ささくれボーイミーツガール

@bakuidaore

ささくれボーイミーツガールデバガメ

 今日和樹は告白するらしい。

 

 最近、同じクラスの川原さんを見てソワソワしていたのを知っている。授業中も頻繁に視線を向けていたし、それとなく同じクラスの奴らに川原さんの情報を聞き回ったりもしていた。もちろん俺にも聞きに来たが、残念なことに川原さんのパーソナル情報など知る由もなかった。ミステリアスな高嶺の花であり、喋ったこともない。それでも期待して見てくる親友を無碍にはできず、なんとか捻り出した情報は”すれ違うと木工用接着剤の匂いがする″というクソみたいなものだった。もしかしなくても悪口になる部類だ。そんなクソみたいな情報でも呑気な笑顔で「ほぉ~工作が好きなんかな」とこちらに礼を言ってくる。もう俺は120%確信していた。こいつは恋に落ちている。


 1ヶ月ほど前、おそらくだが俺は和樹が恋に落ちる瞬間を見た。

 教室の俺の席で駄弁ってたときのこと。すぐ側で川原さんが木工用接着剤を落とし、和樹はそれを拾い上げた。

「落としたよ」

「ありがとう」

目と目が合い、思わずといった様にお互い目をそらし、不意に触れ合った小指に肩を大きく揺らして、2人は離れていった。

「あの子の名前なんて言ったっけ」

ぼんやりとしながら川原さんの後ろ姿を見ていた和樹に俺は驚いていた。クラスメイトどころか同学年全員の名前を覚えてそうなこいつが川原さんを知らないなんて。

「意外だな。川原さんだけどどうした」

「ささくれが……」

 和樹はそれ以降何も言わず、川原さんの背中が見えなくなるまでぼんやりと見ていた。保育園からずっといっしょだった俺がこんなコイツを初めて見るのだ。初恋に違いない。

 それから1ヶ月、確信に確信を重ね確信が200%を超えたところで遂に聞いてしまった。和樹が川原さんをお呼び出し!俺の、俺たちの人生で1位2位を争うビックイベントが始まってしまった。

  

 なのでデバガメすることにした。和樹はメチャクチャいい奴なので告白が上手くいって欲しいなとか、川原さんに和樹の良いところ知って欲しいなとか、実は川原さんがすげぇ性格が悪い奴だったらどうしようとか、2人ともいい奴だけど後味が悪い結末になんてことになりませんようにとか。いい結末だったらあれこれ聞き出して盛大に祝ってやろうとか。よくない結末だったら言ってくるまで知らないふりしていつも通りに接しようとか。たくさん考えながら荒れ狂う内面を押し留める。

 かれこれ屋上の影に隠れて15分弱。まだまだ暑い日が続く中、顎から滴り落ちる汗が500円玉サイズのシミを作ったところで2人は一緒にやってきた。呼吸をゆっくりにし、音を抑える。

「突然呼び出してごめんな」

「……」

「ずっと気になっててさ。まさかと思った」

「……やっぱり」

 手に汗が滲む。やっぱりということは

「手ぇ荒れてるよ」

 和樹は木工用接着剤を差し出していた。


……………………?

木工用接着剤はハンドクリームではない。


「見えてた?」

「バッチリ。ささくれの下に内皮が見えてさ、出身同じかもって気になってた。◾️h▪︎>βq罏灬个》星▪︎n?」

「違う、⚫︎g#####ギ雲fいk i出身。p/貍社製の外殻なんだけど使ってたオイル切らしちゃって。地球の木工用接着剤でも代用できるって聞いたけどこの有り様よ」

「長期間のパッケージで来たのか?そうなら素直に正規品取り寄せた方がいいと思うけどなー」

「”親の銀婚式にホームパーティを開こうパッケージ“で来たの。追加のパッケージも頼むつもりだし一緒に頼もうかしらね。そっちはなんのパッケージ?」

「”親友と還暦祝いで乾杯しようパッケージ“」   

「まあまあの長さね。親友は出来た?」

「最高のが」

「大切にね」

「言われなくても」

 笑い合う2人の影が小さくなっていく。

 よくわからないがどうやら俺の親友は人間じゃない様だった。



「和樹手を出したまえ」

「どうした急に。別にいいけど」

「ハンドクリームを塗ってやろう。清潔感のある男は好印象らしい」

「モテたい期がきたか。差し詰めおれはモニターだろ」

「バレたか」

クリームを塗り込む和樹の手にはささくれ一つなかった。和樹の肌は何色だろう。虹色に輝く和樹を想像する。和樹は笑いが止まらない俺を不気味そうに見ていた。いつか見せてくれるだろうか。

「楽しみにしてる」

「なになになにこえーんだけど」


 

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