漫才『家庭円満の秘訣』

陽澄すずめ

漫才『家庭円満の秘訣』

「うちの子供が学校で『いかのおすし』を習ってきたって言うんだよ」


「防犯の標語か。当てはまる言葉にだいぶ無理があって、結局何が何だか覚えらんないやつね」


「俺も対抗して新しい標語を考えてみた。家庭円満の秘訣がギュッと詰まった標語、その名も『はなさないで』」


「『離さないで』! もう秘訣っぽい。大事な家族のこと、離しちゃいけないもんな」


「まずは『は』。『早く帰る』」


「なるほど、残業せずにさっさと仕事を終わらせて家に帰れと。子供が寝ちゃう前に帰りたいよね」


「次に『なさ』。これはズバリ『NASA』!」


「NASA⁈ アメリカの? どういうこと⁈」


「よくぞ訊いてくれた。『いくら家庭と言えど小さな世界に閉じこもらず、NASAのような宇宙規模を目指して生きよう』……そういう壮大なメッセージが込められた二文字なんだよ」


「二つ目にして既にだいぶ無理あるけど大丈夫⁈」


「続いて『な』……『ナチュラルに生きる』」


「まぁ自宅だもんね。自然体で過ごせるのが一番だよね」


「そして『い』……『胃袋を掴め』」


「あー、うん。ちょっと前時代的な響きはあるけど、食事は確かに大事だよね。育ち盛りの子供にとっても栄養バランスが重要になってくるしね」


「最後は『で』だ。何だと思う?」


「『で』かぁ……えー? 『で』で始まる言葉って何かある?」


「ヒント。すごく大事なことです」


「何だろ、で、で……あっ、『デスティニー』とか? 運命を信じろ的な?」


「いやぁ全然違うわ。お前そんな甘っちょろいことばっか言ってるから結婚できないんだよ」


「シンプルな悪口! それで結局『で』は何なんだよ」


「心して聞け。『で』はな……『デビルイヤー』だ」


「デビルイヤー⁈」


「そう、つまり地獄耳」


「いやどういうこと⁈」


「家族の様子に注意を払って、重要な情報を聞き逃さないようにってことだよ。子供や妻の話にしっかりと耳を傾けることで円滑なコミュニケーションが実現するという」


「言わんとすることは分かるけどね⁈ でもまぁ、なるほどね。『はなさないで』、それが家庭円満の秘訣なわけね。俺もいつか家庭を持ったら実践してみるわ。ところで、『は』って何だっけ?」


「『は』か。『は』はな……えーと、……?」


「覚えてねえのかよ!」


「だってこういう標語って覚えにくいじゃん⁈」


「一瞬でも感心しかけた俺が馬鹿だったわ。もうお前はこの話題に関して何も喋るな」


「つまり『話さないで』と!」


「やかましい」



—了—

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