【KAC20245】お題:はなさないで

かごのぼっち

試験管の中の少女

 コポ……コポポ……


 ここは……


 どこ?


 わたしは……たしか……


 記憶が断片だけど、少しずつ蘇ってくる……


 わたしは死んだ……


 あの時、あなたの腕に抱かれながら……


 酷い人生だったけど


 最期、あなたが助けてくれて


 わたしは自由になれた……


 身も……心も……自由に……


 あなたと一緒に笑い合えた時間


 それがわたしの宝物


 あのまま死んでも良かった……


 後悔なんて無かった……


 なのに


 眼の前にはあなた


 あなたがいる!!


 コポポポ……


 ここは……試験管……


 過去にも試験管に入っていた記憶がある……


 そこはどこかの研究所で


 ちょうどここと同じようなところ


 同時に忌まわしい思い出が蘇る……


 白い服を来た人たちに囲まれて


 とても酷いことをされた


 毎日


 毎日


 苦しかった


 もう二度と戻りたくはない


 あの研究所……


 だけど絶対的な違いがある


 それは……


 そこにあなたがいるということ


 それだけで天と地ほどの違いがある


 きっとあなたがわたしを助けてくれたのだろう


 もう一度あなたに会えた


 それだけでわたしはもう一度生を受けた価値がある


 そしてあなたと同じ地面に立てるなら


 それ以上の喜びはないだろう


 そしてこの隣にいる……


 わたしに似たひと……


 おかあ……さん?


 あの時、あなたが見せてくれた、そのひととそっくりの姿は


 紛れもなくわたしの遺伝子の元となった人物だ


 白い肌


 白い髪


 真紅の瞳


 そして優しい笑顔


 お母さん!


─ガコン! ゴボボボ……


 水が抜けていく……


 足に力が入らない……


 ダメだ、立てない……


 肺に水が入っていて


 呼吸も……


 お母さんが優しく抱きしめてくれる……


 なんて


 なんて温かいひと


 このひとがお母さん


 タオルで丁寧に身体を拭ってくれる


 優しい手つきで


 優しい眼差しで


 素敵なひと……


 わたしはストレッチャーに乗せられて、どこかに運ばれて行く


 でもほんの微塵も不安はない


 だって


 左手をお母さんが


 右手をあなたが


 握っていてくれるから


 もう


 はなさないで


 二度と


 この手を


 はなさないでください


 もう


 ひとりは嫌です


 ですから


 はなさないでくださいね?

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