山の牧場

まる・みく

山の牧場

 私たちのオカルトサークルが都市伝説の定番「山の牧場」の探索レポートしようとなった時、嫌な予感がした。


 あまりにも定番過ぎて今更なのだが、、「山の牧場」を探して写真を撮ろうものなら、撮影した人間は行方不明、音信不通、調べた挙句、登記簿でなど調べたら、法人格の代表者が出て来たが、その人物もその住所の近隣の人間に尋ねても見た事がないという。


 調べている内に、調べている人間が謎に取り込まれて、安倍公房の「燃えつきた地図」の登場人物になったようなものである。


 「うん。気持ちは判った。でも、その案件は定番過ぎるし、安直だ。それに、場所が何処だか判らない」


 私は文芸部に過ぎなかったこの部をオカルトサークルに仕立て上げた張本人に言った。


 「なら、大丈夫よ。地図を手に入れたの。じゃーん!!」


 と広げられた地図は何のことはない。この土地で自動車で一時間ほど行った山の中だった。


 「おい。これを何処で手に入れた。本物なのか」


 「もちろんよ。いつも行く古本屋のおじさんが『ねぇ、きみ、きみ、お嬢ちゃん、オカルトに興味があるんだってね。山の牧場の話は知っているかい?地図があるんだけれど、いらないかい』と言ってきたわけなのよ」

 ニコニコと話を続ける彼女を見て、何を考えているんだこの女はと思った。

 「で、それで買ったの」

 「いくらで」

 「それは…」

 答えた額はこの部の一年間の部費の半分だった。

 頭を抱えた私はどうやって、この採算を取ろうかと計算を始めた。

 「クーリングオフは効かないのか」

 「何を言っているのよ。山の牧場よ、山の牧場。レポートを大々的に発表すれば文化祭の注目を浴びるわ」

 元・文芸部、オカルトサークルの部長はやる気まんまんである。

 

 こういう時、下級生の反対意見と言うか、部としての意見を求めるべきなのだが、下級生の部員、英、尾、椎はモブも同然だから、元・文芸部、現・オカルトサークルの部長の言いなりである。


 と、いうか、こいつら、部室の片隅で原稿を書いているのをよく見るが、何を書いているか見た事がない。見せろ言っても、話をはぐらかせる。こいつら自体、オカルトだな。


 「さぁ、出発よ!!」

 オカルトサークルの部長である彼女の声は晴れた空に響いた。

 「行くのは良いけれど、おれら、ふたりかよ」

 私は文句を言った。

 下級生の部員、英、尾、椎は「原稿の締め切りがありますので」と早々、この企画から撤退した。

 行くのは私とテンションは高く無計画なオカルトサークルの部長(女子17歳)である。

 近隣の山という事なので、移動は自動車ではなく通学に使っているオバチャリになった。

 これ以上、タクシーなどを使い、部費を消耗させる訳にはいかない。悲しき会計係の悲しさよ。


 山の牧場には思ったほど、早く到着した。

 「これが有名な山の牧場ね」

 オカルトサークルの部長、女子(17歳)は上機嫌に言った。

 まるで、アトラクションショーで満たされているテーマパークに来たような感じである。

 「じゃ、レポートを始めるわよ」

 「OK」

 私はスマホで撮影を始めながら、何事も起こりませんようにと願った。


 「みなさん、こんにちは。私は尾和良瀬高校のオカルトサークルの部長佐伯静香です。

 今日は部活動の一環を伝えるべく都市伝説で有名な山の牧場にやって来ています。

 ドキドキしちゃいますよね。

 山の牧場ですよ、山の牧場。


 見えますか。これが山の牧場の全景です。

 何処かの宿舎に見えますが、二階に行く為の階段がありません。

 変ですね。あきらかに、怪しいです。

 都市伝説になる所以はここにあるんですね。


 何処かの宿舎である筈なんですが、みなさん、見えますか。

 ここには、トイレもお風呂もありません。


 なんのために作られた建物なんでしょうか


 もっと、奥に行ってみましょう。


 や、や、や、ここにあるのは、二階の床をむりやりぶち抜いて作られた階段を見つけました。


 これが有名な強引に作られた階段ですね。


 ちょっと、上に行ってみましょう!!


 上に着きました。かなり、埃っぽいですね。


 だれも掃除をする気がないのでしょうか。


 や、や、や、や、これは試験管ですね。


 なにかの実験をしていたのでしょうか?


 あきらかに、怪しいですね。」


 私は須磨の撮影を止めると、オカルトサークルの部長の女子(17歳)に

 「どうする?ちょっと暗くなって来たし、続きは明日、という事で良いんじゃないか?」

 と提案した。

 「そうね。自転車で来るのに、時間がかかり過ぎちゃったしね。所で、撮れ高はどうなの?尺は間に合いそう?」

 「学園祭の演目としてはこんなものかな」

 「そうね、明日、また、来ましょう」


 「ところでさ、今まで映したスマホの映像を見せてよ」

 と、オカルトサークルの部長の女子(17歳)が言うので、今まで映した映像を再生した。


 「みなさん、こんには・・・」

 から始まる映像にはオカルトサークルの部長の女子(17歳)の周りで遊ぶたくさんの児童が映っていた。

 いきなり、消えたかと思うと、二階の窓(そこに足場はない)から顔を覗かせると、今度はオカルトサークルの部長の足にまとわりついたりし始めた。

 どうやら、運動会でもしているようだった。


 「山の牧場の案件としては聞いた事のない事が現れているようだけれど、どうする?発表するかい?」

 と、会計係の私は聞いた。

 「…」

 長い沈黙の後、オカルトサークルの部長の声は沈んでいた。

 「とにかく、帰りましょうか」


 それから、しばらくして、オカルトサークルの部長(17歳)は学園祭の開催を待たずして、転校してしまった。


 私はスマホで撮影した映像を削除してから、スマホを破壊、落とした事にして、新しいスマホに買い替えた。

 保険に入っていたので、費用はそんなに掛からなかった。


 オカルトサークルはいつしか、元の文芸部に戻った。


 平穏な平穏な日々が戻った。

 

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山の牧場 まる・みく @marumixi

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