浅黄酔夢一寸酒乞(変なタイトルですみません「あさぎのすいむ ちょっとささくれ」と読んでください……)

エモリモエ

芹沢鴨は夜更けにひとり。

妓楼帰りの千鳥足。


道中、

「旦那さん、旦那さん」

足元から声がする。

見れば小さなネズミが一匹、

「旦那さんは相当な親不孝者ですね」

と、のたまう。


喋るネズミとは面妖な。

踏み潰してくれようと思ったが、なんだか少し愉快でもある。


「親不孝とはなぜ思う?」

「なぜって旦那さんのささくれは大層立派ですからねえ」

「で?」

「そのささくれ、カリカリしていて美味しそう。ひとつ私にくださいな」

「ふうむ」

「かわりに風車はどうですか。秋のうちにきれいな紅葉で作った風車ですよ」

新撰組筆頭局長を相手にネズミ如きが大した申し出。

「面白い」

と、いうことになり。

ネズミはささくれをカリカリ齧り、芹沢は小さな風車をもらった。


風車くるくる歩いていると、今度はイタチがやって来た。

「その風車は綺麗だね。今日は坊やの誕生日。譲っちゃもらえないだろか」

「イタチの坊に贈るのか」

「きっと喜ぶでしょうから」

二度目となれば馴れたもの。

「かわりに何を寄越すんだ?」

「特別に咲かせた水仙を。姿は白く、美しく、花は一月咲きますよ」

「まあ、いいだろう」

と、いうことになった。


寒空に水仙の花の薫りは豊か。

芹沢の酔いを心地よくする。


屯所まで帰ると門前で平山五郎と行き会った。

「こんな遅くに何処へ行く?」

「ええ、まあ」

と、濁すあたり、おおかた愛妾のところだろう。

「ときに、その花はお梅さんにですか?」

平山が少し物欲しそうに聞く。

しかたのないやつだ。

「女のところに行くなら手土産くらい持ってけ」

芹沢が渡すと、

「こりゃどうも」

平山は素直に受け取り、

「かわりと言っちゃなんですが、部屋のほうに灘のいいのを届けてるんで」

「おう」


部屋に戻ると、さっそく湯呑みでぐぐっ、と一杯。


「お泊まりじゃなかったの」

物音で目覚めたらしいお梅が起きてきて、するりと芹沢の胸にしなだれる。

「おや、まあ、花の良い香り」

そこで芹沢はもう一杯。


冬の夜もなかなかどうして悪くない。


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