第45話 おじさん、応える

 町外れの水路。

 俺の癒やしの場。

 そこで俺は……。



 ほげ~~~~~~。



 ほげ~状態。


 俺、抜けてるよ魂。


 え、なんですって?


 凛とした美少女、騎士団長セオリア。

 野性的な美女、跳ぶビーティング僧侶プリーストハンナ。

 合法美幼女、寿術師ミカ。


 この三人が。


 なんと。


 復讐でもなんでもなく。


 俺のことを恨んですらなく。


 むしろ。



 好き……?



 だって?


 えぇぇぇぇぇぇぇ……?


 どうすりゃいいのよそんなこと言われても……。


 約一回り年の違う娘たち。


 付き合う……?


 なんてもちろんありえないな……。


 あれ……?


 じゃあ、なんで俺は告白された時にすぐ断らなかったんだ……?


 動揺してたから?


 それとも……。


 え、あるのか?

 俺の中に。

 あの三人をどうにかしたい的な気持ちが。


 ……え、嘘でしょ?


 だって子供じゃん!


 いや、子供って言っても今セオリアは二十六才、ハンナは二十二才、ミカは十八才で女盛り真っ只中だ。


 ってことは、年齢の問題じゃないのか……?


 年の差。

 そう、年の差の問題だ。


 俺、三十六才。

 その差。

 セオリア、十。

 ハンナ、十四。

 ミカ、十八。


 いや、ダメだろぉ~。

 ミカなんか俺の半分じゃん。

 セオリアの十才差は……う~ん……どうなんだろ。

 わからん。

 客観視ができん。


 だってだよ?

 十年間会ってなかった子どもたちがさ。

 今は美少女や美女になってて。

 こんな山の中にこもってたおっさんに。


『ケントのことが好きなの!』


 いやいやいやいや~!

 ないでしょ!

 

 ぶぼぼぼばば!(思考回路クラッシュ音)


 ……ぷすん。


 うん、わからん。

 一人で考えててもムーリー。

 ってことで相談しに行こう、誰かに。



 【行きつけ露店の女店主ソウォン】


「あら、賢者様今日はお一人で! なんだい、やっと私と所帯持ってくれる気になったかい? え? 違う? 相談?」


 俺はすっかり馴染みとなった肉感的な女店主ソウォンに「かくかくしかじか」と打ち明ける。


「はは~ん、そんなの簡単だよ! 全員と寝ちゃえばいいんだ!」


「……は?」


「ほら、結局は体の相性なのさ! ってことで賢者様! さっさと三人とやっちまってから決めりゃいいよ!」


「いや、でも年の差が……」


 バチーン!

 背中を叩かれる。

 痛い。


「年の差がなんだってんだい! うちのウォンヒの父親は私より二十も年上だったよ!」


 えぇ……?


「ま、最悪三人ともはらましちまってもいいんじゃないかい? 少なくとも、好きだった男の子供を宿してイヤな想いする女はいないと思うよ。今どきはね、こうやって女手一人でもどうにか子供を育てていける世の中だ。だから、さ。こうやって悩んでるってことは、あんたも実は気があるってことだよ!」


 うぉぉ……なんか意見がリアル。

 孕ませるってのはちょっとないと思うけど、う~ん……そうかぁ……。

 悩んでるってことは実は俺も気がある、かぁ……。


「スウォン、参考になったよ、ありがとう」


「そうかい? やっちゃう前にはウチで食事するのがオススメだね! なんてったって、も~あれがビンビンの……」


「あ、あぁ……考えとくよ、あはは……」



 【武器屋ボルト】


「いらしゃい……ってケントか」


「忙しそうで」


「誰かさんの宣伝効果が効きすぎてな」


「お前の渡した剣がすごすぎただけだよ」


 キャーキャーと店にいた客たちが嬌声を上げる。


 懐かしいなこの感じ……。

 冒険者全盛期の頃を思い出すわ。


「はいはい、悪いが店は休憩だ。お客さんたちは悪いが出てってくれ」


 言われた通り素直に出ていく客たち。

 その視線がねっとり絡まってきてなんだかちょっと居心地悪い。

 

「……で、なんだ? 話があるんだろ?」


「あぁ、それなんだが……」


 セオリアたちのことをボルトに告げる。


「ハーレムじゃねぇか」


「いやいや、子供だぞ?」


「どこがだよ、立派なお嬢さんたちじゃないか。一人ガチ子供はいるけど、あれも十八才だかなんだろ?」


「いや、そうだけどさ……」


 ボルトは腕を組んで「う~む」という顔をした後。


「武器屋ってのはさ、武器と向き合う仕事なんだよ。どこまでいってもさ。お前、ちゃんとあの子らと向き合ってるか?」


 向き合う、か。


 向き合って……。


「ないな、うん!」


 だって俺のことを殺そうとしてると思い込んでたくらいだし。


「はぁ……だろうな。ザ・鈍感。冒険以外はからっきしなお前だ。どういう答えを出すにしろ、真っ直ぐ向き合ってやれ。子供だとか、過去のことだとか、そういうのは一旦横に置いといてな」



 【冒険者ギルド長ベルド】


「や~っと気づきやがったか、このウスラトンカチ! あ、ベルちゃ~ん、その書類は後で確認するからそっちに置いといてねぇ~、えへへ~」


 新しい受付嬢に鼻の下を伸ばしながら俺に悪態つくベルド。


「え、なに? その『俺は前から気づいてましたがなにか?』みたいなの」


「気づいてたに決まってるだろ! バレバレだっつ~の!」


「え……マジで?」


「マジで……」


「うぉぉ……orz」


「ベルド……いや、ベルドさん! 俺、一体どうしたらいいか……」


「あぁ? そんなの決まってるじゃねぇか」


「え?」


「その三人はお前と冒険をしたくて頑張ってたんだろ? じゃあ、すりゃいいじゃねぇか。冒険を」


「……!」


 盲点。


 告白されたことで頭がいっぱいだったわ。

 そうだよ。

 元はと言えば、三人は俺とまた冒険をするために厳しい訓練を頑張ってきてたんだ。


『俺と再び冒険すること』


 それだけを心の支えにして。

 ずっと耐えてきたんだ。

 あの三人は。


 ……って、あれ?

 じゃあさ。

 じゃあだよ?


 もしかしたら、その心の支えを恋だと錯覚しちゃってたりする可能性も……?


 ありうる。

 大いにありうるな、これ。

 おお、なんだかちょっと光明が見えてきた気がする。


 うん。

 それなら。

 もう一度冒険をすれば、三人ともすっきりして俺に抱いてる恋心が幻想だと気づくのでは?



 【万能の大魔術師リンネ・アンバー】


 せっかくだし年長者っぽい女性の意見も聞いておくことにした。


「はぁ? 三人に同時に告られたぁ? ケントよ、ワシにモテ自慢か?」


「残念ながら、それは彼女たちの勘違いだと思うんだよな。俺に対する執念を恋と勘違いしちゃってるというか……」


「ふむ。なるほどのぅ。お主、戦い以外に関してはてんでボンクラだと思っておったが、存外に鋭いではないか」


 色んな人と話してだいぶ整理できたからね。

 っていうか俺、ボンクラだと思われてたの?

 そんでリンネもリンネでボンクラだと思ってた相手に求愛するなよ……。


「で、経験豊富そうなリンネさんならどうするかなと思って」


「いいのではないか?」


「は?」


「勘違いとお主は言ったが、恋なんて大体が勘違いじゃぞ? いや、全部と言ってもいいな。いずれは必ず冷めるもの。なら熱いうちにいただいとかなくてどうするよ、剣士ケントよ」


「い、いただくって……」


「時にケントよ。人は一生のうちで一体、何度人を好きになるんじゃろうなぁ。一回? 二回? それとも五回か? いずれにせよ、それが勘違いだったとしても。お主には、その貴重な生涯数度だけの恋に対する責任があるのじゃぞ?」


「責任、っすか……」


「つまりは」


 リンネはぐったりしてる半人半魔のレインに対してお札を一枚シュッと投げると。



 微かに唸るレインの体の中にお札がズズズ……と消えていく。


「それをはっきりと示すことじゃな」



 【翌日 教会裏の丘 大樹の下】


 晴れ晴れとしたいい気分だ。

 昨日の返事をすべく、セオリア、ハンナ、ミカに集まってもらった。


「ケント……その、昨日は突然ごめんなさい」

「あぁ、私らが重荷だったら……その……振ってくれてもいいんだぜ」

「まずは答えを聞かせて。振られてもつきまとうかもしれないけど」


 三者三様。

 だが、みんな少し落ち着きがない。

 当然だ。

 告白して、その返事を言い渡される。

 そりゃドキドキするよな。

 申し訳ない。

 こんなおっさんごときが、こんな若くてきれいな子たちにこんな表情をさせちまうだなんて。

 だから。


「セオリア!」


「は、はい……!」


「俺をカイザスに連れ戻してくれてありがとう! 感謝してる! セオリアのおかげでこうやってみんなともまた会って誤解を解くことが出来た! これも全部セオリアが俺を探して誘ってくれたからだ!」


「そ、そんな……私はケントを騙して連れてきたのに……」


 ふふっ、真面目だなセオリアは。

 でも、彼女のそんなところに俺は好意を抱いている。


「それからハンナ!」


「お、おう……?」


「冒険者を引き止めてくれててありがとう! ハンナがいてくれたおかげでエルくんたちみたいなやり手の冒険者が残ってくれてた! 本当に感謝してる!」


「結果的に、だけどな……。まぁケントの役に立てたってんならよかったかな、へへ……」


 照れくさそうに鼻を掻くハンナ。

 真っ直ぐで直情的で時に野性的なハンナ。

 それでいて、実はちょっぴりシャイ。

 俺は彼女のそういうところに魅力を感じている。


「ミカ!」


「ひゃい……!」


「一生懸命魔法を修行してくれてありがとう。ミカの黒帳ナイトシェードは、今もレインを拘束するのに役に立っている。きっとこれからもミカの寿術はたくさんの人を救うだろう! 立派に成長してくれてありがとう!」


「私はケントのことを想って……」


 ああ。

 一途なんだよな、ミカは。

 それこそ自分の成長を止めてしまうほどに。

 俺はそんな彼女のことを好ましく思っている。


 だから。


 ……うん。



「冒険をしよう!」



 三人の目が見開く。


「まずは、どこかダンジョンを攻略しよう。昔失敗した依頼クエストでもいいな。どこでもいい。俺は冒険したいんだ、お前たち三人と。俺は鈍感でアホなうえに年も取ったおっさんだ。取り柄と言えば戦いと冒険だけ。だからさ、冒険を通じてお前たちともっとわかり合いたいんだよ。いろいろなことは、その後考えよう。今は、したいんだ。お前たちと。十年ぶりの」


 三人の目に涙が浮かぶ。



「冒険が」



 俺は抱きついてきた三人を優しく抱き返すと、心地のよい緑の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。


 うん、そうだ。

 いいじゃないか。

 今は、こういうので。


 これから冒険しながら、ゆっくりと見つけていこう。


 俺と。


 この子達の。


 、答えを。



 ────────────


 【あとがき】


 ここまで読んでいただいてありがとうございます!

 おじさんの勘違いも解けて「さぁ三人娘とこれから冒険!」というところなんですが、五月から始まるネトコンの準備をするためここで一旦完結とさせていただきます。


 また、せっかく10万字超えたのでちょうど今やってる『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』に登録してみました。

 ちょっとでも「おじさんに好感が持てた」「おじさん、たまにかっこよかった」と思っていただけた方は『ブクマ』、『★★★』、『♡』をお願いします。


 再開する時はもっとおじさんの「こういうのでいいんだよ」要素と女の子たちとのイチャイチャ部分を強く押し出して進めていきたいです。

 では、また他の作品やこの続き(ドラノベさん頼む!)でお会いしましょう~。

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こういうのでいいんだよおじさん、伝説になる ~元パーティーメンバーからの復讐は実は求婚!? しかも世間からは「違いのわかる賢者様」なんて呼ばれてるみたいです!?~ 祝井愛出汰 @westend

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