ギュッ

七倉イルカ

第1話 ギュッ


 「絆創膏を指に貼るときは、テープの部分をハサミでカットして、左右二本ずつにするの。

 それから、交差するようにテープを貼っていくと、剥がれにくいんだよ」

 人差し指を俺に向かって突き出しながら、早紀が言う。

 「ハサミは持ってないよ」

 早紀の人差し指に絆創膏のガーゼ部分を当てようとしながら、俺は答える。

 薄いピンク色の爪の根元、皮ふの部分に痛そうなささくれが出来ているのだ。

 細いV時の形に皮ふが剥がれ、浮いた部分の下は赤くなっている。

 「ダメじゃん」

 「そこは、男の子なのに絆創膏を持ってて偉いねと、ほめてくれよ」

 俺は苦笑する。

 「ささくれは、切らないの?」

 「それこそ、ハサミが無いよ。

 爪で摘まんで千切ったりするのは良くないらしいからね」

 俺は絆創膏のガーゼを早紀のささくれに当てた。

 浮いた部分を押し戻すようにして、やや斜めになるようにテープを巻く。

 「ねえ。ずっとくっつけてたら、剥がれた部分が元に戻らないかな?」

 「戻らないだろ」

 絆創膏を貼り終えた俺は、顔をあげて早紀を見た。

 生意気そうな顔。

 でも、今日は、どこか哀し気に見える。

 「ギュッーーっとくっつけても、元に戻らない?」

 「戻らないと思うよ」

 俺は困ったような顔で答えた。

 少し前から、早紀と彼氏が、うまくいっていないという話は聞いていた。

 「……そっか。

 やっぱり元には戻らないか」

 早紀は絆創膏の巻かれた人差し指を哀しそうに見つめる。

 「痛いのか?」

 「指は痛くない。

 ……でもね、ここが痛い」

 早紀は自分の胸を人差し指で、トントンと叩いた。

 「早紀」

 俺は思わず、両手で早紀を抱きしめた。

 早紀はビクッと身を固くした。

 「……ダメじゃん」

 「ごめん」

 早紀の小さな声に、俺は手をゆるめた。

 たしかに、このタイミングで抱きしめるのはダメだ。

 「違う」

 早紀は、恥ずかしそうにちょっとだけ上目遣いで俺を見た。

 「もっとギュッーーとしなきゃダメじゃん」

 「……早紀」

 俺は早紀を抱きしめる腕に力を込めた。


 ギュッ。

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 ギュッ 七倉イルカ @nuts05

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