闇の中で、はなさないで
蒼井シフト
闇の中で、はなさないで
崩れずに残った建物を見つけた。
内部も、ほとんど荒らされた形跡がない。
どうやら、病院だったようだ。
色褪せた案内図によると、2階建てだが、地下は6階まである。
「地下の方が多いって珍しくない?」
ナオが不思議そうに言った。
「それだけ備蓄が大量にあったってことだよ。
これは非常食が残っているかも!」
私たちはフラッシュライトの光を頼りに、階段を降りた。
地下は真っ暗だった。
地下1階は、端末やデスク、棚のある部屋が続く。
「荒らされていない部屋なんて、私はじめて見たよ」
「うんうん」
地下2階は、薬品が手つかずで残っていた。
「信じられない! 薬が残っている」
「誰も入ってこなかったのかな? これなら食べ物も」
期待が膨れ上がる。
だが、地下3階の部屋は、全て鍵がかかっていて、入れなかった。
その先の階段は、地下1~3階とは反対側にあった。
地下4階。このフロアの扉も開かなかった。
ライトの光が弱まった。電池が無くなりそう。だが諦めきれない
地下5階。室内の様子が変わった。天井がむき出しになり、ダクトが見える。
フロア内は大きな倉庫になっていた。
そして、待望の非常食があった!
荷物を持ち出した跡がある。おそらく、軽いフリーズドライや、レトルトタイプを選んで、持って行ったのだろう。缶の非常食が残っていた。
「クラムチャウダー20人前だって!」
「10人前まとめて食べられるってこと!?」
「見て! パンの缶詰だ」
「スープにパンを浸して食べられたら、死んでもいい!」
私とナオは、抱き合って喜び合った。
その時、ライトが消えた。
鼻をつままれても分からない程の暗闇に包まれる。
非常食をリュックに入れた。
それからロープを腰に結び付け、端をナオに持たせた。
「絶対に、はなさないで」
「わかった」
来た道を戻る。真っ暗闇でとても怖い。足元もおぼつかない。
地下3階を横切る途中、背後で「ぎぃぃ」という音がした。
「#&Φ§γ∫ΘБΘЧ!!」
声にならない声を上げて、駆け出す。
階段にたどり着いた所で気づいた。ロープが力なく垂れ下がっている
「ナオ! ナオ!」
慌てて闇に向かって叫ぶと、再びロープが持ち上がった。
夢中でロープを手繰る。手と手が触れあった。
手を引いて、階段を上った。
足元が見えない中で、さぐるように足を進める。
ようやく、地下1階に到達。
あと少しだ。上から細い光が漏れてきて、踊り場がぼんやりと見えた。
ここを回れば、地上だ。
ほっとして、ナオの手を握りしめた。震えている親指をそっと撫でた。
ナオの親指が握り返してきた。
階段に向き直り、歩きだそうとして、違和感に気づく。
あれ?
指に触れる。
小指、薬指、中指、人差し指、親指。
親指。
え!? なんで?
思わず手を引こうとしたら、右手を掴まれた。
目を凝らすが、この暗闇では何も見えない。
右手を強く引かれた。思わず前によろめく。
正面に、体温を感じた。
そして。
両肩を、掴まれた。
闇の中で、はなさないで 蒼井シフト @jiantailang
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