第8話 008 - だいじょうぶだ、おれさまはつよい -

008 - だいじょうぶだ、おれさまはつよい -



「目線の高さからすると平均的な男性くらいの体格かな?」


「そうだな、少し痩せ気味の男に見えなくもないな」


「力はどれくらい強くなってるの?」


「今は標準の出力で腕力、脚力共に生身の10倍ってとこだろう、最大出力だと500倍はいける・・・と仕様書には書いてあったぞ」


「えぇ・・・でもこれから先そんなの使う機会無いよね」


「・・・」


「いや何か言ってよ・・・」


ニートが主砲で廃棄物を塵にするのを見た後、僕はパワードスーツを装着したままで管制室に戻って来ました、他の設備を壊さないように出力は最低値、僕の筋力のおよそ二倍ほどにしています。


このパワードスーツは膝から下と肘から先が少し長くなっているので僕の身長はかなり高くなっています。


先程ニートが録画した僕の姿を見せてくれたのですが・・・黒くて禍々しい鎧を着た怪物?、これは廃墟なんかでいきなり出会ったら叫んじゃうやつだ・・・。


「このまま操縦席に座るのは無理っぽいなぁ・・・手足が長いから窮屈すぎる」


「座席をスライドさせたらそのまま座れるぞ」


「え、そうなの?」


「この操縦席は汎用型だからな、体格のいい野郎どもが乗るのを想定して作ってある、シエルが小柄だからお前に合わせてるだけだ、そこで見てろ」


うぃぃぃん・・・しゅこぉぉぉ・・・


僕の目の前で操縦席が前後左右に広がり、男性でも窮屈さを感じないサイズになりました。


「わぁ・・・これなら座れるかも」


「座ってみろ、どうだ?」


かちゃ・・・うぃぃぃぃん・・・


「うん、特に問題ないかな、でも緊急事態にならない限りこんなのを着て操縦する事なんて無いよね」


「・・・」


「いや、何か言ってよニート!」








あれから1日が経ち、僕の船は順調にミューⅢ惑星近くにある転送ゲートへ向かっています、レベルスおじさんがくれたパワードスーツは脱いで荷物室の中に・・・。


でもまたすぐに装着する事になりそう・・・ニートによると今から行く拠点は老朽化が激しく重力制御や酸素供給装置は壊れているのだとか。


ピッ・・・


「もうすぐ転送ゲートだね、これから行くミューV惑星・・・第5惑星に一番近い出口ゲートは・・・これかな?、予約しなきゃ・・・」


「先に俺様がやっておいたぞ」


「わぁ、ありがとうニート、助かるよ」


「あの辺りは第5惑星の地表にある大渓谷を見に物好きな観光客や学者がたまに訪れるだけの辺境エリアだ、ここ数百日で利用客はゼロだとよ」


「何で利用客の数なんて知ってるのさニート!、まさかシステムに侵入・・・」


「・・・」


「いや何か言ってよ!」


「バレるようなヘマはしてねぇから安心しろ」


「・・・」


「そういえばシエルは第5惑星に降りた事あるのかよ?」


「普段はゲートを使って直接ここまで来てるからミューⅢより外周にある惑星には行った事ないよ、今までお仕事で行く用事もなかったし・・・」


「本当に何も無ぇ辺境だからな、下手にうろついてるとあの辺りに隠れてる盗賊に襲われる、武装無しで行くなんて論外だな」


「僕の船も登録上では非武装なんだけど・・・」


「この前主砲撃ったの見てなかったのかよ、それに俺様が登録証や営業許可証を偽造・・・いや、修正して今この船は武装船扱いになってるぞ」


「今偽造って言ったぁ!」


「偽造・・・いや修正した許可証を使うのはしばらくの間だけだ、管理局にこの船の武装申請出すってエッシャーのクソ野郎が言ってたからそのうち正式な通知が届くんじゃねぇのか」


「この船ってシステム全部まるっと入れ替えたから申請出さないといけなかったかも・・・」


「その辺の面倒な手続きはクソ野郎が全部やるって言ってたぜ」


「そうなの?」


「そうだぞ」


「・・・後でおじさんにお礼言わなきゃ」


「あいつが勝手にやるって言ってるんだ、気にするな」


「・・・」








ピッ・・・ランサー星系第3惑星軌道、転送ゲートに到着しました。


「ねぇ、ニート」


「なんだよシエル」


「この機械音声って、ニートが喋ってるの?」


「正確には俺様じゃねぇが、音声出力の指令を出してるから・・・俺様が喋ってると言えばそうだな」


「この事務的な喋りをニートがしてると思うと気持ち悪いんだけど・・・」


「あ?、言ってくれるじゃねぇかシエル!・・・だが確かに気持ち悪いかも知れねぇな・・・音声パターンは変える事ができるぜ、試してみるか?」


「うん」


ピッ・・・キャハハハ!、ざぁーこ!、ランサー星系第3惑星軌道、転送ゲートに到着したわ、あたしが教えてあげたんだから感謝しなさい!。


「いやこれ超ムカつくんだけど・・・」


「じゃぁこれはどうだ?」


ピッ・・・あらぁ、ランサー星系第3惑星軌道、転送ゲートに到着したわぁ!、ねぇ聞いてる?。


「渋くてかっこいいけど野太い声でこの口調はちょっと・・・元のが一番まともだったから戻して」


「そうだろ、俺様も最初のが一番まともだと思ってた、他にまだあるが・・・聞きたいか?」


「・・・いいです」








「待ち時間無しだね、さすが辺境エリア」


「まぁ・・・利用する奴はミューⅢ惑星への物資輸送船くらいだろうからな」


ピッ・・・アハハ!、転送ゲートに入ったわよ!、あんたみたいなクソ雑魚・・・ブツッ!。


「すまねぇ、間違えた」


「・・・」


ピッ・・・転送ゲートに入りました・・・。


ひゅぃぃぃぃーん


「おいシエル、ゲートを出たら警戒しておけよ、盗賊が居るかもしれねぇからな」


「えぇ・・・でも第5惑星の大渓谷を見る観光船もたまに来るんでしょ」


「俺様みたいな小型船はよく狙われるんだ、でかい観光船は滅多に襲わねぇ、それに観光船はそれなりに武装してるし星団中央政府が運営してるからな、あんなの襲ったらすぐに軍が出て来て宇宙の果てまで追われるだろ、あいつらはそんなバカじゃねぇぜ」


「よく知ってるねニート」


「まぁな」


「なんで知ってるの?」


「お前の両親を乗せてハンターの仕事してた時に何度も襲われた事がある、それに奴らの通信もよく盗聴してたからな」


「・・・」








ピッ・・・ゲートを通過しました、現在座標を表示します。


「おいシエル、起きろ、ミューV惑星が見えて来たぜ」


「んぅ・・・寝ちゃってた」


「死ぬほど疲れてたみたいだから起こさないでおいてやったぜ、感謝しろ」


「そうだね・・・最近色々あったから・・・」


寝ぼけてぼんやりとした頭に手を当ててニートに返事をします、そして何気なく見たモニターに映し出された紅い惑星は・・・とても不気味でした・・・。


星の中央を縦に切り裂いたような傷・・・獣人の瞳みたいに見えるのは大渓谷かな・・・本や映像資料で見た事はあったのですが間近で見ると気味の悪さが際立ちます・・・この星系の惑星ってこんなのばかりなの?。


「惑星の軌道上に戦闘状態の船が居るぜ、誰か戦ってるようだな」


「え?」


「安心しろ、まだ遠いし拠点のある衛星は反対側になるから見つかる事は無ぇだろう、俺様としては久しぶりに暴れたい気分だがな、・・・ちょっと戦って来ていいか?」


「ダメだよ!、相手に気付かれてないなら何もしなくていいよ、こっそり拠点に行こう」


「何だよ、つまらねぇな」


「戦うって言われても・・・怖いの」


「そのうち慣れるから大丈夫だぞ」


「慣れたくないよ!」


「検知した船の位置を拡大して映してやったぞ、ほら見てみろよ、小型船一隻を盗賊の船団が囲んでやがる、これは死ぬだろうなぁ」


「僕には関係ないし・・・ニート、拠点に向かおうか」


「あぁ・・・かわいそうにな、もしかしたら幼い子供が乗ってるかもしれねぇ、家族で観光に来たら盗賊に襲われて・・・」


「なんて事言うのさニート!、行ったら僕達も襲われるんだよ、そんなのに巻き込まれる僕はかわいそうじゃないの?」


「大丈夫だ、俺様は強い」


「・・・」









「・・・この座標だと目的の衛星にもうすぐ到着するね、ゲートを出てから2日かぁ・・・」


「シエルがあいつらに見つかるのは嫌だって泣くから遠回りしたんだ、文句言うな」


「だってぇ・・・」


そう、ゲートを出てから2日が経ちました、その間、ニートに身体を弄ばれたり、寄生している幼虫に体液を注入されて泣き叫んだり・・・色々あったけどお父さん達の所有している拠点にもうすぐ到着します。


「まだ惑星の向こう側でドンパチやってるぜ、たった一隻なのに予想以上に粘るし盗賊の奴らもしつこいな」


「僕には関係ないもん・・・」


「だが救難信号が出たら現場に行って確認しないといけねぇ規則だぜ」


「規則って・・・平気で書類を偽造したり星団のシステムに無断侵入するニートには言われたくないなぁ」


「細かい事はいいんだよ・・・ほら着いたぜ」


ニートの言葉で僕は消していたモニターの電源を入れました、左目が見えないからずっとモニターが点いてると疲れるの・・・、モニターには大気も水も無い乾いた第五惑星の衛星が映し出されています。


「何もないよ」


「盗賊がそこら中に居やがるのに入口が剥き出しになってる訳ねぇだろ、よく見てろ」


僕の目の前のコントロールパネルに地表測量システムの起動を知らせる表示が点灯しました。


「ニート、何をするの?」


「入口は魔法陣・・・この星団じゃ未知の技術だ・・・それを使って封印されていてな、いつもは魔力を使って起動させるんだがシエルにはまだ無理だろ、だからこいつの出力を弄って魔力を当てた時と同じ状況を作るんだ」


「何を言ってるのか分からないよニート・・・」


「黙って見てろ・・・」


しばらくモニターを眺めていると何も無いクレーターと石だらけの地表にサークル状に謎の文字が沢山書き込まれた模様のようなものが浮かび上がりました、金色に光ってるし!。


「わぁ・・・光ってる!、ニート、光ってるよ!」


「あぁ、光ってるな、あれが魔法陣だ」


光が消えると、僕の船が2隻並んで入れるくらいの入口が現れて・・・。


「え・・・何で?、今まで何も無かったのに!」


「説明は後だ、早く入るぞ、シエルは盗賊の奴等に見つかるの嫌なんだろ」






ピッ・・・ターゲットマーカーおよび誘導システムの情報が確認出来ません、手動による着陸に切り替えます。


「待って!、手動着陸なんて教習所でしかやった事ないよ!」


「黙ってろ、俺様が華麗に着陸させてやるからよ、少し揺れるから気を付けろ」


ごごごごご・・・ずぅぅぅん!


「ひぃぃ・・・」


「よーし、成功だ!、予想通り施設の電源は全部死んでるな・・・ここが俺様達の拠点の一つだ、ライトを当てて全方位カメラに切り替えるから周囲を見てみろ」


「今入って来た入口が無くなってる!」


「凄ぇだろ、入口は一度閉じたら超高性能カメラや探索システムでも分からねぇ、それにこんな辺境惑星の衛星に降り立って地表を掘削調査する奴は居ねぇだろ、船の外に出るからパワードスーツを装着して来い」


「外は重力制御も空気も無いから着なきゃダメかぁ・・・あれ身体中にケーブルや生体センサーが纏わり付いて・・・凄く感じちゃうの」


「我慢しろ」


「えぇ・・・」


僕は荷物室でパワードスーツを装着した後・・・荒れ果てた拠点の内部に降り立ちました。

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