ささくれ家族不幸

2121

第1話

 ささくれは親不孝で、その指によって誰に対する不孝なのかが分かるという。親指ならお父さん、人差し指ならお母さんといった具合だ。

 それは迷信だと思っていたのに、私の場合は自分のしたことが一時間後にささくれとなって顕著に指先に現れる。



 うちは父、母、兄、姉、私の五人家族だった。それぞれの不孝は親指から小指に対応する。ちなみにペットの犬は、どうやら足の小指に対応しているらしい。

 これに気付いたのは小学生の頃だ。あるとき五歳上の兄の読んでいる本が気になって、勝手に部屋から取ったことがあった。行儀悪いことにオレンジジュースを飲みながら読んでいたら、盛大に本の上に溢してしまった。拭いたものの本はベタつき、砂の上に置けば蟻がたかりそうな状態になってしまった。

 やばい。

 バレては滅茶苦茶に怒られてしまうだろう。なんせこの本は兄が誕生日に買ってもらった最近人気のファンタジーで、兄はこの本を何度も読み返すほど溺愛しているのだから。

 焦った私は犬のベッドの下に本を隠した。幼い私は当時名案だと鼻を鳴らしたのだが、今思えばあまりに浅はかな隠し場所だったと思う。一時間後にひどいささくれが中指に出来た。

 そしてオレンジジュースの匂いの染み付いた本を犬は気になり、引っ張り出して気付けば噛み付いてぐちゃぐちゃにしてしまった。私はその頃、お菓子を食べて気分よく昼寝に勤しんでいたものだから、気付いたときには手遅れだった。

 私の愚かな行為に帰って来た兄は顔も耳も赤くするほどひどく怒り、私の目には涙が浮かぶ。しまいには兄は私よりも号泣し始めてしまった。

 兄には申し訳ないことをした。

 私のささくれは血が滲むほどになっていた。



 また別の日には冷蔵庫にあった二歳上の姉のプリンを私が食べてしまったことがあった。私はそのプリンが誰のものかを知らなかったのだが、一時間後に薬指にささくれが出現した。変なところに出来たな、と思っていたら、帰って来た姉と大喧嘩になったのだった。確かに私が悪かった。けれど自分の食べ物には名前を書いていて欲しい。

 その後もいくつかそういうことが続き、迷信は本当だったことを知ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささくれ家族不幸 2121 @kanata2121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ