当然を積み重ねてエピローグ
罠ダンジョンが現れた翌日。
私と坂崎さんはダンジョンアタッカーがもりもりと到着するのをお迎えしては、彼らが罠ダンジョンに挑戦するのを見送っていました。
ダンジョンの内部は、坂崎さんの予想通り高度なモンスターを有している高レベルダンジョンでした。
最初の部屋こそ油断させるためかゴブリンなどのザコモンスターしかいませんでしたが、ちょっと通路を進んだだけで殺意の高い罠やら、毒をまき散らすでっかい蛾のモンスターなどが出てくる有様。こうした殺意の高いダンジョンは、ちょっと自衛ができる程度の腕前で奥に潜るもんではありません。
当初の予定通りちょろっと調査してとっとと帰った私たちは、普通にこのダンジョンを高レベルダンジョンとして登録してダンジョンアタックの応援要請を出しました。
要請を出した途端、私の端末に『一人でやってって言っただろう!』的なお叱りメッセージも届いてきましたが、無視しました。
ぶっちゃけそんなものに構えなくなってしまう程に、本当に殺されるところだったというのが怖くなってしまったのです。
「しょうがないっすよ、モンスターと戦うのとかと別口の命の危機っすもんね」
なんて言いながら震える私に寄り添ってくれた坂崎さんには本当に頭が上がりません。
というか誰ですか、前世があるからメンタル的に耐えられるとか言っていたのは!私です!前世が在ろうと悪意による死の予感ってのは普通にめっちゃ怖いです!!
という感じで震えていたのですが……その震えも、一人で突撃しろという鬼メッセージも、今朝には止まりました。少なくとも震えに関しては、寄り添ってくれる人が居たからだと思います。
ダンジョンに向かうアタッカーさんに備蓄の回復薬などをお渡ししつつ、見送ります。いきなりの要請に応じてくれた気のいい人々は、どうやら山西さんのご友人だそうです。
山西さんと私はなんか気づいたら仲良くなってたのですが、似たような感じでたくさんご友人がいるみたいですね。その縁を使ってくれるのは本当にありがたい事です。
そうそう、山西さんと言えば今朝一つ連絡を頂いていたのでした。
「坂崎さん坂崎さん」
「なんすか?」
「私の本部にいる友人……山西さんって方いわく、こっちとの連絡を歪めていた異界のスパイが一人見つかったそうですー」
「マジっすか?滅茶苦茶朗報っすね!」
「朗報ですね~。ちなみにちゃんと生け捕りにして、研究対象にするそうですよ。昨日私がビビった分ぐらいの怖い思いはして欲しいところです」
あっ、ちょっと腹黒いことを言ってしまいました。引かれてないでしょうか……引かれてなさそうですね。むしろ神妙な顔をして頷いてくれています。
「割と好き勝手やった上でこんな女の子追い詰めてるんだから、そりゃちゃんと報いは受けるべきっす」
「同意してくれてるとこもうしわけありませんがー、私の前世ってあなたより年上ですよー?」
「前世がどうあれ、今生きてる君が傷つけられてたのは変わらねえっすよ。ただでさえダンジョン出てくる限り傷を負い続けなきゃいけないってので理不尽なのに」
……私は前世恋愛から遠かったから普通に勘違いするし好きになるぞ?というかもうだいぶ好きな感じがしますね?
でもこういうのを言葉にするのは恥ずかしいし、アプローチするにはおててが痛くてさりげないボディタッチとかができずに滅茶苦茶不利なんですが。どうしましょうかねこの感情。茶化してどうにかするしかない気がします。
「そんなこと言われたら惚れちゃいますよ~?いいんですか?メンタルは女子とつけるとちょっときついお年頃ですよ?」
「精神面はともかくとして、今の君が未成年なんで困るっす」
「そういえば年齢差的にはそうなりますねー……ん?」
じゃあそれさえ何とかなればOKなんですか?でもここまで聞いたら絶対冗談じゃなくなっちゃいますよね?今ですら茶化せているかわからないのに?!さらに踏み込めというんですか?!
「あ、離脱の方がいるっすね!治療してくるっす!」
「あら大変。こっちは休憩用のもの用意しておきますね~」
なんて心の中でワタワタしていたら負傷者が出てしまったようです。坂崎さんはそっちの方に走っていってしまいました。
……大変な状況というのに、助かったような気持ちになってしまったので、治療されてる方の休憩用にちょっといい感じのお茶菓子をつけてあげましょう。コッソリ罪滅ぼしです。
そんなかんじでたまにダンジョンから離脱してくる人を治療したり、休憩のためにお茶を淹れているうちに、いつものダンジョン探知の時間が迫ってきました。
こればかりは毎日しないと危ないですからね。私はダンジョン攻略の補佐から離脱です。
「坂崎さん、こちらの対応お願いしますね。私はダンジョン探知と、その放送をしてきますー」
「行ってらっす!」
見送られて、久しぶりに一人で田舎にぽつんと立つ高いタワーの最上階を目指します。
ここ数か月あたりまえだったそれが、本当に寂しい事だったのと、私の命を脅かすための攻撃だったことを改めて実感してしまいました。
「いやはや、慣れって恐ろしいですね。坂崎さんをこちらに送る判断をしてくださった方にはちゃんとお礼をしなくてはいけませんねー」
用務員の山西さんぐらいしか私には繋がりがないので、きちんとお礼を言えるかはわかりませんが……まあでも山西さん顔が広いらしいので、多分山西さんにお礼の言葉を預ければいずれ伝わりますね!
「さて、と」
高くて空気が薄い寒い場所。おもわず暖をとろうと擦った手はチクチクするものの、ほんの一週間ほど前までかんじていた悲しさがありません。
気づかないふりしてた心のささくれは、きっともう治っているのでしょう。まだダンジョンは近くにありますが、私の本当の危機はきっと、一人ぼっちにあったのです。
一人じゃない感覚がある今の私なら、モンスターが湧き出てきても戦える気がします。
「まあ、出てこられても困るのでそこはアタッカーさん達だよりですね。私は私の仕事をしましょう」
私が見つけなければいけない危機を見つけるために。いつものように地上500mの地点から、九州全域に向けて放送を行います。
マイクの調子を見て、声がおかしくなっていないか自分の声の様子をチェックして。よし。
「『皆様こんにちは。九州ダンジョン探知班の、大宮梨香です」』
私が発する声と、マイクを通して放送した声がわずかにズレて重なり、耳に入ってくる。
「『午後3時のダンジョン探知を行います。情報の確定まで、しばらくお待ちください」』
いつもの口上を述べて、私はささくれだらけの手を高く掲げる。ささくれの一本一本から、強力な魔力探索波が発生し、その跳ね返りを私の脳が受信。
その結果に、私は思わず声をあげてしまいました。
「『 ――わぁ! コホンッ!! 午後3時のダンジョン探知の結果をお伝えします――」』
私の命を刈り取るはずだったダンジョンの消滅も含めて、発生したダンジョンと消滅したダンジョンの数を、いつもどおりに人々に伝えていきました。
ローファン世界に転生したけど、異能の代償が割と痛い 黒味缶 @kuroazikan
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