もう二度と離さないで

双瀬桔梗

やっとみつけた。

 男は最愛の人を探していた。


 親の再婚で家族になった、血の繋がらない弟のようは天真爛漫で、誰とでも仲良くなれる。男とは真逆の存在。


 男は最初、誰からも愛される陽を妬んでいた。


「僕はね、怖いお化けが見えるんだ」


 だから幼い陽を怖がらせようとした。


「コワいおばけはオレがやっつけるからダイジョーブだよ!」


 それなのに陽は笑顔でそう言って、男を抱きしめる。自身は霊が視えないのに、男の言葉を疑わず、真っすぐ受け止めた。そして宣言通り、笑顔だけで悪い霊を消滅させた。


 そんな陽に男は次第に心惹かれ……いつしか、大切に想うようになる。




 それから十数年後、陽は不慮の事故で亡くなった。


 男は悲しんだ。けれども、寂しくはなかった。陽の霊が、ずっと傍にいてくれたから。だがある朝、陽は男の前から姿を消した。


 男は二人の思い出の場所を探してみたが、一向に見つからない。そこで男は記憶の中からヒントを探した。


 ――最果ての地って……なんかカッコいい!


 一緒に見ていたドラマの主人公が発した言葉を聞いて、陽はそんな事を言った。一度、行ってみたいとも。


 何も確信はない。それでも男はドラマの舞台となった、最北の地へと向かった。




「やっと見つけた」

 海を眺める半透明の陽を見つけ、男は呟く。


「陽」

 男は陽の背後に立ち、名前を呼ぶ。陽は男に気がつくと、慌てて逃げようとする。だが、男に両肩を掴まれ、逃げられない。


「どうして僕から離れたの?」

 男は問いかける。陽は少しの間を置いてから、口をパクパク動かす。

 陽の唇の動きを読んで、理由が分かった男は呆れてため息をつく。


「あれはただの風邪だと言っただろう? 陽が憑いてるから体調を崩した訳ではないよ」

 男の言葉に陽は目を丸くする。それからすぐに胸を撫で下ろし、恥ずかしそうに微笑む。


「陽、一緒に帰ろう」

 男は陽に手を差し出す。陽は大きく頷き、笑顔で男の手を取る。つられて男もふわりと笑い、陽に言った。


「もう二度と離さないで」

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もう二度と離さないで 双瀬桔梗 @hutasekikyo_mozikaki

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