スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜
柚亜紫翼
第1話 001 - しえるさん -
001 - しえるさん -
ピッ・・・
「あはは、笑っちゃうよね・・・でね、僕の持ってる本の・・・あ、もうこんな時間!、ごめんね、お薬飲まなきゃいけないから話の途中だけど今日はこれでおしまい、じゃぁねリンちゃん」
「うん、エルちゃんも事故に気をつけてね、おやすみ」
・・・ピ・・・ツウワヲ・・・シュウリョウ・・・カイセン・・・セツダン・・・
機械音声が薄暗い管制室に響き、僕はモニターのスイッチを切りました。
目の前には古いモニターが2枚、1枚は今までリンちゃんと通話していたもの、もう1枚は船外の様子が映し出されていて通話を始める前に小さく見えていたステーションが巨大な姿を見せています。
「ふぅ・・・楽しかったぁ、リンちゃんと久しぶりの長時間通話、お顔を見た感じだと元気にやってそうだね・・・良かった・・・、通話料金の請求怖いけど、まぁその分稼げばいいかな、さて、ちょっと過ぎちゃったけどお薬の時間だ・・・よっ・・・と」
ポチッ・・・
・・・ソウジュウセキノ・・・ロックヲカイジョシマス・・・
この宇宙船の操縦席は少し変わっていて、椅子に座り操縦桿を握る普通の船に対し僕の船は座ってから椅子を斜め後ろに倒すのです、ちょうど足を軽く曲げて仰向けに寝転がるような格好、だから天井にモニターが付いていてそれが目の前に下がって来ています。
ウィィィ・・・
モニターのついた天井が上昇して倒れていた椅子の背もたれが起き上がりました。
ピッ・・・ウデトアシノコウソクヲカイジョ・・・アンゼンベルトヲ・・・ハズシテクダサイ・・・
カチャ・・・カチャ・・・
「それにしてもこの船、何で普通の操縦席じゃないのかなぁ・・・」
ギシッ・・・
「あぅ・・・義足の調子悪い、転けそうになったよ・・・油圧の可動部かも、また今度博士に見てもらわないと・・・でもお金・・・」
操縦席の横に置いてあった杖を手に取り、管制室を出てふらつく足取りで通路を歩きます、通路も掃除しないとなぁ、壁や天井の配管からオイルが漏れてる・・・あ、ここも・・・、そんな独り言を呟きながら隣の保管室へ。
ピ・・・
ロックヲ・・・カイジョ・・・ホカンシツ・・・
プシュー
所々に錆が浮いた分厚いドアがスライドして開きます、部屋の中に照明が点いて雑然とした保管棚の中へ・・・あ、転がった酸素マスク踏んじゃった・・・うひゃぁ!、僕の顔に何かが!。
「蜘蛛の巣?・・・どこから入ってきたんだよぉ、一度本格的に駆除しないとダメかな、よいしょっと・・・お薬はまだ100日以上ストックあるね、確認よし!」
カシッ・・・、ちゅー・・・こく・・・こく・・・
「うぷっ、相変わらず不味いなぁ、ドロドロで苦くて生臭い・・・博士ってば改良進んでるのかな・・・って、安く分けてもらってる立場じゃ偉そうなこと言えないか・・・」
コツ・・・キシッ・・・コツン・・・キシッ・・・
プシ・・・
ホカンシツ・・・トビラ・・・イジョウ・・・トビラ・・・トビラ・・・トビ・・・トビトビトビトビ・・・トトトトト・・・
「今度は何?、扉が閉まらないの?」
トビラ・・・トトトト・・・トビ・・・トビ・・・
「あーもう!、うるさい!」
どん!
プシュー
「あ、閉じた」
トビラヲロック・・・シマシタ・・・
「この船、もう寿命過ぎてるからなぁ・・・」
お薬をストローでちゅーちゅー飲みながら僕は再び管制室へ。
操縦席に座り仰向けになって身体を固定します、安全ベルトを付けてスイッチを押すと僕の両腕・・・肩から肘まで、そして膝から下が座席に固定されます、もう慣れたけど機械に拘束されているようで少し嫌な気分・・・。
使い古された操縦席、古いけれど視認性の良い計器類、塗装が剥げて冷たい金属が剥き出しになった操縦桿、目の前には2枚の大型モニター、その下の小型モニターには現在位置が表示されて・・・ないので面倒だけど身体の拘束を解いて斜めからチョップ!。
バコン!
・・・あ、点いた。
「今の座標は・・・エテルナ星系から出たとこかな、ランサー星系までまだ遠いなぁ、一度最寄りのステーションで補給しておこう、目の前のデルタ星ステーションは検疫で意地悪された事があるから通り過ぎて・・・イシス星の軌道上にあるステーションがいいかな、あそこには何度か降りてるし」
「転送ゲート予約・・・デルタ星ゲートからイシス星直通・・・わぁ!、料金また上がってる!、うぅ・・・何でぇ・・・」
「滞在許可申請・・・ステーションNo1034852-00397・・・本船は・・・エテルナ星系、第二惑星ローゼリア・・・ステーションNo3085663-11289所属・・・船名シェルダン号・・・目的は燃料及び食料補給、支払いは口座397744691287400729−0129−03、シエル・シェルダン・・・船長シエル・シェルダン、他乗員無し、1名・・・貨物コンテナをランサー星系・・・ミューⅢ惑星植民基地に運送中・・・っと、送信!」
ドクッ!・・・
「ひぃっ!・・・」
突然僕の身体の中でざわり・・・と動く気配を感じました。
「ダメ!、ちょっと待って!・・・あぅ!」
手足を操縦席に拘束されているのを忘れて立ちあがろうとしたから座席に引き戻されます。
「早く・・・せめてベッドに・・・」
ピッ・・・ウデトアシノコウソクヲカイジョ・・・アンゼンベルトヲ・・・ハズシテクダサイ・・・
カチャカチャ・・・
「うぐっ・・・、リンちゃんとのお話にっ・・・夢中になって・・・ちょっとお薬飲むの遅れただけで・・・いやだ・・・動いちゃ・・・気持ち悪いよぉ・・・うっ・・・ん・・・」
身体が熱く呼吸が早くなって、・・・ビクン!・・・と痙攣・・・安全ベルトを外した後、操縦席から転げ落ちてしまいました。
「はぁ・・・はぁ・・・んぐっ!・・・やだ!・・・嫌だぁ!」
この後僕を襲う苦痛に怯えながら床に蹲ります・・・そう、僕の身体は凶悪な宇宙生物に寄生されているのです。
ピッ・・・受信メッセージ・・・
「ん・・・わぁ!、気絶してた!、今何時?・・・よかったぁ、まだ半日も経ってない」
ピ・・・
「あ、メッセージ来てる、滞在許可出たのかな?、・・・着陸と滞在を許可、順番は・・・もう次僕の船じゃん!」
ピッ・・・受信メッセージ・・・キンキュウ・・・7ケン・・・
「わぁぁ!、早くしろって怒ってるし!・・・うぅ・・・防護服の中が濡れて気持ち悪い・・・、洗浄機を使ってる時間が無いから恥ずかしいけどこのままでいいかな、・・・歩いてもグチョ・・・って音がする程じゃないし、気付かれない、・・・と思う」
操縦席に座って外の様子が映し出されたモニターを確認すると、目の前には巨大な青い惑星・・・イシス星です、その軌道上にあるステーションにこれから着陸して食料を積み込み、燃料補給をします。
「船から降りるのやだなぁ・・・」
イシスはデルタのステーションと同じ規則だから補給中は船から降りなきゃいけないのです。
ご覧ください!、イシス星では今・・・観光旅行・・・
・・・今ならお得・・・最新鋭のキャディ号・・・どうですこの加速・・・星間飛行も・・・
税関のアルタス主任・・・至急・・・まで
・・・お母さん・・・あれ可愛い・・・
急げ・・・、荷物預けてるとこどこだよ・・・
・・・迷子のお知らせ・・・長命種・・・双子の女の子・・・青い服を着て・・・
「はい、船体のスキャン完了、次は貴方ね、そこに横になって・・・病歴ってあるかな?」
僕は騒がしいステーション・ドック奥にある検疫のお姉さんの所で滞在の為に検査をしています、そして首に巻いたマフラーを外して・・・。
「・・・あ、あの・・・僕、・・・ベンダル・ワームの幼虫に寄生されてて、・・・で・・・でも安定してます!・・・お薬も定期的に・・・あ・・・」
「検査結果の報告書、ベンダル・ワームの幼虫を子宮内3、膣内2、腸内1、胃に2、計8体確認、寄生レベル7、現在身体の内側に根を張り休眠中、投薬により他へ寄生の危険性は無し、防護スーツ異常なし、封印は正常、安全である事が確認出来た為、滞在を許可する、但し幼虫の活性化を自覚した場合は直ちにステーション外へ退去する事・・・か」
コツ・・・キシッ・・・コツン・・・キシッ・・・
「・・・あんなにあからさまに態度変えなくても、・・・親切なお姉さんだなって思ってたのに・・・うぅ・・・あの化け物を見るような目、・・・慣れないや・・・お食事に行きたいけど、この首輪をつけてるとお店入ったら嫌な顔される・・・かも、・・・早く補給終わらないかな・・・」
ドン!
「わぁ・・・、痛い・・・転けちゃった・・・」
後ろから誰かがぶつかって来ました、手を離してしまったから杖が向こうに転がって・・・。
「ごめんなさい、この子よそ見してて、・・・ひぃっ、ベンダルの宿主!、近寄らないで!、あっち行って!、早く!」
「あ・・・ご・・・ごめんなさい」
ゴミと糞尿で汚れた汚い道を這って杖を拾います、周りの人は遠巻きに見ているだけ、あちこちから宿主だってヒソヒソ話す声、・・・唇を噛んで、今まで我慢していた涙が溢れました。
僕の名前は、エル・・・シエル・シェルダン、長命種の145歳、見た目は短命種の女の子・・・14歳くらいかな・・・背が低くてお胸もほとんど無いの、でも僕の種族だともう成人している年齢で、成長も止まってるし、基礎教育も終了、お酒だって飲めるのです!。
小型の宇宙船に乗って荷物の運搬や環境調査、簡単な護衛を請け負うハンターというお仕事をしています。
先ほど僕が酷い扱いを受けたのはベンダル・ワームの宿主だから・・・僕は30年ほど前にベンダルという宇宙生物に襲われました、左足首から下を食べられ、・・・そして触手に捕まって犯された時に身体の中に卵を産みつけられてしまったのです。
その卵が孵化して僕の身体の中には数体の幼虫が寄生しています。
ベンダルは人間型の生物だけに寄生し、種を増やす謎の生命体で、男性だとお尻や口から、女性はそれに加えて性器から卵を注がれ、それが孵化して身体の中に根を張り増えるのです。
僕は性器と口、そしてお尻から卵を注がれたので胃や腸、子宮に幼虫が居ます。
50年ほど前までは寄生されたら最後、成長した虫に脳まで支配され宿主が他の人間を襲ってまた卵を・・・、という事件が多発、人々からとても恐れられていました。
だけど幼虫の活動を抑える薬が開発され、それを服用する事によって宿主にされた人達も普通の生活が送れるようになったのです。
でも、ベンダル・ワームの恐怖を味わった人達からはまだ警戒され嫌われ恐れられています、星団法で寄生された宿主の人権も保障されているのに・・・。
そして実際に襲われた人や被害者の遺族達からの強い要望で宿主にされた人には銀色の首輪と緊急時の拘束用に腕輪を付ける事が義務付けられています、そのせいで外を歩いていると避けられたり、暴言を吐かれたり・・・。
相当数居る宿主達からは撤廃が叫ばれていますが未だ議論は平行線、今はこの首輪を外すと罰せられるのです。
「ぐすっ・・・ひっく・・・」
ようやく涙が止まりました、泣いているところを見られたくなくて思わず表通りから隠れるように路地裏に逃げ込んだけど、このステーションはあまり治安が良くありません。
悪い人に捕まって乱暴されたり貴重品を盗られたり・・・そんな事件をよく耳にします。
僕の場合はベンダルの宿主だから性的な事はされないと思う、でも怖い思いはしたくないから早く人通りの多い場所に行かなくちゃ。
護身用の武器は持ってるけど、人に向けて使った事も無いし、僕は小説に出て来る主人公のように強くない、どこにでも居るような普通の女の子なのだから・・・。
「おい見ろよ、女だ」
「まだ子供じゃねぇか、まさかお前・・・幼女に欲情・・・」
「俺は幼女趣味じゃねぇ!、背は低いが良い形の尻をしてるだろ、あれくらいの身体なら許容範囲だ、行くぞ」
ちょっと待って!、僕の後ろでとてつもなく不穏な会話が聞こえるんですけど!。
思わず歩く速度が速くなります。
「あぅ・・・」
ばたん!・・・
「痛い、また義足の調子が・・・こけちゃった・・・ぐすっ」
「待てよお嬢ちゃん、俺らと遊ぼうぜ」
「ひいっ!・・・嫌だ・・・触らないで!」
「なっ・・・こいつ首輪をしてやがる!、宿主かよ!」
どん!
身体の大きな男性2人組、そのうちの一人に腕を掴まれ無理やり立たされました・・・でも僕の首輪を見た途端、まるで汚い物でも触ったみたいに顔を歪め突き飛ばされました。
ガラガラ!、ガシャン!
「あぐっ!」
「宿主に関わると碌な事が無ぇ、行くぞ!」
「へへへ、残念だったな、幼女が喰えないからってそう怒るなよ、よし、今から飲みに行こうぜ」
「俺は幼女趣味じゃねぇ!」
突き飛ばされた所は汚物まみれの水たまり、もしかして僕はこの格好で大通りを歩いて船まで戻らなきゃいけないの?。
「・・・うぅ・・・ぐすっ・・・ひっく・・・痛い・・・痛いよぉ・・・どうして僕がこんな目に・・・」
近況ノートに表紙的なものを掲載しました
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