まで私たち意識失ってた…だから開催前にチェックしたら…」しどろもどろで説明する雪の声に被さるように、大人数が近寄ってくる気配を春菜は感じ、それを目の当たりにして唖然とした。


保護者から「会場まで電車でおいで。社会勉強だよ」の言葉と三万円を渡された新は、最寄駅から散々電車を乗り継いで海に近い会場まで来た。

生真面目に交通費と食事だけのつもりだったが、金の使い方も覚えろと言われて会場で買い物をしようと思った。

あと一つのルールは四姉妹と出会わない事だった。

既に開場していたイベントのパンフレットを不機嫌そうな表情で見て、本でも見るかと思い別の施設で行っているコミックフォレストの会場へと向かうが、中に入ると異様な熱気に不機嫌そうな表情を更に強くした。

遠目で見ても何の本を売っているのか判別がつかなかった。

会場のパンフレットを見ると、十八歳以下禁止のエリアがあったりする。

そして異様な熱気を帯びている場所がちょうどそこだった。

自分の年齢を考えて、新はそこを不機嫌そうな顔で離れた。

そう考えると何処へ行けばいいのか?悩んで保護者が参加しているところを遠くから覗いてみようと思い立ってパンフレットを見た。

「一番大きいところか…」そう呟いてパンフレットを無造作にポケットに捩じ込んだ。



「この衣装、もう一つ大きいサイズはありますか?」「アサランの制服ってあります?」「闇執事の衣装ちょうだい!」開店してからお客はひっきりなしで来ていた。

ラインナップを見て驚愕し、興奮して物色するお客さんが多かった。

購入者の大半は女性八割という感じだった。

「おねえちゃんとおなじのであたしにきれるのはありますか?」小学校に上がる前の小さな女の子が晃に聞いて来た。

「ちょっと待って!お母さん!あたしの衣装でこの子のサイズある?!」「はいはーい。…うんあるわよ!舞ぃー!」晃が示した子を見て母の秋華は舞を呼んだ。

「あいよー」「十二番の箱持って来て。晃、ちょっと待ってもらって」「はーい。ちょっと待ってねー」「うん!」

今度は雪が話しかけられた。

「軍艦娘の衣装で、巡洋艦とかある?」「…軽巡、重巡ある…これがかたろぐ…」雪がポケットに入れていた紙を渡すと話しかけた女性グループが貪るように見始めた。

春菜と季璃はそれぞれの手伝いで、あちこち動く。

春菜がチラリと季璃を見ると布がはちきれそうな胸があたふたと動くたびにプルンプルンと上下する。

ふと周囲が視界に入ったが、みんな季璃の胸が気になっていたようだ。

「春菜―?これ出しておいて!」姉の冬菜の呼びかけに、「はあい」と返事をして小走りに向かった。



※※※※※※※※

オレ、八嶋ヒロは港の横のイベント会場に来ていた。

あの四姉妹が家族と参加すると知ってやって来た。

彼女たちのスペースは大きく、沢山の服が並んでいた。

そしてそのコスプレ衣装を求めて多くの人が集まっている。

買い求めるのは女性がメインだが、男性もいる。

そして、コスプレで着飾った姉妹たちをネットリとした目で見ていくのが不快だった。

彼女たちは異世界の勇者だった俺にこそ相応しいし、彼女たちも俺を意識している。

その証拠に彼女たちはチラチラと俺を見ているのだ。

ここで俺が男たちに注意をするのは容易だが、彼女たちのイベントの楽しみの邪魔をするのは無粋というものだろう。

俺は離れたところの壁にもたれて、腕を組んで彼女たちを見守るのだ。

何かあればすぐに駆けつけられる。

いざとなれば聖剣クシナートの力で能力を上げれるのだ。


※※※※※※※※


お客の入りは中々多く、原色の髪の毛を持ち整った派手なコスプレ衣装を着ている姉妹たちが呼び子をしていれば当然だった。

特に季璃の衣装はパツンパツンの胸や、ヒラヒラの下半身でかなり目立つ。

「はあい!おかあちゃん!こんどはこのひとぉ!」季璃がそう言ってキョドッている男性客の背を押して連れてきた。

母はそんな末娘の積極的な接客に苦笑しながらも男性客の要望を聞く。

男性客も更に美しい秋華を見てしどろもどろになりながらも説明する。

春菜はそんな光景を見てこんな事もいいかと思い、お母さんの手を引いて寄ってきた女の子と目線を合わせるためしゃがんで微笑んだ。

遠巻きで見ている人も結構いるが、そんなものだろうと春菜は思った。

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