第30話 四姉妹のイベント 9 準備開始と着替え
後列の車を置き去りにしてバイクは南へ突っ走り、高速に乗り、ちょっと走ったらすぐインターチェンジで降りると会場の近くだった。
降り口の脇にバイクを停めて、ぼんやりと待っていると家族たちが乗った車列が追いついて停まった。すぐにワゴン車のドアが開いて夏葉が飛び出してバイクを必死にチェックした。
バイクから降りた春菜もそれを見ている。暫くすると夏葉は安堵のため息を吐いた。
「……勘弁してくださいよ…」「ええ単車だわ」シンマにそう言われて夏葉は肩をすくめた。
「…すぐですから…安全運転でお願いしますよ!」「わあっとるわあっとる」夏葉の言葉にシンマはニヤニヤしながら言った。春菜は兄が余計なことを言ったと思い、「あちゃあ…」と言って天を仰いだ。
その後、イベント会場の施設に着いたが夏葉がまたバイクをチェックしていた。
停まったところから会場の駐車場入り口までずっとウィリーで走ってきたのだ。
春菜にしてみれば不安定なところで掴まっていたので少し疲れたため息を吐いた。
車列を停めたのは出展参加者の搬入口だった。
色々来てはいるが、三台で乗り込んだのは花鳥風月だけだった。
「兄さん、こんなに並べられるの?」バイクに本当に異常がないのを確認して安堵していた兄に春菜が聞いた。
「……一応一番大きなスペースを確保してある。まあ、ちょっと予想よりは多かったけど」「へえ」春菜が周りを見るとみなが荷物を降ろし始めたところだった。
自分も手伝わなくてはと思い小走りに駆け寄った。
売り場スペースは広かった。
壁際で二つ分。
多数のハンガーラックと簡易の試着室まで出来上がったのには春菜は驚いた。
搬入口に近いので設営も時間が掛からなかった。
「じゃあ、これが参加パス。みんな首からかけておいて」夏葉が参加証が入った首にかけられるパスケースを各々に渡した。
夏葉が時間を確認すると「じゃあ、ちょっと出てくるから」と言って早足で去っていった。
「どうしたんだろ?夏兄」「…多分しばらく戻ってこないと思う…」晃の言葉に雪が何やら察してそう言った。
「はいはーい!はるなちゃん!ゆきちゃん!あきらちゃん!…そしてこれはきりちゃん!」季璃がウキウキしながら姉たちに手提げの紙袋を渡していった。
「なあにこれ?」春菜が中身を見ながら聞いた。
「春菜たちのコスプレ衣装。一応風の衣で作ってるからね」母がニコリとして言った。
「えっと…ああ、コスプレの申請もしてある…更衣室で着替えてってさ」姉が夏葉に押し付けられた紙を見ながら妹たちに言った。
「きりちゃんたのしみにしてたんだ!さ!いこう!」そう言って季璃が姉たちを促して弾むような足取りで歩いて行く。
春菜と雪と晃は顔を見合わせて聞いていないという顔になった。
「…春ねえ…あたしら見せ物だよ?」「…販売促進のため…」「…雪、難しい言葉知ってるね」三人は妹のあとに着いて行った。
更衣室は数多のコスプレイヤーたちが着替えていたが、春菜たちは注目の的だった。
地毛からアニメのような彩りで、しかも美少女ときてる。
そんな彼女たちはヤイヤイ言いながら着替えていた。
「うわあ…フリフリ…朝のアニメで観たよ…どうやって着るの?」「んっとね、あきらちゃんのはスポッときれるけどあくせさりーおおいから、かみにかいたからそのとおりにね!ゆきちゃんはかんたんだとおもう!」双子の姉に季璃がそう説明する。
「ボクは…なんか身体にピッチリしてるんですけど!?」春菜は身体のラインが明瞭に出る衣装に愕然とした。
「…姉さん、これ…」「…何このパンツ…」「Tバック…その衣装ではショーツがわかっちゃう」春菜は雪から受け取った下着を広げてため息を吐き、スカートを履いたまま下着を代え始め、服を脱いだ。
「わあ…お尻丸出しだよ…」「…春菜姉さん、この上着で隠れると思う」「…ありがとう…こんな衣装のキャラ考えた人ってどうなんだろう…」姉のぼやきに雪と晃は何時も短いスカートで動き回っているのにと思った。
ゴソゴソと着替えていた姉妹たちだが、「わあーん!はるなちゃん!ゆきちゃん!あきらちゃあん!」と季璃が泣きついてきた。
「たすけて!」見れば下着姿の季璃が衣装を手にワタワタしていた。
「…何このパーツの数…」「…ゲームのアンドロイドの衣装だね…」「雪、詳しいね」「ちょっと!季璃!何パンツ脱いでるの!?」「おかあちゃんがこのまえのをつけなさいって」「…Cストリングス…」「なんで雪知ってるの?!」「わあ…季璃のプロポーションでそれ付けるとエッチい…」「…ニップレスも貼るのね…」姉たちはヤイヤイしながら末の妹に衣装を着せて行った。
なんとか着替えが終わった姉妹たちは自分たちのスペースに戻ってきた。
春菜は黄色のレオタードのようなものに、ヒラヒラの着物風の上着が短めのスカートのような衣装の少女忍者だった。
ラインが出るからと、春菜もニップレスにTバックだった。
雪は軍艦娘でセーラー服のような衣装、晃はニチアサヒロイン物の主人公で、長い髪を複雑にセットされていた。
季璃はSFRPGゲームに出る戦闘アンドロイドの衣装だが、手足や頭にパーツを付けてあるが、胸や下半身が強調されたデザインは春菜から見てどうかと思った。
ハイレグの下半身を布切れで覆っているだけで、大きな胸も布切れで包んであるだけ。
春のレースクィーンより際どい。
「おー!季璃、また凄い格好だねえ!」「かわいい!?かわいい!?」「うん、エロ可愛いよ!」「やったー!」上機嫌の季璃が、肘で曲げた自分の腕で胸を挟んでるのを、舞がその肘をポンポン叩いて季璃の胸を揺らしてやっていた。
それを見た春菜は上着を少し引っ張って自分の胸を見てため息を吐いた。
「さあ、そろそろ始まるわよ」母の秋華が嬉しそうにそう言った。
長い銀色の髪の毛を後ろで括って張り切っている。
「…やっぱ夏は戻ってこないな」冬菜がそう言って頭をガリガリと掻くが、ため息を一つで気分を切り替えたようだ。
「値札は其々のハンガーラックに貼ってある。それで頼んだ」「千円単位だね。りょーかいりょーかい」父の将の説明に舞が頷いていた。
「じゃあわしは荷出しだわな」「ボクたちは?」シンマが頷いたあと、春菜が聞いた。
「サンプルと売り子に決まってるでしょ」冬菜がそう言って春菜の背中を軽く叩いた。
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