第3話 戦いへ
「まず、魔法戦士になるのに才能や資質などはほぼ不要です」
動画の中のインタビューで、有名な魔法戦士は語る。
「マギアベストは条件さえ揃えばどんな人間にも力を与えます。そういう性能でなければ、兵器として役に立ちませんからね」
「なるほど。しかし実際、魔法戦士を志しながらも成れなかった、という方もいますよね」
「ええ。魔法戦士に最低限必要なのは、強い思い──要は動機です。それは別に、崇高なものでなくても構いません。『大切な人を守りたい』という戦士もいれば、『強い力を手に入れたい』という戦士もいます。ただし、『目立ちたい』『賞賛されたい』というような思いは、動機としては弱いことが多いでしょうね。思いが弱すぎると、マギアベストは反応できません」
♡♡♡
武装を完了した私がメルトとビターを振り返ると、二人は少なからず引いている様子だった。
「いやコードネーム物騒すぎ」
「でもほら……break って『休憩』って意味もあるし……きっと『おやつどき』なんだよ」
「『壊す』って本人が言ってんじゃん」
「そうだけど……。それより私は、ブレイクの動機の方が凄いと思うな。熱量が、何というか、普通じゃない……かな……」
「ほんとそれな」
「何ですか、もう!」
私は憤慨した。
「もっと喜んで下さいよ。戦力が増えたんですからっ」
「……それも、そうだね。ありがとう……。それで、ブレイクはどんな戦い方をするの?」
「武器はこれみたいです!」
私は両手を広げた。左手には弓が、右手には矢が現れた。
「マジカルアロー! 使い方は……」
言いかけたところで、ズゥンと中庭の方で地響きのような音がした。ハッとして窓から見下ろすと、十メートルはありそうな巨大な灰色のデモーノイが出現していた。ちょっとセイウチっぽい姿で、表面はどことなくつややかである。動きはのろいのだが、重量が半端ないように見える。下敷きにされたらひとたまりもないだろう。牙も大きくておっかない。
「……とにかく実戦で試しますね!」
お喋りしている場合ではなくなったので、私はそれだけ言った。
「とりあえず私は切り裂きに行くぞ。ブレイク、弓矢ってことは近接戦闘じゃねーんだろ?」
「そうだね。よろしく」
「オーケー。じゃ、援護よろしく。チョコラーダ・マギオ;超速魔閃刃!!」
ビターは窓を開け放つと、中庭で暴れているデモーノイ目掛けて外へ飛び出した。
「よいしょっと」
メルトは開いた窓からマジカルバズーカの銃口を向け、魔法の充填を開始した。
私は隣の窓を開けると、廊下で足を踏ん張り、ぎりぎりと弓矢を引き絞った。
こんな小さな矢が一本刺さったところで、あの巨大なデモーノイには何のダメージにもならないだろう。大事なのは、その先。刺さった矢に仕事をしてもらう──要は、毒矢のようなもの。その効果のほどが、引き絞るタイミングでの魔法の使い方で決まる。
「チョコラーダ・マギオ;
ひゅっと放たれた矢はデモーノイの額にある青いハートマークにぶっ刺さる。そこから、湯煎にかけた板チョコのように、どろりとデモーノイの形が崩れ始めた。
「ギアアアア!」
デモーノイは激痛に耐えかね、ヒレのような手で額を押さえようとしたが、力が入らないのだろう、ぐったりと地に伏してしまった。ふるふる震えながらもがいている。
「ウワア溶けてるゥ〜! そして弱っているゥ〜! 威力ヤバ!」
ビターが猛攻撃を繰り広げながら叫んだ。
「これなら私も照準を合わせやすい……。チョコラーダ・マギオ;爆裂魔砲弾」
メルトが放った弾で胴体にどでかい穴が空き、デモーノイはもうピクリとも動かなくなってしまった。ビターは悠々とトドメを刺して、とんぼ返りで戻って来た。十メートルの巨体はキラキラの粒になって空に散った。
「さて……あとはあの赤いフォールト人を見つけねえと」
「じゃあ、こうしよう」
私は二本目の矢を出現させ、弓につがえた。
「んー、多分、この向き、この角度。それでこの効果……。よし。チョコラーダ・マギオ;必中魔弓箭」
今度の矢は真っ直ぐ飛ばなかった。不自然に軌道を変えながら中庭を横切ったかと思うと、窓ガラスを突き破って、誰かに突き刺さる。射抜かれた人物は、魔法の効果で全身が激しく発光を始めた。
「あの光ってるところに、例のフォールト人がいるよ」
「は? 居場所分かんなくても当たんの!?」
「だって……必中だから」
「何ソレめっちゃ使えるじゃん! ちょっと待ってな、私がとっ捕まえて来るから」
ビターは再び宙を舞った。相変わらず行動の速い人だ。
「一人で大丈夫なんですか?」
「フォールト人の身体能力は、私たちイリとそう変わらないの……。私たちがマギアベストの力を借りないと戦えないのと同じで、彼らもデモーノイを操縦しなければただのパイロット……一般人と変わらないの」
「そうだったんですか」
「私、公認の魔法戦士団に連絡するね。あいつを引き取ってもらわなきゃ」
♡♡♡
かくして、トゲトゲ頭のフォールト軍人は、光り輝きながら捕縛され、光り輝きながら公認魔法戦士団に連行されて行った。
放課後だったということもあり、学校側で点呼なども行われておらず、学校に現れた魔法戦士団の正体が割れることもなかった。
私たちは人目を避けて変身を解き、部室でジュースと菓子類を開けてお疲れ様会をした。
「
「本当にうちの文芸部に誘って良かったのか、心配になるよ」
「それはもう、今後ともありがたく部室を使わせていただきます。短編小説も無事でしたし」
「ま、本人が良いなら問題ないっしょ」
「そういえばお二人はどういった動機で魔法戦士になったんです?」
私はペットボトルのソーダを飲みながら尋ねた。
「……だってさ、先輩」
「え、私から……?」
「だって先輩が最初の一人じゃないっすか」
「うう……あの……」
桃果さんは膝の上で拳を握った。
「弱い自分が嫌いで……」
「ふむ?」
「中学校の時まで……ずっと、その、あの、いじめられてまして……家でも、親から怒られてばっかりで……殴られたりとか、怪我をしたりとか、毎日……」
何だか迂闊に聞いてはいけない、重めの話だったようだ。私は姿勢を正した。
「どこにも居場所とかなくてね……。私が弱い人間だから駄目なんだって思ってた。だから、力が欲しかったの。何か一つ、誇れるものがあったら……自信がつくかなって……生きていけるかなって」
「……そうだったんですね……」
「それで、私がココ・メルトとして半年ほど一人で戦っていたら……時愛ちゃんが入学してきて……仲間になってくれたの」
ん? つまり桃果さんは半年も、あの発動の遅いバズーカ一つで戦っていたということ?
「私はとにかくデモーノイをぶっ潰したかったからな。桃果さんが一人で駆けずり回ってるのを見つけた瞬間から、私もやるって決めた」
「ふむ?」
「フォールト帝国はデモーノイを使って
さっきより重い話になってしまった。私は申し訳ない気持ちになってきた。
「ごめんなさい……私だけ何だかふざけた理由ですね」
「えっ、あっ、そんなつもりで言ったんじゃないよ。気にしないで……。何が大事かなんて、人によって千差万別だから。美鶴ちゃんの動機がふざけてるなんて、私は思わないよ」
「そーそー。私だって別に不幸自慢したい訳じゃねえし。理由なんざ何だっていいんだよ。魔法戦士として使い物になるんなら文句ナシ」
二人は本当に何でもないことのように言うので、私は少し安心した。
新しい仲間が優しい人たちで良かった。
「改めてありがとうございます。私を文芸部員として、魔法戦士として、認めてくれて。私、創作も戦闘も頑張ります」
「おー。新生・魔法戦士団ショコラーデン・アンド・チョコット書店。どっちも思いっきりやろうじゃねーか」
「そうだね。締切は守ってね、時愛ちゃん」
「うっ……わ、分かってる。私だってやる気はあるんだよ。ただちょっと……」
「ちょっと?」
「……何でもねえ。頑張るよ」
「美鶴ちゃんも、一緒に頑張ろうね」
「はいっ」
私は力強く頷いた。
♡♡♡
今日もイリ界にフォールト帝国軍が侵入してくる。今日も誰かがどこかで戦っている。確実に勝たねばならない。この程度で押し負けているようでは、いずれ来るであろう大規模侵攻に耐えきれないから。
私は、私の表現の自由を守るため、あとネタ集めのために、怯まず強敵に立ち向かう。
「甘美な魔法で飾り付け」
「とろけるほろにがおやつどき」
「美味しいお菓子をお一つあげる」
「ラパリション・デ・ショコラティエ」
「おまえを砕く。ココ・メルト」
「てめえを刻む。ココ・ビター」
「あなたを壊す。ココ・ブレイク」
「食らいやがれ。魔法戦士団ショコラーデン」
おわり
魔法戦士団ショコラーデン 白里りこ @Tomaten
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