或る大学生による“はなさないで”の分析

佐倉伸哉

本編

「本日12時、日本語学の課題が発表された。お題は、“はなさないで”。これをテーマに話を書くに当たり、この“はなさないで”について分析してみようかと思う。

 ストレートに受け止めるならば、“はなす”+未然形しくは否定形“ない”+打消うちけし接続“で”となる。“はなす”については大きく分けて二つの可能性が挙げられる。一つ目は“話す”、秘密を他人に漏らす時に使われる“はなす”もこのグループに分類される。二つ目は“離す”、生き物を逃がす時などに用いる“放す”も含まれる。シンプルに考えるならば、『誰かに話をしないよう頼む』か『何かを離さないよう伝える』事を軸に物語を展開させていくべきだろう。

 しかし、別の解釈も考えられる。“はなさ”+“ないで”のパターンだ。この場合、競馬などで用いられる“鼻差”が真っ先に連想されるが、“はな”についても生物の“鼻”だけでなく植物の“花”が候補に入るだろう。但し、物事の最初や何かの先端を意味する“はな”に関しては後に続く“さ”と組み合わせが悪いので除外しても構わないと思う。

 ここまではシンプルに受け止めてみたが、こういう見立ても出来る。何か別の語句が前にあり、その後ろに接続詞“は”+“なさないで”と。この時、何かを成し遂げたり作ったりする際に用いられる“す”か何かをおこなったり何かをしたり場合に使う“す”が有力な選択肢になるだろう。一応、生命を産んだりする場合に用いる“す”も可能性はあるが、かなり用途が限られるので除外して構わないかと思う。

 さて、いやらしいのは語尾にある打消接続の“で”だ。もし仮に“はなさない”なら先に述べた『“はなす”+“ない”』『“はなさ”+“ない”』『〇〇+“は”+“なさない”』と実に分かりやすいのだが、最後“で”の一文字が付け加えられる事で“ない”と打ち止めにならず、選択肢をかなりせばめているように思う。そもそも論として、“ないで”は『打消“ない”から次の文章に繋ぐ役割の“で”』『禁止や否定の遠回し的な意味』『ある事柄を行わない旨を認める・伝える』の用法で使われるが、その成り立ちは諸説あり用途も多岐に渡る。書き手の解釈が話の肝になると私は考える。

 以上の点から、“はなさないで”とはシンプルでありながら奥の深いお題だというところに帰結きけつした」

「真正面からお題について分析しているのは、聞いていてよく分かった。で、御託ごたくは置いといて、肝心のストーリーについて何かアイディアは浮かんでいるの?」

「それがサッパリなんだ」

「だったら、こんな意味のない事をストーリーについて考えたら?」

「はい」

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