『魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話』(だぶんぐる版)【自主企画作品・4】
だぶんぐる
だぶんぐる版読み切り『魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話』
【前書き】
本作は、自主企画『あなたの作品を原作で書かせてもらえませんか?』の応募作。
『古朗伍』様の『魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話』を原案にだぶんぐる改変で書かせていただいております。
ご提供ありがとうございます。是非、原作もお読みください。
注意! だぶんぐるのせいでヒロインに変態風味が入っています。お気を付けください。
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終わった。
人生が終わる瞬間ってのは人それぞれだろう。
何に殺されるのかも人それぞれ。
寿命ってやつなのか。
魔物ってやつなのか。
飢えってやつなのか。
病気ってやつなのか。
悪意ってやつなのか。
それぞれにとっての死神がやってくる。
俺、ローハン・ハインラッドの相手はとんでもなく美しい死神だった。
陽の光が反射してキラキラ輝く銀髪をポニーテールに纏め、あどけなさは残るもののパッチリとした瞳で整った目鼻立ち、身体も出るところはしっかり出ており、村中の男の視線が惹きつけられる美女剣士。
俺は彼女に殺される。
「あ、ああ……」
死を覚悟した瞬間走馬灯ってやつが見えるのは本当らしい。
「お、師匠!」
俺の頭の中でこの目の前の弟子との思い出がよみがえり溢れた。
ローハン・ハインラッド。
俺は大都市でも名の知れたクランに所属していたが、戦いに明け暮れる日々に疲れ、田舎に引っ込むことにした。
魔物から村を守る常駐の剣士を募集している片田舎で骨をうずめる。そう告げると馬鹿にする奴らや勝手に失望するやつらもいたが、俺にとってはどうでもよかった。穏やかな日々への憧れの方が遥かに強かった。
「坊主! 無事か!」
その初日、俺ははぐれオーガに襲われていた村の子供を助けた。
亜人種で頭に生えた角と肌の色以外は人に近いせいか暗がりでよくわかっていなかったのだろう大人がいると思い、近づいてしまったらしい。
ただ、はぐれのオーガは大抵飢えている。人間の女がいれば襲うし、男であれば殺して破壊衝動を満たそうとするし、食い物を持ってるヤツがいれば奪おうとする。
そのオーガも例にもれず、血走った目で子供に掴みかかっていた。
「う、あ……お、オレ……あ……」
遠くから声を掛けた俺を子どもも恐怖のせいかただ震えるだけで声もほとんど出せない様子だった。
「なら……! 動くんじゃねえぞ! 俺がなんとかしてやる!」
俺は足に力を込め思い切り地面を蹴る。オーガは俺クラスの人間に会ったことがなかったのだろう。涎を垂らした気色の悪い真っ赤な口を思い切り驚いて驚愕する。
身体の硬直。俺は狙いを子どもの細腕を掴んでいる丸太みたいな太い腕にさだめ、低い体勢で近づき剣を振り上げる。
「ふっ……!」
スパっと切れた腕を確認した瞬間、その子供の、グレーがかったアイスブルーの瞳と目が合う。出来るだけ優しく微笑むと子どもは唇をきゅっと噛み頷く。強い子だ。俺を信じてくれているようだった。
俺はそれを見て笑うと、振り上げた体勢からその勢いのまま飛び上がり、敢えてオーガに背中を向け身体を捻る。それなりに年をとったとはいえ、まだ俺の身体は俺のイメージを体現してくれる。ぐるりと全身を竜巻のように回転させ、横一文字に薙ぐ。
「……げ?」
間抜けな声を発しながら、くるくると宙を舞うオーガの首。
剣を持っていない方の手で俺はオーガの頭をひっつかみ、子どもから出来るだけ遠ざけ笑ってやる。
「もう大丈夫だぞ、坊主」
「あ……オレ……あ、ありがとう。おっさん」
「おっさ……!」
おっさんじゃない俺がおっさんと呼ばれたことによる心の傷とその子どものほっとした様子の笑顔。
それが俺のこの村での初仕事の報酬だった。
そして、俺に助けられた子どもは俺のところに剣を習いに来るようになる。
ぶっちゃけ、すげえ楽しかった。
前にいたクランの連中は癖の強い連中ばっかりだったし、俺の扱いもひどいもんだった。
だから、俺は憧れていた。尊敬と信頼という絆で結ばれた熱い師弟関係ってやつに。
「カイル! お前の限界はそこでいいのか!?」
「……! ま、まだまだぁああ!」
「わはははは! そうだ! 俺の弟子ならこの程度の限界なんて超えてみせろ!」
「オレがおっさんをすぐ超えてやるよ!」
「おっさ……!」
カイルという名の子どもはおっさんじゃない俺をおっさん呼びする生意気なガキではあったが、その生意気さもかわいいもんだった。ただの我儘坊主というわけではなく、俺の言う事は、おっさん呼び以外しっかり聞くし、おっさん呼びをやめる以外は実直に守った。それに、修行以外の時間も家の手伝いする時を除いてずっとおっさんじゃない俺について回ってるんだ。そりゃおっさんじゃない俺からすればかわいいに決まってる。
カイルの唯一の肉親であるばあちゃん、クルスさんも俺のことを、もう家族の一員よと言ってくれよくしてくれた。
「よし! 食ったら修行だ! いけるか!? カイル!」
「オレはいけるに決まってるだろ! おっさん!」
「おっさ……!」
おっさんじゃない俺の技術をカイルはどんどん吸収し、成長していった。
そして、おっさんじゃない俺は確信した。コイツは強くなると。
「カイル! 一流の剣士になりたきゃ心も強くないと駄目だ!」
「分かってるぜ、おっさん!」
「おっさ……ということで、おっさんじゃない師匠からの課題だ! 素振り千回」
「ひぃいいいいいいいい!」
カイルはどんどん強くなっていった。それは剣術だけでなく、
「カイル、いいか。一流の剣士ってのはな、ただ強いだけじゃない。女子供にはやさしい。そういう心遣いも出来ないとな」
「……ふーん」
「なんで俺に疑いの目を向ける? 素振り千回!」
「そういうところだよぉおおおお!」
心も。口は悪いが、心根は優しい。カイルはどんどん成長した。
「やれやれ、群れて、女の身体をべたべた触るなんて男の風上にもおけねえな。こういうのを取り締まるのも俺の役目であり、それが男ってやつだ。な、カイル?」
「そだなー」
「素振り千回!」
「おっさんのばかぁあああ!」
俺の予想通りどんどん成長していく弟子に、俺は提案した。
「カイル、お前。大都市に行ってきたらどうだ?」
「え? な、なんで?」
「大都市には、ここでは出来ないような経験がいっぱいできる。それはお前を絶対に成長させてくれる。俺もそうやって強くなった。だから、一度行ってみるべきだ」
クランのみんなは癖のある連中だが、実力者ばかり。それに、他のクランにも強者がいるし、大都市の周りにしかない物や経験だってある。勿論、辛い別れも幾度も経験したがそれだって俺を強くしてくれた。俺はカイルにもっともっと成長してほしい。いや、コイツなら出来ると思い、そのことを話すとカイルはぱあっと表情明るくさせた。
「な、なんだ……そういうことか。おっさんと同じ……分かった! オレ、大都市に行くよ!」
「よし! じゃあ、俺の所属していたクランへの紹介状と……コイツを餞別にやろう!」
俺は、腰に差していた剣をカイルの前に差し出すとカイルはアイスブルーの瞳を瞬かせる。
「え!? おい、これって……!」
「霊剣ガラット。俺の相棒をお前にやる。卒業祝いだ。これに相応しい剣士になれよ」
「…………うん! あ、あ、ありがとう」
「おいおい、今からそんなんじゃ先が思いやられるぞ。泣くなよ、男だろ?」
「え? いや……」
涙まみれのカイルの頭を思い切りぐしゃぐしゃに撫でてやる。ヤバいな、やっぱ年かもしれない。俺も自分の目じりにうっすらと涙が浮かんでいることに気づきカイルが頭を上げる前にと慌てて拭う。
「よおし! もう大丈夫だ! お前ならきっとすげえ剣士になれる! 行ってこい、カイル!」
「……オレがすごい剣士になったら、オレの事頼りにしてくれるか? おっさんの隣に立っていいか?」
泣きそうだ。弟子と肩を並べ魔物と向かい合う、背中を預け魔物と戦う、拳をぶつけ合い勝利を喜び合う。そんな未来、最高過ぎる。涙を零さないように思い切り目を見開き、口角をにかっと思い切り上げる。
「もちろんだ! お前の為に、俺の隣は空けておいてやるよ!」
「……うん! オレ以外絶対に隣あげちゃだめだぜ! おっさん」
「おっさ……!」
おっさんじゃない俺はそうして未来ある小さな剣士カイルを見送った。カイルの居ない日々は少し寂しくて静かだったが、充実した日々ではあった。変わらない日常、村人達との交流、時折やってくるカイルからの手紙。ゆったりした時間の中、俺は成長して帰ってきた弟子がどんな風になっているか夢想していた。
「おっさん!」
俺に抱き着いてきた愛弟子は成長していた。俺に駆け寄る時の動き一つ見ても洗練されていたし、スリットから見える足や細く引き締まった腕を見てもすぐわかった。
だが、
「オレ、すごくなって帰ってきたぜ!」
確かにすごくなっていた。抱き着いた愛弟子の柔らかい感触。数年前にも抱き着かれた記憶はあったが、こんな感触の記憶はなかった。下品な表現にはなるが、駆け寄る時にあんなにぶるんぶるんしていなかったし、こんなに柔らかくなかった。
髪が長くなったせいか、より『彼女』の輪郭がはっきりして俺はふるえる。
「カイル……お前……女だったのか!?」
俺の発言にカイルは呆れたように腰に手を当てる。
「手を抜かれたくなかったからサラシとか巻いてたけどさ……マジで女って気づいてなかったのかよ……」
カイルは、女だった!
カイルは、女だった!
カイルは女だったぁあああああああああああ!
と、ここで走馬灯ストップ。
ストップしたい。ストップ出来ていればよかった。
だけど、ストップするわけにはいかない。
カイルが女だったことによって色々と話が変わってくる過去が引きずり出される。
そう、『カイルを男だと思っていた』俺の記憶が『カイルが女だった』という事実に塗り替えられていく!
例えば、修行の日々。
「カイル、お前もっと剣を振る時は腰を入れろ」
「腰~? どういう感じ?」
「こう、ぐっとケツをしめて腰を入れるんだよ」
「どう?」
「こう!」
「どう?」
「あーもう! こうだ!」
俺がケツをぎゅっと両側から寄せるとカイルはピンと背筋をまっすぐに立てて理想的な姿勢に。
「な? どうした? カイル?」
「……いや、別に。いいけどさ、オレはおっさんなら別にいいけどさ」
「あん?」
あんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?
何やってんだ俺ぇええええええええええええええ!?
めっちゃくちゃ尻を触っていた! 思い切りぎゅっと寄せちゃってたんですけど!
いや、でも、それはほら、俺はマジで男だと思ってたからこうやって教えた方が早いと思って……!
そう、俺は『男だと思って』色々スキンシップをしてしまっていた。
頭も何度も撫でた。
勝利を喜び合い抱き合った。
食いかけのもんを奪われたり奪ったりして食べた。
それに……。
「いいか、カイル。大切なのは心だ。心に熱いもんを灯せ。俺が師匠として教えてやりたいのは何よりその魂だ」
そう言って俺はぎゅっと握った拳をカイルの左胸にとんと当てた。
とおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!?
何やってんだ俺ぇええええええええええええええ!?
めちゃくちゃ胸も触ってしまった。拳ではあるけど思い切り当ててた。
「どうした? カイル?」
「いや、別に……いや、むしろ……うん、いや、なんでもない」
そう言ってどんと俺の左胸を叩くカイル。
それからは……! 俺達師弟の定番と……! なって……!
何度も何度も……! 胸を叩いてしました……!
いやああああああああああああああああああああ!
その上、
カイルの家に泊めてもらう事になった夜。
俺が死んでしまった両親の部屋で寝ていると、静かにやってくる気配。
「カイルか」
「おっさん……」
「なんだ、またオーガの事を思い出して眠れねえのか?」
「う、うん……」
カイルは、はぐれオーガに襲われた時の事を時折思い出し身体の震えが止まらなくなることが度々あったらしい。その事実を教えられた俺はある提案をした。
「よっしゃ! じゃあ、今日も一緒に寝てやるか」
「……うん!」
強者の近くに居れば安心するだろうと思ってした提案だった。
それに何より男同士だから問題ないかと思っていた。
俺は男に恋愛感情的なものは生まれた事はないし、それで少しでも愛弟子の心が安らげるならと。
「なあ、おっさん。今日もぎゅっとしてくれねえ? 父さんや母さんみたいな感じで」
「まったく、お前は……ま、俺の弟子はあまえんぼで仕方ねえなあ」
そう言って俺は、カイルをぎゅっと……抱きしめた。
だ き し め たぁあああああああああああああああああああああ!
終わった。マジで終わった。
今までの事が事実としてカイルの口から発表されれば、俺の村常駐剣士としての人生は完全に終わる。
そう、カイルこそが、彼女こそが俺の死神。
俺の首に死の鎌をぴたりを当てている女なのだ。
過去のアレコレにより女性陣には勿論ボコボコにされるだろうし、男性陣もヤバい。
なんといっても成長したカイルに誰もが目を奪われている。主に胸の辺りだが。
こいつ等カイルが村を出る時はそんな視線むけてなかったくせに!
だが、今はカイルにもれなく惚れている様子。コイツらに添い寝のことなどバレた日には血の涙を流し、歩く死体のごとく追いかけてくるだろう。
なんだったら、今もカイルの過剰なスキンシップに対しなかまにしてほしそうにこっちをみている!
だが! いいえ! だれがなかまにしてやるか。
というか、俺も勘弁してほしい。この距離感を続けていたらそのうち女性陣が、
『え? カイルとローハンさん近くない? もしかして、ローハンさん……これが弟子とのスキンシップなんだようへへへへって教え込んでカイルのお尻や胸を触ってたんじゃ……!』
『『『『『ローハンは女の敵!』』』』』
ってなりかねん! 知らなかっただけなのに! ていうか、誰も教えなかったくせに!
俺は慌てて、カイルを引きはがす。
「え……?」
さみしそうな顔すんな! この距離が普通の男女の距離なんだよ!
いたたまれなくなった俺は必死にカイルと距離をとる理由を探す。
「あ、あー! 俺、そろそろ森の見回りにいかないとな! じゃ、じゃあ、行ってくる!」
そう言って俺は地面を蹴る! すっごい蹴ってすっごいダッシュで森に消えた。
もうカイルに抱き着かれた時の柔らかさを忘れるためにすっごい運動した!
そして、気付けば魔物の山が出来ていた。
「ふぅう……ああ、だいぶすっきりした……」
「さすがおっさん」
「おっさ……!」
振り返るとカイル。首を傾けポニーテールを垂らして笑うその顔は正に女神といってもいいいくらいの美女だった。視線を外そうとして下に向けたが、大きな何かが見えて慌てて遠くの空を見上げた。空が青いなあ……。
「なあ、おっさん……オレのこと、きらいになった?」
「なあ!?」
カイルがとんでもなく悲しそうなか細い声で俺に訪ねてくる。
慌てて俺がカイルの方を見ると、目を潤ませたカイルが!
昔も時々こんな目をすることはあった。子どもだからかわいいもんだった。
だけど今は! 破壊力がすごすぎる! か、かわいすぎる!
「い、いや、そんなことはないぞ! ただ、なんだ!? その、ちょっと久しぶりに会ったせいで、なんか、照れくさくてな……!」
「な……! なーんだ! おっさんもそうだったのか! そうだよな! いや、分かるぜ! オレもさ! なんか、おっさんに久しぶりにあったら、すっごい照れくさくてさ。顔も身体も……」
ああああああああああああああああああああああああああ!
ごめんなさぁあああああああああああああああああああい!
弟子に嘘を吐く師匠でごめんなさい!
照れくさいというよりビビってます! 俺ののんびり村ライフが、ひんやり牢ライフになりそうで怯えています! あまりにも震えすぎて汗かきすぎて、そして、何より、心臓の音がうるさすぎて全然カイルの話が入ってこない!
ばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばく!
心臓うるせえ!
なんだ、カイルは何を言っている!? 全然聞こえねえ!
はずなんだけど、やっぱり剣士としての勘はこういう時でもしっかり働くらしい。
「「…………!」」
「ゲゲゲエ!」
俺達の間に飛び込んできたのはオーガ。頭に生えたつのも身体もカイルを助けた時とは違い倍以上の大きさ。しかも、二体。
「カイル!」
「ああ! おっさん!」
流石女になっても俺の弟子。俺の考えを読み取り、俺と真逆の方向に飛び剣を抜いて構える。
これにより、俺もカイルも敵も味方も視界に全部捉えた状況を作り出せた。
「いくぞ! カイル!」
「うん!」
俺はオーガと打ち合いながらカイルの戦いを見守る。相変わらず俊敏な動き、そして、村を出る時よりも無駄のない美しい動き。成長したな、涙が出そうだ。そして……
ぶるんぶるん。
成長したなあ! 涙が出そうだ! カイルは女なんだなあ!
「おっさん!」
俺が一瞬牢に入った自分を想像した隙を突いて、俺と向かい合っていたオーガが大振りの一撃をかましてくる。俺はそれをくぐりながら躱しもう一体のオーガ越しにカイルとアイコンタクト。そして、カイルは一度足さばきのフェイントを入れ、オーガの脇を潜り抜ける。振りかえるオーガの腕を切り上げる俺と俺の身体を隠れみのにし一瞬の飛び出しで俺と戦っていたオーガの腕を同じように切り上げるカイル。
「疾っ!」
俺の気合の声に合わせ同時に飛ぶと、同じように回転し、目が合う。
コイツは俺の弟子。
俺はその事実を誇らしげに感じながら、同じように横一文字に首を薙いだ。
「やっぱ、おっさんはすげーな。おっさんの切り口の方がキレイだ」
「お前だって、充分綺麗だよ」
この年でこれだけやれたら末恐ろしい。
そんなことを考えていたら、カイルがこっちを見たまま顔を赤くしてじっと俺を見ている。
「どした?」
「……おっさん、今、オレをきれいって」
「いやいやいや! 切り口な! お前の剣筋もきれいだったって話だ!」
まずいまずいまずい! 俺がカイルを女として見てるなんてことになれば、カイルからも「え? おっさんそんな目で見てたの? じゃあ、あの頃もそんな目で見ながらケツを寄せたり添い寝してたりしたのか」って思われたらやばすぎる!
「あ、ああ、そっか……なーんだ、うん! ま、おっさんおつかれ!」
「いってーなあ! おう、おつか、れ……」
と、カイルにどんと左胸を殴られた俺は同じように殴り返そうとして踏みとどまる。
あっぶねぇえええ! 今、カイルのとても出ているところに拳が当たるところだった!
「どん」どころか「ぷに」だぞ絶対!
なんて罠をと思ってカイルを見るとまた悲しそうな顔でこっちを見てる。
「おっさん……やっぱりオレのこと……」
なぁああんでそうなるの!? え!? コイツ気付いてないの!?
自分がどれだけ女として魅力的になっちゃったか気付いてないの!?
危なすぎるだろ! 俺が!
「いや! カイル、お前……今までは、その、そう! あの程度の敵だったから、それをそれしてたが、これからはちがう! お前ももう立派な剣士だ! この程度でそれをあれしてやるわけにはいかないな!」
とんでもなく曖昧な表現で逃げる俺。なさけねえぇええ!
「そ、そっか! じゃあ、すっげーのやったらってことだな!?」
「お、おう! 俺を越えたなと思わせるほどのあれだぞ! わは、わはははは!」
汗が止まらない。俺はカイルがすっげーのをやったら胸を拳でぷにしなきゃいけなくて人生が終わる。
俺は永遠に最強の師匠でなければ死ぬ。社会的に死ぬ。
「よーし! やってやるぞお! あはははは!」
「わは! わは、わははははは!」
そして、師匠である俺と美女になって帰ってきた弟子の大変な日々が始まるのだった。
【カイル視点】
「んんんんんんあああああああああああああ!」
オレは、ベッドの中で悶えていた。
くそう! かっこよかった! かっこよかった! かっこよかった!
おっさんがかっこよかった!
オレも大都市で腕を磨いて強くなったと思った。
だけど、強くなればなるほどおっさんの凄さが分かっていった。
おっさんはかっこいい。
剣術も足さばきも考え方も。
大都市には強い奴もかっこいいやつも男もいっぱいいた。
だけど、いろんな奴に会えば会うほど分かった。
おっさんってかっこいい!
村にはそこまで男がいなかったからあんまり分からなかった。
だけど、今日もかっこよかった。
悔しい! 悔しい! 悔しい!
おっさんがかっこよすぎる! オレだって強くなったはずなのに!
そう、これは悔しいという感情だ!
おっさんの戦う姿を思い出すだけで、いや、おっさんの顔を思い浮かべるだけで顔とか身体が熱くなる。かーっとなる! これは悔しい感情だ!
「くそう……おっさんめ……胸をどんってしてくれなかったし……」
最初の頃はびっくりした。サラシをしているとはいえ女のオレに胸をどんとしてくるなんて、それに、尻をぎゅってもしてきたし……。
だけど、なんでだろうか。そのうち気にならなくなってきたし、なんか慣れてきたせいか、やってもらわないとそわそわする位だった。
大都市に行っても誰かにしてもらいたいとは思わなかった。
おっさんしかいやだった。
だけど、おっさんは帰ってきたオレにはしてくれなかった。
「くそう! おっさんめ……! 絶対に負けねえぞ……! おっさんめえ……!」
オレは毛布にくるまって、おっさんからこっそり盗んだ手拭いを嗅ぐ。
これは飽くまでおっさんに対する悔しさを思い出すために借りて来ただけだ。
特にそれ以外の意味はない。
おっさんくさい。嗅ぐたびにおっさんの事を思い出す。
おっさんの身体、おっさんの剣術、おっさんの顔、おっさんの声、おっさんの笑顔。
「おっさんめ……おっさんめぇえええ」
身体が熱い。すっげえカーっとする!
絶対おっさんをぎゃふんと言わせてやる。
そして、オレの胸を触らせて「俺の負けです。俺の隣にいて下さい」って言わせてやるんだ。
「おっさんめえぇええええ……!」
※※※※※※※※
あとがき
人生で初めてオレっ娘を書いたかもしれません。楽しかったです。
原作は連載中ですし、この二人の村での時間の後のダンジョンや謎といったところは今回触れていませんので、是非そのあたりの世界観や二人の物語を原作でお楽しみ下さい。
『魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話』(だぶんぐる版)【自主企画作品・4】 だぶんぐる @drugon444
★で称える
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カクヨムを、もっと楽しもう
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