浅黄酔夢一寸酒乞(変なタイトルですみません「あさぎのすいむ ちょっとささくれ」と読んでください……)
エモリモエ
*
芹沢鴨は夜更けにひとり。
妓楼帰りの千鳥足。
道中、
「旦那さん、旦那さん」
足元から声がする。
見れば小さなネズミが一匹、
「旦那さんは相当な親不孝者ですね」
と、のたまう。
喋るネズミとは面妖な。
踏み潰してくれようと思ったが、なんだか少し愉快でもある。
「親不孝とはなぜ思う?」
「なぜって旦那さんのささくれは大層立派ですからねえ」
「で?」
「そのささくれ、カリカリしていて美味しそう。ひとつ私にくださいな」
「ふうむ」
「かわりに風車はどうですか。秋のうちにきれいな紅葉で作った風車ですよ」
新撰組筆頭局長を相手にネズミ如きが大した申し出。
「面白い」
と、いうことになり。
ネズミはささくれをカリカリ齧り、芹沢は小さな風車をもらった。
風車くるくる歩いていると、今度はイタチがやって来た。
「その風車は綺麗だね。今日は坊やの誕生日。譲っちゃもらえないだろか」
「イタチの坊に贈るのか」
「きっと喜ぶでしょうから」
二度目となれば馴れたもの。
「かわりに何を寄越すんだ?」
「特別に咲かせた水仙を。姿は白く、美しく、花は一月咲きますよ」
「まあ、いいだろう」
と、いうことになった。
寒空に水仙の花の薫りは豊か。
芹沢の酔いを心地よくする。
屯所まで帰ると門前で平山五郎と行き会った。
「こんな遅くに何処へ行く?」
「ええ、まあ」
と、濁すあたり、おおかた愛妾のところだろう。
「ときに、その花はお梅さんにですか?」
平山が少し物欲しそうに聞く。
しかたのないやつだ。
「女のところに行くなら手土産くらい持ってけ」
芹沢が渡すと、
「こりゃどうも」
平山は素直に受け取り、
「かわりと言っちゃなんですが、部屋のほうに灘のいいのを届けてるんで」
「おう」
部屋に戻ると、さっそく湯呑みでぐぐっ、と一杯。
「お泊まりじゃなかったの」
物音で目覚めたらしいお梅が起きてきて、するりと芹沢の胸にしなだれる。
「おや、まあ、花の良い香り」
そこで芹沢はもう一杯。
冬の夜もなかなかどうして悪くない。
浅黄酔夢一寸酒乞(変なタイトルですみません「あさぎのすいむ ちょっとささくれ」と読んでください……) エモリモエ @emorimoe
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