第29話 四姉妹のイベント 8 出発
「あ“あ”あ“〜」晃がおじさんのような声を湯船に浸かりながら出した。
あの後、モゾモゾ起き出した娘たちと、姉、兄、父が疲れきった声で風呂に入りたいと言われれば仕方ない。
連夜の徹夜明けとは思えない清潔さと溌剌さを維持している母を尻目に、夏葉と父はサッサとシャワーだけ浴び、娘連中だけで湯船に浸かった。
「お疲れさん。疲れた?」湯船に浸かりながら冬菜が妹たちに聞いてきた。
「きりちゃんおぼえてない!」季璃がケタケタ笑いながら言った。
「…あたしも覚えてない…」「わたしも…」「ボクも気づいたら朝だった…」妹たちの答えに冬菜は肩をすくめた。
「舞さんの薬は見た目と効き目が凄いからねえ」「味もだとボクは思うよ」春菜のツッコミに雪と晃もこくこくと首を縦に振った。
「姉さんも飲んで大丈夫だったの?」「父さんも夏もだよ。まあ…慣れだね」「…出来れば慣れたくない…」雪がうんざりした声で言った。
「まあ、間に合わせるためにだったからね。あたしや父さん、夏は細かい作業してたから意識はあったよ」冬菜がニヤリと微笑んだ。
「あんたらはまだまだこれからだからね。単純作業をしてもらってたのもそういう事さ」冬菜はそう言って湯船から上がった。
「ご飯食べないと保たないよ」姉がそう言ってから妹たちもそれぞれ湯船から上がっていった。
お風呂から出て着替えを済ませると、シンマと舞も来て完成品を車に積み込んでいた。
一トントラック、ワゴン車、母の軽ワゴン。
「わあパンパンだねえ!」季璃がサンドイッチを持ったまま嬉しそうに言った。
「…季璃…すごい表現だね…」春菜は呆れて言うが、当の季璃はケラケラ笑ってサンドイッチを平らげた。
正に一杯だった。
ダンボールに詰まったコスプレ服が所狭しと詰め込まれている。
「ようさん作ったがね…」シンマが呆れたように苦笑している。
「あんたら、便利な薬だったろ?また飲む?」「…あたしがどんな状況でミシン操ってたかわからないので怖いからヤダ」「…同じく…」舞の面白そうな質問に晃と雪が顔を顰めて拒絶した。
それを聞いて舞は満足そうに頷いた。
「…で、どう分ける?」父がそう言った。
ふと思ったが、この中で車の運転免許を持っているのが父、母、兄、舞だけだった。
「…ボクどうしよう?」「「「「……………」」」」春菜の切実な言葉に運転免許を持っているメンバーが腕を組んで考え込んだ。
春菜の車酔いはとにかく酷い。
春菜が風を呼べるようになった日に車で帰った時は妹たちのトラウマになったようだった。
季璃も思い出したくないと言うほどだった。
舞が気になって調べたが、何の異常も無い。
三半規管、脳神経細かく調べても異常が出ないので「これは春菜の個性!よし!決まり!解散!」と匙を投げ出した程った。
そして荷物を乗せた車が三台、人間が十人。
トラックは普通は三人乗れるが荷物の関係で二人しか乗れない。
そしてワゴン車と軽ワゴン車は二人しか乗れない。
春菜を安全に乗せられるのがバイクだけで、免許を持っているのが限定解除まで持っている夏葉だけだが。
「ああ、ワシが春菜をバイクで連れてくわ」シンマが手を挙げて言った。
「…はあ?!シンマ!無免許で捕まったら…」舞の言葉はシンマがずいっと差し出したカードを見て止まった。
「限定解除だわ。この前貰ってきた」シンマがドヤ顔している。
「…貰ってきた?」雪が訝しげな声で聞いた。
「こん前の北野宮っちゅうお巡りから貰ってきた」「「「「「…………」」」」」「しんまさんすごおーい!」シンマの言いように皆絶句しているところに季璃が尊敬の眼差しでシンマを見ていた。
「ちょっと待って…教習所とか行ってないの?!」「面倒だで行っとらん」夏葉の疑問にシンマが胸を張って言った。
「車の免許じゃあにゃあで、夏葉、バイク借りるでね」「…シンマ、運転出来るの?」母の秋華が珍しく不安そうな表情をしている。
「ん?多分」「嫌だ!俺のバイク壊されるのは嫌だ!」「でゃあじょうぶだわ、多分」「嫌だー!」シンマと夏葉のやり取りに残りは唖然と見ていることしか出来なかった。
「…本当に大丈夫ですか?」ピンク色のジェットタイプと言われるヘルメットの顎のベルトを締めながら春菜は不安そうに聞いた。
「ま、単車には大分前に乗ったからええがね」ハーフタイプという黒色のヘルメットにゴーグルを着けたシンマが愉快そうに夏葉の中型バイクに楽しそうに跨った。
ヘルメットはチャッカリと店にあった品を拝借していた。
セルボタンを押すと快調にエンジンが掛かった。アクセルを少し吹かして満足そうな笑みを浮かべる。
ワゴン車に乗った夏葉が物凄く不安そうな顔で見ているのを春菜はチラリと見た。
「さ、乗ってちょーよ」「……はぁい」春菜はシンマの後ろに跨った。
時間は朝七時前。先頭の秋華の運転する軽ワゴン車には季璃が助手席に。1トントラックの将が続き、助手席に冬菜、舞の赤い小型普通車が続き、後部座席に双子の雪と晃。後ろに春菜を乗せたシンマのバイクが続き、一番後ろにワゴン車に乗った夏葉という列だった。
「じゃあ行くでよ」「……どうぞ」春菜はバイクの後ろにあるタンデム用のグリップを掴んだ。
「…うひゃあ!?」シンマはクラッチを繋げた瞬間にアクセルを吹かした為、バイクの前輪が浮き上がったのを見て、春菜は驚きの声を上げた。
そのままの勢いでバイクはかっとび、隊列の先頭になって漸く所謂ウィリーをやめたが速度はそのままである。
「おぉ、ご機嫌なもんだわ」「ひゃあ!シ、シンマさん!速すぎ…」シンマの操るバイクは春菜の悲鳴を引いて田舎道を爆走していった。
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