第5話 召喚神話(ファンブル)

 汗がだらだらとまらない。拭く。久々に取り返しのつかないことになった。頼むからもう一度だけくたばってやり直したい。そんな届かぬ思いを抱きながらもう無性ひげが生い茂るあごを弄り回しかなくなったのはローン王国神聖ビエッタール騎士団魔術隊長、戸田哲也という男だ。

 元々は地球からトラックという異世界転生装置エルフの森焼き職人御用達でこちらまで飛ばされてきて冒険者をやっていたがパーティーが解散してしまい、定職に就くことを決意して貴族の友人のつてで今の職を買ったのだ。彼の得意な魔法は召喚魔術で、基本はこっちの世界にいる対象だけを呼ぶスタイルだった。

 しかしこの度、この地域一帯での独立等に保障をかけているくそったれの我らが敵国極西竜王国が突如、内戦状態に陥って山から出てこないので、ささっと占領して自分がいた世界からここで勇者を呼び出そう(プロイセンによるベルサイユでの戴冠式みたいな迫真の煽り)ということになってしまったのだ。

 そして肝心な召喚の時に、自らの能力が、こんなにも起こってほしくないときに限って暴走してしまった。勇者等の召喚時はギフトという小国の運命すら余裕で踏みつぶせるほどの非常に強大な力が勇者たちに与えられるのだが、いったいどうしてか、本来召喚するはずが一人の人間どころではなく3階建ての豪邸を、おそらく魔力反応測定の結果的に建物の中にギフトなしの5人以上の集団役立たずがいる状態で召喚してしまったのだ。ギフトの暴走は完全に制御できないものとはいえ、自分の首一つどころではないだろう。

 この中身に車でもあれば僻地に飛ばされるくらいで済むかもしれない、そう思ってより詳しく調べさせるために部下を向かわせたらいまだに音信不通。そろそろ帰ってきてもよい頃なのだが。

 まあ時間がかかってるだけだろう、そう思ってもう一つの問題に目を向けた。

 エルフの聖森。この地域一帯で、最大の難関。この森を超えさえすれば、あとは大半が魔法も使えない有象無象の亜人だけ。

 唯一まともに魔法が使えるエルフたちも今頃召喚による魔力波の乱れでえらいことになっているはずだ。勇者たちの戦力は無くてもどうにかなる。












「あぁ…どうすんだあれ」息荒々しく呼吸する相棒を地面に下ろし、手当てをしながらボソッとつぶやいた。途中で別れた仲間やおいてきた仲間のことは考えないようにした。魔法で連絡を取ろうにもこ↑こ↓は敵地ど真ん中。自殺行為だった。

 己の仲間が吹き飛んだちょっと前あたりの記憶と、異世界からくる勇者達の記録、回顧録などを突き合わせる。「痛ってぇ」銃程度は勇者たちが従者たちに持たせて使っているところを見たことがあるので、そこは受け入れられた。「なぁ」しかし、打つのがとても早く、おまけにあのような爆発M9 HEATは見たことがなかった。爆発魔法にはあまり詳しくないが、魔法で張った結界をぶち破るほどに強力なのに魔力が一切感じ取れなかった。「ちょっと」つまりあれは魔法ではない。ギフトらしき反応もない。「————」おそらくあれは勇者たちが持ってきた科学というもので、そしてどの既存の勇者よりも発展しているものなのだろう。

 そう考えると背中にとてつもない後悔と寒気がこびりついた。

 俺らが敵に回したのは、とんでもない化け物であることに気が付いたからだ。

……「大丈夫か?」「全然」「そうだよな、たはは…」

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異世界迫真銃手部隊〜技術チートの裏技〜 下北沢王国114514軍代表評議会長 @soutoukakka114514

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