共に歩む孤独

別れを覚悟し合った二人が夜の海で月を眺める綺麗な話。

長くない文量で表現が綺麗なのでスラスラ読めて、加えて短いことを生かして読者に結末を任せる形で書かれていて構成もよかったです。

この作品で特に面白く思った点が、男性は徹底して女性について確かなことを語らない点です。

作中の決定的な理由があったわけではないのだと思う。から始まる段落が特にそうで、男性は別れに至った今になっても具体的な問題や女性の心情を推察さえせずに、「自分にとっての女性」また「幻想的な風景、安い服の生地、歳を重ねた厚化粧」に意識を向けてしまっています。目の前の相手の感情を想像しない。

そしてラストシーン。ここでも女性の心の底から出た言葉の真意を正確に把握することなく抱き締めています。その場の雰囲気や自身の内面に夢中になってしまう男性、また女性もそんな男性と共に過ごしてきたのに感情が先行してしまって正確に思いが伝わりきっていないんですよね。20年に及ぶ二人のすれ違いがラストシーンでもよく描かれています。

この状況がすごくリアルで血の通った感じがして、世の中にはこういった「本来は致命的で直すべきすれ違いを持った関係」が「日々の忙しさや綺麗な思い出やその時々の美しさにごまかされて」無数に続いています。私はこの二人は今後もお互いのことを真に理解せぬまま共に歩むのだろうと思います。この話は「共に歩む孤独」という単純な孤独よりも胸を抉る悲しさを放っています。

恐らくこの内容を具体的な出来事を介して長い文章で表現すると男性に感情移入できなくなるのですが、短い文章で書かれているからこそこの愛情を軸にしたすれ違いがひっかかることなく入ってきて作者さんの優れたバランス感を感じました。