はなしてはなさないで問答
辺理可付加
後日鈴に見せたら「『はなさないで』じゃなくて『はなして』じゃねぇか」って言われた。
「ああぁぁ〜〜〜!!」
放課後の
「どうしたの弓ちゃん!?」
振り返ったのはギターをチューニングしている
天弓は彼女に抱き着いた。
「ちょっと今、作詞に行き詰まっててね?」
「あ、ドラム以外のことも挑戦してるんだ」
『作詞』の時点でお分かりと思うが。
そう。二人はインディーズ女子高生音楽グループ
『月極バンド』
のメンバーなのである!
天弓がドラムではじめがギター。
ちなみにバンド名の由来は全員が『
残りのメンバー、ベースの
ボーカルの
なので今日は二人しかいない。
「それでね? インストゥルメンタルで」
「インスタグラム?」
「そうそれ」
「無駄に音楽家ぶらなくていい……ぶれてないし」
「そのインダストリアルでテーマを募集したのだ!」
「その国語力で作詞は無理かな」
「インスタは英語だよ?」
「おぉ、もう……」
目眩を覚えるはじめだが、ここはもう堪えるしかない。
そんな彼女と意外にテクいドラム捌きに惚れた弱みである。
「そしたらたくさんリプが来て」
「やたらフォロワー多いもんね」
「三茶を代表するアーティストだからね!」
「お絵描きの方ね。バンドとして有名になりたいね」
その手先の器用さがドラムに生きているかは別として。
「それでまぁ、最初に来たお題をチョイスして、少し書いてみたんだけど」
「へぇ」
「なかなか一曲になるほど伸びなくて」
「あぁー、あるよね。意外にストーリーが小ぢんまりしちゃうの」
「『はなさないで』ってやつでさ」
「結構普遍的で書きやすいと思うけど」
「私恋愛全戦不戦勝だから、こんな敗北など経験がなく書けない」
「不戦敗だよ。いいからちょっと、その歌詞見せてよ」
「はいな」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『はなさないで』
作詞:一番ヶ瀬天弓
「はなして!」
「はなさない! 絶対にはなさない!」
「なんでよ! こんなのもう耐えられないわ! 今すぐはなして!」
「嫌だ! 絶対にはなさない! あの晩、君は言ったじゃないか! ベッドの中で僕に甘えて! 『私のこと、絶対はなさないで』って!」
「それとこれとは違うのよ! いいからはなして! じゃないと私!」
「落ち着いてくれ! そう結論を急がないでくれ! まずは座って!」
「うるさい! はなして!」
「ダメだ! 今はなしたら、僕らは終わりだ! もう二度と取り返せない気がする! だからはなさない!!」
「私はもうこんなの、耐えられないのよ!!」
「悪かった! 僕が悪かった! でももうちょっとだけ我慢してくれ! 大丈夫だから! 大丈夫だから!」
「嫌よ! 私もう行くわ!」
「待ってくれ! はなさないで!!」
さて、これはフった男に取りすがられて『放して』なのか。
それとも「さっさと奥さんに私との関係を『話して』離婚して」なのか。
あなたはどっちだと思いましたか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「どうかな?」
「歌詞を書けよ」
はなしてはなさないで問答 辺理可付加 @chitose1129
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