第4話 全体会議

 鈴木と氷崎が外に出ている間、鈴木邸の中で最初に気候の変化に気付いたのは尿意を覚えトイレに入っていた木村であった。トイレに入っていたら網戸からの突然冷たい空気が無防備な背中を撫であげたのである。

「寒ぅ!」

そこから急いで用をたして廊下に出て、窓から外を除けば紅いオーロラが目に入った。ただならぬ予感がしたのですぐに家中を駆け巡り、家の中にいた全員(遠野は後に合流)を一階ロビーに集めた。

 この会議の流れは平野が主導権を握っていた。平野が鈴木からの無線の情報や、それを聞いて地下の武器を遠野が玄関に置きにいった、などの事後報告と情報共有を非常にスムーズに行い、遠野が武器を置いて戻ってきて今の現状の真相を議論し始めた。

 これは異世界にこの家周辺が持っていかれて今は異世界にいるのでは無いかと言う意見が出て異世界転移だやったやった!、いやどっかの軍の特殊な陽動であるんだ!などと陰謀論者もびっくりな流言が飛び交っていた。

 しかしばかげたことをやいのやいのと言い合っていると銃声が聞こえてきたため、すぐに葛城に玄関を守らせることだけ決めて武器を取りに地下へ全員で向かいそれぞれの手に銃を取らせた。

 その後は木村たちは自分の部屋に分散させられた。部屋の中にいても火炎が飛んでくることは窓から見てわかったし、鈴木邸の家の近くに着弾した事に慌てて電気を消したりしていたら一際大きな爆発音が二発聞こえてきて静寂が訪れた。

 誰も彼もがあまりに不安でSNSを確認しようとするもネットがつながらず、圏外表示になっているのを確認し、その目の前にある光る板の電源を切った。そして内線(平野がかけてきた)が再び一階ロビーにて会議を行うと告げてきた。なんでもいいから知りたい!そう突き動かされなかった者は誰一人いなかった。

 

 「それで、まず、どっちでもいいからもう一度戦闘の経過から教えてもらいたい」

平野が二人に振った。氷崎が先に答えた。

「匍匐で近づいて行ったら火炎”魔法“で“撃たれた”ので、銃を撃ちつつ逃げてきました。“鎧に弾かれ”はしましたが足止め程度にはなったのですが撃破には至らなかったので、鈴木ちゃんが擲弾を直撃させて、6人中2人を撃破、1人負傷を残りが連れて逃げました。」

このハンサム野郎の口から出てきた言葉には少々理解し難いところがあった。何故魔法と表現したのか、いきなり撃たれたのか、M1カービンが鎧程度に弾かれまくったのか。

火炎瓶をすげえ勢いで投げただけとか頭がおかしい奴と思われただの分厚いの着込んでたとか30分ほどで最悪な事態の想定を遠野が出してきた。

 曰く、「異世界に召喚したのは騎士達で目的はこちらの財産の強盗、その為地球には帰れない。

そしてこちらの世界では魔法があり、それによって発展していて(ただの鎧でも銃弾を弾けるほど高品質になっているぐらい)私達はそれが使えず差別階級である可能性がある」というクソみたいな要素のてんこ盛り出会ったが、それが事実の様に見えてならなかった。

 その次の話題は今後の対応についてだった。

これは意外にもすんなりと決まり、周囲の探索であった。必要な装備の選定は鈴木に任された。


 鈴木の案は意外とすぐにまとまった。用意したのはこれだけ。

無線、サーモグラフィーや地下のAK-12を4丁。

弾薬類や手榴弾にRPG-7少々。

水や食料医薬品、偵察用小型ドローン2機。

車を転がし不整地を高速で、これらをもって拓也山であるはずの外へさっきの騎士たちを探しつつ周辺の現状の把握に努めようということに決まった。

シェアハウスにあった車(でガソリンが満載なの)はコミューターしか無く、運転できるのが葛城だけなのでメンバー確定。戦闘要員として鈴木、氷崎。そしてついていきたいと言った遠野だった。

 準備を終えるとすでにみんな外に出てきていた。

冬のような厚着をしていてなんだか笑えてきた。ペンギンみたいで。

「帰って来いよ」「何があるかわからんからな?」「気をつけろ」

こういう時はまともなことを言うんだから。一時の別れを惜しむのはお終いにして4人で車に乗り込んだ。ストーブは点けなかった。

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