戦いの予兆

第44話 臨時議会の情報

月のアースサイド。


世界政府の臨時議会、2日目の午前中。


地方政府の保安部隊に対有人機攻撃ができるビーム砲やミサイル発射

装置などの武装を許可する法案は、賛成多数で可決された。

さらにこの法律は、緊急性が有るということで即日施行となる。


ただ、それら殺傷能力のある武器で対有人機攻撃を行うことが

できるのは、海賊団などの凶悪な武装集団による市民への攻撃が予見

される場合のみで、かつ保安部隊の長官クラスが指示した場合という

制約がついていた。


これは世界政府直轄の組織である宇宙防衛隊(SG)への

対有人機攻撃を許可した時の制約と同じものであり、所属隊員たちの

個人的な判断で有人機に攻撃をさせないための制約だった。


また、宇宙防衛隊(SG)の武器類が全て登録管理されているのと

同様に、保安部隊の武器類も登録管理することが義務づけられた。


 ***


資源探査船<イカロス>は、高速航行時警戒システムで小天体を除去

できる限界の速度で、小惑星ダフネへと向かっている。


資源探査もせず、真っすぐにダフネへと向かう自動操縦モードなので

ほとんどすることはないのだが、ファビオもテオも居室で休むのでは

なく、操縦室にいた。


テオはミサイルの自動迎撃システムのプログラムを作るのに没頭し、

時々、船側部のハッチを開いてビーム砲を起動しては、システム制御

のテストなども行っている。

そういう作業を行うのは、操縦室じゃ無いとやりにくいのだ。


なおファビオのほうは、ニュース速報で送られてくる世界政府の

臨時議会の記事を読み漁っていた。

居室に寝転んでタブレットでニュースを見ることもできるのだが、

何となくテオの横でニュースの話をしていたかったのだ。


「テオ。臨時議会2日目の採決で、

 あっさりと地方政府への武装を許可するのが決まったぞ」


「ああ、それは見えてたな」


テオはプログラムをいじる手を動かしながら、

ファビオのうだうだ話に付き合っている。


「昨日は、何処かの野郎が『地方政府に武装を許可したら戦争になりかねない』

 なんて反対表明してたけど、あんな物騒な海賊団がウロウロしている中で、

 電磁パルス砲だけで良いわけがねぇってことが、わかんねぇのかねぇぇぇ」


「地球圏しか見てねぇんだよ」


  ***


世界政府の直轄組織である宇宙防衛隊スペース・ガード(SG)の

カルロス・ブランコ総司令官は、SGMBへの応援部隊を検討するように、

大統領から指示されていた。


SGは本来、隕石防衛を専門とする部隊であり、従来は対有人機攻撃の

訓練などしていなかったので、『応援部隊の派遣』と言っても、

真剣勝負のドッグファイトなど未経験の者が多いので困っていた。


数ケ月前に起きたトロヤ・イースト事件というテロ組織による紛争で

大統領機の護衛に当たった火星部隊(SG4)の部隊は、<テラ>という

テロ組織との『命がけの戦闘』を経験している。


--------------〔SG4〕---------------------------------------------------------

宇宙防衛隊(SG)の火星部隊を指す。

太陽系第4惑星の『4』を取ってSG4と呼ばれている。

------------------------------------------------------------------------------------


そういう意味では、応援部隊に相応しいのはSG4のメンバーなのだが、

その後、火星で起きたテロ行為で、火星の司令本部基地が壊滅的な

ダメージを負い、大混乱しているさなかで、火星から長期間の応援部隊を

出すのは難しいと判断した。


地球圏から小惑星帯(メインベルトゾーン)に応援を出すと言うと

往復の距離を考えただけで、かなりの長期間の応援となる。

最低でも半年から一年以上になるだろう。


しかも、相手のメデューサが宇宙空母で移動しながら、どこに出没するか

わからない状況だ。応援部隊を何処に向かわせるのかも難しい判断である。


小惑星帯の全域に満遍なく部隊を向かわせるほどの人員がいるわけでも

ない。とりあえずは、あの映像が撮影された近くの小惑星に派遣することに

するしかないだろう。


カルロス・ブランコ総司令官は、人数の多い地球圏のSG部隊(SG3)の

五つの大隊に、長期応援できるメンバーを出すように打診し、50名規模の

応援部隊を構成することに決めた。


—— 応援部隊が現地到着するまでに、かなりの日数がかかる。

   間に合うのだろうか?  ——


 ***


資源探査船<イカロス>。


ファビオが自分達に関係のある記事を見つけていた。


「おっ! 民間船への武器搭載に関する法案提出の記事が有る。

 どれどれ。ん~~~詳しい記述がないな~~~

 もっと詳しく書いてる記事は無いのか?」


ファビオは、しばらく法案の内容を詳しく書いた記事を探し続ける。

かなり時間が経ってから、法案の詳細を解説付きで書いた記事を

やっと見つけた。


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【民間船への武器搭載に関する関連法案】

1)武器搭載許可制度

民間船への武器搭載は予め許可を受ける必要が有り、世界政府の組織

もしくは地方政府に申請し、審査を受けなければいけない。


(記事解説)

大量の申請受付や審査が必要になるため、複数の機関で分担して

申請を受け付けることになっている。

どこに申請するのかは、民間船の運航目的、機種などによって、

かなり細かく異なっている。(別表を参照となっている)


2)搭載した武器の登録制度

武装を行った地方政府の保安艇、民間船など全ての船は、

どのような武器を搭載したのかを詳細に登録する必要が有る。

武器搭載後に各地方政府の保安部隊の検査を受ける必要が有り、

地方政府がその登録情報を、世界政府に連絡する義務がある。


(記事解説)

この登録制度は、武器を無許可で転売したり、他船等に移設する

ことを取り締まるための制度である。

搭載武器の機種、製造番号、搭載日、搭載後の写真などを登録。

------------------------------------------------------------------------------


ファビオは、詳細な規定を読み、『資源探査船』の武器搭載の

申請方法を見つけて叫んだ。


「やったぞ! テオ。 アステロイド・ハンターとして登録している

 資源探査船は、世界政府の準公的な船としてだ」


「そうか、良かったな。資源探査船として認可されるまで、

 かなりの申請や検査が必要だったからな。 もうそれ以上の審査は

 いらねぇってことだな」


「うーん…そうだな。

 ただ武器搭載後は、地方政府に検査してもらって、

 武器を登録することになってる。こっちは免除じゃねぇなぁぁ。

 武器搭載後1週間以内に検査の申請をしろって書いてあるぜぇ」


「じゃぁ俺達は、『バークリック整備の工場で武器搭載しました』と

 言って、小惑星ダフネの保安部隊に、武器搭載後検査をしてもらう

 必要が有るってぇことだな。 

 武器の本当の搭載日は誤魔化す必要があるが……」


「そうか。俺達は小惑星ダフネの保安部隊に検査してもらうんだよな。

 この前、俺達がハヴェル・ノヴァチェクの遺体回収に貢献したから

 あそこの保安部隊にはちょっと『貸し』が有る。

 もしかしたら、登録検査も優先的にやってくれるかもな」


「ああそうだな。えーっと保安部隊の長官……名前なんて言ったかな。

 あの人に頼んどけば、間違いなしだろう」


「エイブラハム・ラスボーン長官だ。

 小惑星ダフネのバークリック整備に到着して、何日かしたら

 登録検査の予約を入れよう」


「今すぐに、検査の申し込みするのじゃぁダメなのか?」


「いやいや、いま申し込みをしちゃったら、武器を搭載する前に事前の

 チェックもしたいとか、武器搭載のプランを見せろとか言われると、

 やっかいだろ? 俺達はもう、武器搭載しちゃってんだから。

 こういうのは、対応する側のルールが曖昧なうちに、

 さっさと実行して事後承諾っていうほうが上手く行くんだよ」


「ほう。さすがファビオ。も捨てたもんじゃないな」


「だから、いつも言うがは余計だ」


  ***


月のアースサイド。


世界政府の臨時議会、3日目。

民間船への武器搭載に関する法案が審議されていた。


ジャック・ウィルソン大統領の所属する宇宙平和党が提出した

民間船への武器の許可制度、および搭載武器の登録制度については、

議会の大半の賛同を得ていた。


民間船に無制限に武器を搭載することを抑制し、搭載された武器を

勝手に『転売』できないように、きちんと登録するという考え方は

戦争を危惧する世界共和党や民主太陽党にも広く受け入れられ、

わずかな修正で、法案が成立する見込みとなっている。


  ***


資源探査船<イカロス>。


「おいテオ。 あと6時間で小惑星ダフネにつくぞ。

 バークリックのおっさんにこき使われる1週間が待ってるんだ。

 ちょっと仮眠しておこうぜ」


ファビオが小惑星帯のマップ上で、自動航行システムに航路指示の

入力をしながら言った。


「ああ、そうだな。 ミサイル迎撃システムの最終テストはできてないが、

 プログラミングは完成したから、少し寝ておくか」






次のエピソード>「第45話 バークリック整備工場」へ続く

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アステロイド・ハンター 星空 駆 @youandi

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