第2話 002 - へんなおじさん -
002 - へんなおじさん -
ひそひそ・・・
「おい、見ろよ」
「うわ、酷ぇ臭いだ」
「路地裏で転んだんじゃね?、杖使って歩いてるし」
ひそひそ・・・
「あら、まだ子供なのに宿主なんて可哀想」
「耳が少し尖ってるから長命種だよ」
「ベンダルに寄生されてるって事は、卵流し込まれる時に犯されたんだよな・・・」
「おいおい、あの娘、可愛い顔してるからエロい想像しちまったじゃねーか」
ひそひそ・・・
「ママー、あのお姉さん・・・」
「こら、近付いちゃいけません、危ないの!」
「・・・」
「・・・」
コツ・・・コツ・・・
「・・・はぁ・・・やっと着いた」
僕の船が停めてある宙港の建物まで戻って来ました、少し食事をしたかっただけなのに酷い目に遭ったし、早く船の中で身体を洗いたい・・・そう思って中に入ろうとすると警備のお姉さんと目が合いました。
「待ちなさい!、この先の商用区画にそんな汚い格好で入らないでちょうだい!」
「・・・え・・・でも・・・135番ドックに僕の船が・・・」
「どうしても入りたいならどこかで身体と服を洗うか着替えてもらえる?、床も汚れるし迷惑なの」
「・・・あの、水場は・・・」
「それくらい自分で探しなさいよ、私は忙しいの!」
「・・・」
「泣いても身体は綺麗にならないわよ、ほら早く出て行って」
「・・・ごめんなさい」
あの後、大通りに戻って水場を探し、持ち主のおばさんにお金を払って身体と上着、それから靴を洗いました、服が乾くのを待って再びドックのある宇宙港商用区画に向かいます。
「すっかり遅くなっちゃった・・・補給終わったかな・・・今日を入れてあと3日滞在許可取ってあるからお船の中に引きこもって本を読もう、うん、そうしよう!」
ピッ・・・滞在許可証を確認、135番ドックの搬送通路を開放しました・・・
「・・・荷物の扱いが雑だなぁ、コンテナが倒れ掛かってる・・・あれ、張り紙?」
「・・・」
「ベンダルの宿主は早く立ち去れ!・・・か、・・・酷い・・・酷いよ・・・僕・・・何も悪い事してないのに!・・・、あぁ・・・、宇宙船にも大きな傷が・・・これ、搬送車を使ってわざと引っ掻いたの?、・・・うぅ・・・何で・・・」
「ぐすっ・・・ひっく・・・うぇぇ・・・」
今まで耐えていたものが一気に崩れてしまいました、涙が溢れて止まりません、宇宙船の傷を泣きながら撫でていると後ろに人の気配が・・・。
「おい・・・」
「・・・え」
久しぶりに人から話しかけられました、この首輪を付けていると、こちらから話しかけたら普通に対応してくれる・・・対応しないといけない法律になってるのだけど、向こうから僕に話しかけられる事が殆ど無いから・・・ポケットの上から護身用ナイフの確認をします。
「俺の部下が笑いながらお前の宇宙船を傷付けているという通報を受けてやって来た、この傷がそうか?」
「・・・」
低く不機嫌そうな声・・・怖い・・・。
「泣いてちゃ分からんだろう、この傷は物資をここに持って来た俺の会社の社員が付けたのか?」
「・・・はい、おそらく・・・、僕がお買い物から戻って来たらコンテナが雑に積まれてて、・・・うぅ・・・積み直そうとしたら張り紙と・・・この傷を見つけて・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」
「修理して代金をここに請求しろ、俺の会社だ」
「え?・・・」
「本当にすまなかった、傷を付けた奴は爺さんをベンダルに殺されてな・・・まぁ、そんな事は言い訳にしかならない、そいつは今日限りでクビにする、これで許してはもらえないだろうか、詫びとして他に悪い所があれば全部修理して一緒に請求してくれ、いくら高額になっても構わない」
「はい、・・・分かりました・・・じゃぁ・・・」
僕が男の人に背を向けて船に乗ろうとしたら・・・。
「なぁ・・・この船」
「はい?」
「お前のか?」
「・・・ぐすっ・・・はい、父がハンターをしていて、その時に使っていたものを僕が譲り受けました」
「そうか、お前の親父さんは?」
「40年ほど前に・・・母と旅行に行ったきり、僕を残して行方不明で・・・お家の中を探したら・・・ひっく・・・私達に何かあった時は・・・僕にお家と土地・・・この宇宙船を譲るって書類が・・・ぐすっ・・・あの・・・父を・・・知ってるの?」
「ハンター時代に世話になった、その時に何度かこの船にも乗せてもらった事がある、懐かしいな、本社から帰る途中たまたま寄ったステーションでまさかこの船を見る事になるとは・・・な」
「・・・そう・・・だったんですか」
「あぁ、だからこの船を傷付けた奴を俺は許す事ができない、ハンターやってるんだよな、何か困った事があったら俺のところに連絡しろ、微力だが力になれるだろう、俺の名はエッシャー・レベルス、レベルスカンパニーの代表をしている」
「・・・はい・・・ありがとうございます、・・・僕は・・・シエル・シェルダンって言います・・・では・・・」
「待て、修理希望箇所を大体聞いておこうか」
「・・・へ?」
そしてエッシャーのおじさんはどこかに通話した後、僕と一緒に宇宙船の中へ、おじさんの後ろには会社の人?、作業服を着たエンジニアっぽい人が2人。
「えと、壁の配管やオイルのパッキンが古くなってオイル漏れと・・・船内の防虫、あとは・・・ダクトの清掃・・・くらいかな」
「遠慮するな、お前の親父さんも何かしてやろうとしたら遠慮してた、そんなところも似てるな」
「・・・」
「操縦桿が古くなってるな、新品に替えよう、なんだこりゃモニターが古過ぎる、替えるぞ、操縦席もガタが来てんな、思い入れは無いか?、そうか、替えよう、あとは空調系の全取り替えと、メイン制御盤を最新型に、エンジンも古いな、製造中止で交換できんか・・・オーバーホールだ、全部バラして整備しよう、それとベッドが汚い、新品に・・・」
「あぅ・・・、ちょっ・・・ちょっと待って!、目立つけど少し傷付けられただけだから!、そんなにしてもらったらお金が大変なことに!・・・」
「気にするな、詫びだって言っただろ、親父さんには何度も命を助けてもらった、俺の大恩人だ、その娘に恩を返せるなら屁でもないぞ、それにおじさんは大金持ちだ、なんなら宇宙船丸ごと新品に・・・」
「・・・い、・・・いえ、いいです!、もう十分ですから・・・」
「社長・・・この船・・・」
「気付いたか、凄いだろう、見た目はボロいが伝説級の遺物だ」
「凄い・・・船内全部に重力制御パネルが敷き詰められて・・・武装も・・・」
僕の後ろでおじさんと社員の人が話し込んでるけど、この船、何かおかしい所あるのかな・・・。
「運送任務の途中か・・・向こうに到着する余裕は50日くらいあるのか、そうか良かった、なんだこれ俺の子会社の仕事じゃないか、安心しろ「偶然会った、俺の友人だったから無理に引き留めた、少し遅れるかも」って連絡しておいてやる、大体10日で全部仕上げるぞ、それまで宿をとって滞在許可も延長しておいてやるからのんびりしてろ、な!」
「・・・はい・・・うぅ・・・」
「このドックじゃ狭いな、俺の持ってる専用ドックに移して改修しよう、今から一度外に出て特区16番ドックに入港し直してくれ、その後一緒に飯を食いに行こう、良いだろ!」
「・・・はい」
そしておじさんと富裕層の住む中央区画にある豪華なレストランで美味しいお食事をした後、紹介状をもらって超高級なホテルにお泊り・・・。
「やだ・・・こんな凄いところ泊まった事ないよぅ、・・・怖い・・・また宿主だって事で酷い目に・・・宿泊拒否とか・・・」
「大丈夫だ、問題無い、ここは俺の会社のホテルだ、宿主の人達が泊まっても大丈夫な仕様になってる、排泄や洗浄の専用機械は各部屋に標準装備してるし最新式だ、超快適だと思うぞ」
「ひぃっ!」
僕をここまで乗せて来た送迎用リムジンシャトルに乗って帰ったと思っていたおじさんが気配を消していつの間にか僕の後ろに居ました、・・・今の独り言・・・聞かれちゃったの?・・・恥ずかしい・・・。
「いらっしゃいませ、レベルス様、シェルダン様!」
従業員の人達が一列に並んで頭下げてるよ・・・なんなのこの歓迎・・・怖い・・・。
「じゃぁ10日後くらいに宇宙船の改修が終わったらこのホテルに連絡する、それまでこのステーションを満喫してくれ」
「・・・は、・・・はい、ありがとうございます・・・」
戸惑う僕を残しておじさんが帰っていきました、そして案内されたホテルのお部屋も豪華・・・。
「・・・い・・・いいのかな・・・、本当に僕なんかが泊まって・・・10日後におじさんの連絡来なくて宿代払えって言うんじゃないよね・・・手の込んだ詐欺とか・・・でも、おじさん僕の宇宙船知ってたし、お父さんの名前も・・・」
僕は背負っていたリュックをベッドに下ろし中から宇宙船の携帯端末、それからお薬15日分を取り出します。
「ふぅ・・・久しぶりに長い時間歩いたから疲れちゃった・・・運動不足だね、ずっと宇宙船の中で、お仕事も相手と顔を合わさずに通信でのやり取りだったからなぁ」
ピ・・・
「あれ?、何だろ・・・入金?・・・リンちゃんのお家から・・・もうそんな時期かぁ、気を遣わないでって言ってるのに・・・まぁ、これで随分生活は助かってるんだけど・・・」
ブンッ・・・
「え、また・・・モニター消えちゃった、ヒンジ部分の開閉でケーブル切れかかってるのかな、それとも接触・・・どっちにしても古いから仕方ないか・・・」
パシッ
ヴー・・・
「ほら点いた、こういうのは叩けば治るって昔お父さん言ってたし、・・・さて、10日くらいここで滞在するなら運行計画やり直さなきゃ・・・まぁ十分余裕はあったから20日滞在しても間に合うんだけど、早く済ませられる事は早めに終わらせたい性格なんだよね・・・」
・・・床が綺麗でゴミも全然無いなぁ、高級そうなホテルだから当然だけど、・・・服とブーツ脱いじゃえ、義足の調子も良くないし、ソファもあるからリラックスしたいな。
「・・・ん、・・・よいしょっと・・・あー、ふかふかのソファ・・・気持ちいい・・・」
端末に向かって運行計画を練り直しつつ、ふとテーブルの横を見ると大きな姿見がありました、僕は引き寄せられるように鏡の前に立って全身を映します。
僕が今着ているのは上下一体型になって身体にピッタリと貼り付いたサラサラ素材の白い宇宙服、今は息苦しいから外しているけど鼻から下・・・口を覆う防護マスク・・・左目はベンダルの爪で潰されたからそれを隠す眼帯・・・。
この服は宇宙船乗りが着ている宇宙服に見えるのですが、実は宿主専用に作られた防護服、薄くて柔らかいけれど宇宙服の機能もあって耐刃、耐候性に優れています、・・・僕の身体から外に幼虫が出て行かない為の措置なのです。
宿主にされた人は、全員この服を着せられて首の部分にある着脱ボタンを首輪で封印されます、この首輪には通信機能が付けられていて、これを外すと管理局に情報が伝わり、役人が僕を捕まえに来ます。
この服を脱ぐと僕は犯罪者になるのです・・・。
やって来た役人から逃げ出そうとすると両腕に嵌められた枷で拘束され、更に抵抗し危険だと判断された場合は胸に埋め込まれた機械から心臓に猛毒が注入されて・・・。
後ろの腰の部分には排泄物を外に出すプラグが2個付いていて、装置に寝転がってプラグにチューブを挿すと一つのプラグからは全身の汚れを洗い流す浄化液が流し込まれ、もう一つの穴から排出されます、これで服の中に溜まった汚物を洗い流すのです。
普通の宇宙服は完全に密閉されていて10日に一度必ず脱いで皮膚を外気に晒さないと爛れたり火傷のような症状が現れるのですが、・・・僕は宇宙服と同じ仕様のこの防護服を30年間着続けています。
最初はこの服が嫌で捕まるのを覚悟で脱ごうとしたけれど、専用の刃を使わないと切れないようで、どうしても脱げなかったのです。
おそらく僕の皮膚は酷い状態になっています・・・今この服を脱いで外気に皮膚を晒すと一瞬で僕の肌は焼け爛れる・・・と博士は言っていました、怖い・・・。
「この服・・・大嫌い、きついし身体が締め付けられて苦しいの、それに・・・」
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