話さないで~里穂・バレンタインの夜

奈那美

第1話

 列車に乗った私は空いた座席に腰を下ろした。

先生に頼まれた片づけが思った以上に堪えたみたい。

膝の上に置いたカバンの上で無意識に組んでいた手を見た。

指に巻かれた絆創膏。

さっき遠藤君が巻いてくれたものだ。

 

 遠藤君から今日の放課後言われた言葉を思い出す。

『……ぼく、気がついていたんだ。安藤さんが新川さんのことを好きでいること』

言っておくと、私の恋愛対象は基本は異性である男性だ。

だけど……有紀ゆきは特別。

見た目はもちろん可愛いし性格だってとってもいい。

でも、だから好きになったというわけではない。

 

 身長は私の方が低いから保護欲をかきたてられたわけではない。

仲良くなっていつも一緒にいて……気がついたら好きになっていた。

何がきっかけだったか、私自身よくわからない。

(遠藤君……女性なのに女性の有紀のことが好きな私のこと、どう思ったんだろう?)

 

 好きだと言っても、大多数の人はきっと違う目で見てくるだろう。

有紀自身もしまうかもしれない……それだけはイヤ!

けれど……。

 

 遠藤君はきっと黙っていてくれる、そういう気がした。

今日までほとんどしゃべったことはないけれど『誰にも話さないで』と頼まなくても話さない、そんな確信めいた思いがあった。

 

 私のことを好きでいてくれるから……ではない、とも思っていた。

どちらかというと陰キャだけど、他の男子と談笑しているのは見かけたことがあるし女子の間でも評判は悪くはない。

イケメンだけど性格が悪い村田君なんか、陰でものすごくけなされている。

 

 だから多分大丈夫。

まあ、どちらにしても口止めを頼むなら今日しかないわけで。

でも私、遠藤君の連絡先知らないから頼もうにも頼めないんだよね。

これは……明日、遠藤君になにか渡すフラグなのかな?

なにか渡したら、きっと遠藤君なら察してくれるよね?

『昨日はありがとう』

きっと、これでわかってくれるよね。

チョコ以外の何か……何を持って行こう?

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話さないで~里穂・バレンタインの夜 奈那美 @mike7691

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