ここだけの話
浅川さん
ここだけの話なんですけど
「「お前のことをもう離さない」ってセリフ、ドラマとかによくあるじゃないですか」
会社のオフィスでお昼にカップラーメンをすすっていると、突然後輩の女の子に話しかけられて、僕は少し咽た。
「ぐふっ、んん、………まあ、そうだね」
僕がそう答えると、サンドイッチを片手に後輩はこう続けた。
「あれってちょっとキモくないですか?」
想定外の単語が出てきて僕は驚く。
「キモい………のかな?どうして?」
僕は後輩がどうしてその思考に至ったのか気になった。
「普通はそういうセリフって、どちらかと言えば言われたいもんじゃないの?」
僕が言うと後輩は不機嫌そうな顔をした。
「センパイ、キモいっていうのはそういうところなんです」
言葉が脳にぶっ刺さる感覚。ショックのあまり箸を落としそうになるが後輩の話は続く。
「なんか、「女どもはこういうキザで甘いセリフ言っときゃ落ちるだろ」って意思が透けて見えるんですよね。レッテルを貼られているというか。決めつけられているというか」
話を聞いてなるほどと思う。確かに僕も、「女の子はそういうセリフ回しが好きで、あこがれている」という想像を前提に話してしまった。
確かに決めつけられるのは気分が良くないよな。僕は後輩に謝った。
「ごめん、僕も想像で決めつけていたよ」
ぼくがそう言って頭を下げると後輩は驚いた顔をした。
「え?なんでセンパイが謝るんですか?」
………よくわからないが許されたらしい。
僕は「いや、何でもない」と言って話を濁した。
「やっぱり、言い回しの美しさとかより、ストレートな気持ちを言ってほしいですよね」
そんなことを言いながら、後輩はサンドイッチをかじる。
「ストレートね………まあ、確かにまどろっこしい言い方はお互いダルいかもね」
「でしょう?」
僕が言うとすかさず乗ってくる後輩。
「結局「お前のことをもう離さない」って告白とかプロポーズのセリフだと思うんですよ。でもそれなら「好きだ!」とか「結婚して!」って言われたほうが返事もしやすいってもんです。私はそう思います!」
後輩はそう言って胸を張った。
「そ、そうか」
僕はその迫力に圧倒されてしまう。
ところで、どうしてこの子はそんな話を僕に力説しているんだろう。
サンドイッチを食べ終わった後輩は立ち上がった。
「さーて、午後も頑張りますかー」
「おう、寝るなよ」
僕が言うと後輩は笑った。
「寝ませんよ。………あ、ちなみに今の話、ほかの人にははなさないでくださいね」
そう言って、ウインクして去っていく後輩の背中を見つめる。
ん?今の話?話さないで?
んん?
首を捻りながらも食べかけのカップラーメンの容器を手に取る。
しかし、ラーメンはすっかり延びてしまっていた。
まあしかし、食べられないわけではない。
箸を伸ばして麺を持ち上げた瞬間、脳内で何かが噛み合う。
「あ、そういう?………え、ええ!?」
僕はカップラーメンの容器を机の上において、後輩のあとを追いかけた。
完
ここだけの話 浅川さん @asakawa3
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ささくれの治し方/浅川さん
★126 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます