はなさないで
安崎依代@1/31『絶華』発売決定!
※
幸せな夢を見ているのだと、最初から分かっていた。
「
弾けるような声にゆるりと目を開く。
「ほら、行くぞ、蘭!」
差し出された手も、記憶にあるものと寸分の違いもなくて。あの時、離してしまった手のままで。
……今、この手を再び取れたならば。
繋いだ手を離さないまま。離別の未来を話さないまま。
今度こそ最期の最後のその瞬間まで、私と一緒にいてくださいますか。
願っても、そんな未来はもう来ない。夢の外の世界では、この手はもう、こんな風に差し伸べられることはないのだから。
そう分かっても、私は差し出される手に
……そしていつだって、その手に触れる直前に、目が覚める。
「……っ!」
ヒュッと己の喉が息を吸い込んだ音で目が覚めた。
冷え切った、カビ臭い空気。夢の中に満ちていた温かくて柔らかな空気との落差に、今日も私は現実を突き付けられる。
慌てて床から体を起こして寝台を覗き込めば、夢の中に現れた人が、冷たいまま横たわっていた。無意識にその手を握りしめてみても、手を握り返してもらえることは、やはりなくて。
「っ……」
分かっていたはずなのに、その現実に今日も、打ちのめされる。
この御方は、国と民の危機を前に、己の命を投げ出してしまった。私はそれを、止めることができなかった。
あの時。
手を離さないでと、言えば良かった。
自己犠牲が前提の未来を話さないでと、言えば良かった。
そんな後悔を抱えて、一体どれほどの月日が過ぎたというのだろうか。
「……あと少しですからね、
呟く己の声が、どこか遠く聞こえた。
「必ず、私が……」
続く言葉は自分の耳にさえ届くことなく、冷え切った空気の中に消えていった。
はなさないで 安崎依代@1/31『絶華』発売決定! @Iyo_Anzaki
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