第4話 004 - りんちゃん -

004 - りんちゃん -



「・・・むふふ、リンちゃん驚くかなぁ」


ピッ・・・カイセン・・・セツゾク・・・ヨビダシチュウ・・・


「・・・はい、エルちゃん?、ど・・・どうしたのその絵に描いたようなお金持ちっぽい格好!、それに凄いお部屋!」


「やぁ、リンちゃん、ご機嫌いかがかな?」


僕はソファにゆったりと座って足を組み、お金持ちが着てそうなホテルに備え付けのバスローブを羽織って・・・片手にはワイングラスを持っています。


「ご機嫌は・・・いいよ、ってか今寝起きだけどいっぺんで目が覚めたよ!」


「びっくりした?、実はね・・・」


「・・・そんな事があったんだぁ、・・・でも嫌だな・・・宿主の人にそんな酷い事を、・・・うぅ・・・ごめんね・・・私のせいでエルちゃんが酷い目に・・ぐすっ・・・」


「わぁー、もう気にしないでって言ってるのに、・・・悲しませようとして通話したんじゃないんだけどなぁ、・・・お陰でボロい宇宙船がピカピカになりそうだよ、どう?、この超高級ホテル!」


そう言いながら携帯端末を持ってお部屋を歩き回ります。


「うん凄い、・・・それに浮かれてはしゃいでるエルちゃんも凄いけどね・・・、レベルスカンパニーって確かイシス星の周辺だけじゃなくて別星系でも手広くやってる巨大企業だよね、その社長さんとエルちゃんのお父さんが知り合いだったなんて・・・」


「僕も驚いたよ、顔はいかついけど優しそうな人だったな、おじさんには僕の事であまり迷惑かけたくないから今回の宇宙船の改修が終わったらそれっきりになるだろうけどね、多分向こうもそんな感じだと思うよ」


「でも困った事があったら頼れって言われたんでしょ、お言葉に甘えて頼っちゃえばいいじゃん」


「そうは言ってもねー、僕が人付き合い苦手なの知ってるでしょ、出来るだけ人と関わりたくないの、今日の豪華レストランでのお食事だってすっごい緊張したんだから、もうね、住んでる世界が違う!、みたいな?」


「そっかぁー、エルちゃんもしかしてほとんど会話が出来なかったとか?」


「いや・・・それなりにお話はしたよ、無言だと失礼でしょ」


「・・・あ、それからね、近いうちにローゼリア星のステーションに来る予定ないかな?、エルちゃん私のお誕生日にプレゼントくれたでしょ、もうすぐエルちゃんのお誕生日だから、うちでパーティしないかってお父さんが・・・」


「そういえばもうすぐだったね、でもその頃は運送のお仕事でまだランサー星系に居るかなぁ、残念だけど・・・おじさんには謝っておいて、近いうちに必ず会いに行くからって・・・」


「そう・・・じゃぁ仕方ないね、プレゼントはその時に渡すよ、前に送ったら事故で届かなかったからね」


「確かにあちこち行ったり来たりしてる宇宙船宛に荷物送るの難しいからそうしてくれると嬉しいな、・・・いつもありがとうね、・・・じゃぁリンちゃんも用事あるだろうからこの辺で通信切るね」


「うん、またね」


・・・ピ・・・ツウワヲ・・・シュウリョウ・・・カイセン・・・セツダン・・・


「・・・リンちゃんの驚いた顔、面白かったなぁ、ふふっ・・・」


今僕とお話ししていたのは親友のリンちゃん、本名はリンシェール・フェルミス、僕と同じ長命種の女の子、今はエテルナ星系第2惑星ローゼリアの軌道上にある8号ステーションに住んでいます。


僕の種族はこの宇宙に数多く住んでいる短命種と呼ばれている人達よりとても長生きでゆっくりと成長します、短命種が生まれてから歳を取り、一生を終える年月は僕達のような長命種にとっては人生のほんの僅かなひと時・・・。


リンちゃんは僕より8歳年下の137歳、短命種に換算すると13歳か14歳くらいかな、僕は今145歳だけど長命種の8歳差なんて誤差の範囲内だからほぼ同い歳なのです。


リンちゃんと初めて出会ったのは僕が78歳の時、よく本を読みに行っていたステーション外周区の図書館でした、2人は同じくらいの年齢で本好き同士という共通点もあり、すぐに仲良くなりました。


でも・・・僕がベンダル・ワームに寄生されてしまった事件があって、僕達の仲は微妙な関係になってしまいました、お互い気を遣い合い、以前のように心から笑う事もできなくなって・・・。


僕とリンちゃんはその事実を認めたくなくてお互いに長距離通話をして連絡を取り合っています、昔と同じように、仲が良さそうに、作り笑いを浮かべて・・・。


「リンちゃんのせいで僕は!・・・」


そう何度か言いそうになったけれど・・・でもリンちゃんが大好きだから、この言葉が僕の口から出る事は絶対に無いのです・・・。


「・・・リンちゃんのせいじゃない、悪いのは全部・・・ベンダル・ワーム」









ピッ・・・通話を終了しました。


「・・・」


「・・・もうこんな時間・・・お仕事行かなきゃ」


私の名前はリン・・・、リンシェール・フェルミスといいます、長命種の137歳、読書が大好きな女の子でした。


「エルちゃん・・・」


私には幼い頃からとても仲のいいお友達が居ます、彼女に初めて出会ったのは私が70歳の頃・・・。


頻繁に両親と一緒に訪れていた外周区の図書館、周辺は比較的治安も良く、館内の蔵書も豊富で本の購入も出来る私のお気に入りの場所、その図書館の机に座っていつも本を読んでいる小さな・・・私と同じくらいの女の子が居たのです、それがエルちゃんでした。


シエル・シェルダン・・・エルちゃんは私より8歳年上の78歳、私達長命種にとっては8歳差なんて誤差の範囲でほぼ同じ年齢です。


無口で人見知り、でも知的で物静かな女の子・・・というのが私が最初に感じたエルちゃんの印象でした。


エルちゃんのお父様は元ハンターで宇宙船に乗っていたそうです、その後結婚してハンターは引退、内周区で通信のお仕事をしていると言っていました。


ご両親共に忙しく、エルちゃんは私と出会う前からいつも一人図書館で過ごしていたのだとか。


私とはお家が近かった事もあって図書館でよくお話をするようになり、お泊まり会をしたり夕食を一緒に食べたり、頻繁に遊ぶように・・・。


私達が本当に心を許せる親友になるのにそれほど時間はかかりませんでした。


それから30年が経ち、私達長命種が一人前の成人と認められる年齢・・・私の100歳の誕生日まであと1年、エルちゃんが107歳という時に最初の事件が起きました、突然エルちゃんのご両親が失踪したのです・・・。


結婚後も忙しくて旅行に行く機会がなかったエルちゃんのご両親、まとまった休暇がようやく取れたので民間宇宙船を乗り継いでの恒星間旅行・・・。


私のお家に挨拶に来て、留守の間エルを頼むって言われた時も特におかしな様子は無かったのです・・・しかし2人はランサー星系の外れの惑星近くで消息を断ちました、行方不明の連絡があって私に縋り付いて泣き出したエルちゃんのお顔は今でも忘れられません。


一緒に旅をしていた人に話を聞いても途中から突然居なくなった、日程を変更し惑星に降りて観光してるのだと思っていたって・・・。


失踪から1年が経った頃、エルちゃんのお家でお手紙が見つかりました。


父親の机の引き出しから自分達に何かあった時にはこの家と持っている特許に関する権利、所有している宇宙船をエルちゃんに譲るという書類・・・言い方は悪いのですが・・・遺書のようなものが見つかったのです。


お手紙を見つけてからエルちゃんは少し変わりました、宇宙船操縦免許を取得してハンターギルドへ登録したのです・・・、ご両親が失踪してからずっと泣いていたのが嘘のように行動的になりました、私は・・・ご両親を探しに行くのかな、・・・ってなんとなく思っていたのです。


そして・・・。


私が107歳、エルちゃんが115歳の時に第二の事件が起きました・・・いえ、私がわがままを言わなければ起きなかった筈の事件なのです。


事件当日は私の大好きな作家の新刊が発売される日・・・もう遅いから明日にしようと言うエルちゃんの言葉を聞かず、どうしても今日がいいと主張した私と、私に付き合ってくれたエルちゃん、夕方2人で図書館に行った帰り道で遭遇してしまったのです・・・。


80年ほど前にこの世界に突如として現れ、星団中の人型種族を恐怖に陥れた謎の生命体に・・・。


何度も2人でお喋りをしながら通った慣れた道だった筈なのに、この日は何かおかしい・・・道の向こう・・・図書館の隣にある運動施設の周辺が騒がしく、人の叫び声が聞こえ始めたのです。


私が声のする方に視線を向けると・・・居たのです。


人の2倍ほどの大きさで、鋭い爪に大きな口、体の後ろから生えて蠢く沢山の触手・・・人型の種族だけを襲い、卵を産みつけ寄生する凶悪な宇宙生物、ベンダル・ワームが・・・。






「リンちゃーん、いつまで寝てるの?、お仕事に遅れるわよ!」


お母さんの声がして現実に引き戻されました・・・また昔の事を思い出してた・・・。


「もうこんな時間だ、遅刻しちゃう!」






ざわざわ・・・


ここローゼリアでは惑星観光の・・・


・・・アレフ主任技師・・・至急59番ドックまで・・・






「惑星ローゼリア軌道第8号ステーションにようこそ!、検疫担当のフェルミスと申します!、船体は問題ありませんでしたので次はあなたの身体をスキャンさせて頂きます、そちらのスキャナーに横になって下さい・・・病歴はありますか?」


「・・・」


「どうかされましたか?」


「・・・あの・・・私、・・・ベンダル・ワームの幼虫に寄生されています、・・・でも今はお薬を飲んで安定してるの・・・だから・・・」


「ベンダル・ワームの宿主の方ですね、お薬を服用されているのでしたら問題無いと思いますよ、怖がらないでこちらに横になって下さいね、私が身体に触れても大丈夫ですか?」


「・・・身体は敏感なので、できれば触れられたくないです・・・」


「かしこまりました、では手を触れずに作業しますね」


ピッ・・・スキャン完了しました、検査結果を出力します・・・。


「えーと、寄生レベル5、この結果を見る限りでは問題ありませんね、こちらは滞在許可証です、改めて・・・第8号ステーションにようこそ!」


「・・・私・・・検疫でこんなに親切にされたの初めて・・・どうもありがとう」


「・・・これは私が作ったものなのですが・・・ステーション内で宿主さんに比較的寛容な施設やお店を地図にしてまとめてあります、よろしければお使い下さい」


「え?・・・わぁ・・・こんなに詳しく・・・ありがとうございます!」


「でも、あくまでも「比較的」寛容なお店ですので・・・」


「い・・・いえ!、助かります、本当にありがとうございます、・・・あの・・・」


「はい?」


「あなたは宿主が怖くないの?・・・みんな私の事を気持ち悪いって・・・」


「私のお友達も宿主なのですよ、この地図は彼女の為に作ったもので・・・でもこのステーションにはあまり立ち寄ってくれないの・・・」

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