傲慢な女王と従順な召使い

ジャック(JTW)

女王の生涯

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 小さな国の王宮には、傲慢な女王がいた。

 彼女は幼い頃から玉座に君臨し、誰に対しても高慢な態度で接し、自分の望む通りに物事を進めることを常に求めていた。

 食事も水も、彼女の気に入らないものは一切受け付けず、常に高級な品を要求する。

 身に纏うものも最高級品オーダーメードでなければならず、彼女の細かいこだわりに従わない者には容赦なく罰を与えることもあった。


 そのような女王に仕える召使いがいた。彼は常に謙虚で、女王の命令には絶対服従し、決して不平不満を口にすることはない。

 時には女王の苛烈な振る舞いや暴言に対しても、彼は微笑みながら受け入れ、嬉しそうにしているように見える。


 女王は、その召使いの態度に疑問を持ったが、彼の心の奥にはどのような思いが秘められているのかは分からなかった。

 そして時は流れ……。


 *


 女王は長きに渡って国を治め、民の尊敬を集めてきたが、老いには勝てなかった。彼女の健康状態は日増しに衰え、身の回りの世話を召使いに任せざるを得なくなった。

 召使いは献身的に女王の身だしなみや排泄の世話をしてくれ、彼女の最後の日々を支えた。


 ある日、女王は召使いに向かって尋ねる。「なぜあなたは私にここまで献身的に仕えてくれるの?」と。


 しかし、召使いは鳴き声を発するだけで、意味のある言葉を伝えることはできなかった。それでも、女王は召使いの声色から、彼が泣いていることを理解した。

 彼の心の奥底に秘められた思いが、言葉にならなくても女王に届いたのだ。


「小さい頃から泣き虫だったわね、あなた」そう女王は呟き、慰めるように言葉をかけた。



 やがて、傲慢な女王は、最期の時を迎えた。彼女は苦しげに息を吐きながら召使いの頬を舐めてやり、「今までご苦労だったわ。ありがとう」と言って息を引き取った。

 その瞬間、女王の豪奢なしっぽもぱたりと伏せて、そのまま動かなくなる。


 召使いは女王の最期の言葉に耳を傾け、その意味を理解したように見えた。彼は女王の側に寄り添い、彼女の最期を見届ける。そして、女王の息が絶えると同時に、召使いは泣き崩れた。


 *


「ミケ! ミケ! ミケ……!」

 青年は、愛猫の亡骸に寄り添って大粒の涙を零した。

 子猫の頃から共に過ごしたミケは、本当に幸せだったのだろうか。食事の好みがうるさくて、新鮮な水じゃないと飲まなくて、首輪の種類にもこだわりがあった。手作りの首輪しか付けてくれない、人間に媚びたり甘えたりしない高貴なミケ。可愛いミケ。


 彼女は最期に頬を舐めてくれた。

 青年は、涙が枯れるまで、ミケの隣で泣き続けた。



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