解決の一手は知らないうちに打たれてる

 坂崎さんがやってきてから一週間。

 本部の友達こと山西さんに連絡とったり、命令系統の洗い出しをしてもらったり……と言った事とは無関係に九州ダンジョン探知班は稼働を続けています。

 そんでもって新入りとの距離感は微妙。私は坂崎さんに自分の異能をしっかり公開しましたが、私は坂崎さんを回復系の異能持ちとしてしか知りません。そのせいか、何かちょっと微妙な空気が流れることがあるなあと感じるのです。


「というわけで、本日は坂崎さんの異能を改めてお伺いしようかと」

「このタイミングなんすか?」

「最初の一週間はこのあたりの設備説明とか仕事の内容紹介に終始してしまいましたのでー。改めて、お互いを知る機会をとったほうがいい感じかな~と」


 距離感が微妙というのも、別に坂崎さんとウマがあわないとかではないわけですからね。どうも彼の異能由来の感覚からみて私がちょっといたましく見えるらしい感じなんですよね。


「この一週間、坂崎さんが私を見て義憤に駆られてるっぽい悲しいお顔をすること実に10回以上」

「俺そんなに顔にでてたんすか?!」

「めちゃめちゃ出ておりました。そのたびこのおててに目が行っているのも気づいておりました」

「うわぁ……すみません、そりゃなんか居心地悪く感じさちゃうっすね?!」


 頭を抱えてしまいました。いいんですよ、善性由来っぽいのはわかってるんですし。


「明るく楽しく話せるのに不意にそのタイミングが来るあたりが異能由来なのかな~と思いまして」

「そうです……俺の異能って実は回復そのものじゃなくって、生物や物体の魔力の流れの異常な場所がわかる、っていう異能なんすよ。魔力の流れがおかしいってことは損傷なりがあるって事なんで、発動しながら見る事で治すべき場所がわかるんすね。で、実際の回復は回復魔法をダンジョンアタックやってた頃に取得してるんで、それでやってるっす」

「なるほど、相手が喋れる状況じゃなくても治す箇所がわかるのはいいですね~。本当に優秀な回復役じゃないですか」

「まあ、一応」

「そして、治すべき部分が治ったら困るというパターンに遭遇することがこれまでなく、治せないことでなんかしょんぼりしちゃうということですね?」

「そうっすね……めっちゃこっちの事情汲んでくれるっすね」

「精神は坂崎さんより大人ですので」

「気を使わせちまってすまねえっす」

「こちらこそすみません……これあれですかねー?ミスマッチな職場に送り込んで坂崎さんを消耗させる狙いですかねー?」


 山西さんとの連絡で、やはり坂崎さんの異動に不自然な点がある事がわかっています。山西さんの情報は断片的なのですが、正式な異動だけどこっそりした異動でもあるとかなんとか。

 あとなんか九州ダンジョン探知班が私一人なのを本部はずっと隠されていたらしいですよ。おかしな状況だと思ってたらマジでおかしなことになってたんですね。

 なお私は異常状態の相談をしなかったことを直属上司に当たる方にちょっとお叱りされました。ぴえん。そっちも確認せえよ。


「まあ、この件のおかげで連絡系統の見直しが入るのと、あとこちらにも人員が適切に補充されるらしいのでー」

「それは良かった……うん?」

「どうしました?」

「なんか、ちょっと引っかかりを感じるっす。うまく言葉にできないんすけど」

「じゃあいったん置いといて、言葉に出来た時に教えてくださいね~。私、リモート繋いで部活してきますんでー」

「りょっす。こっちで書類とか連絡きたら対応しときまっす」


 坂崎さんにお仕事を任せて、JKとしての日々に向かいます。

 学業以外の活動だって学生としては大切ですからね!ちなみに今世の部活動は文芸部に所属しています。こっちに割り振られることが決まる前、中学生まではダンジョン攻略部だったんですけれどね。今はそれがガチの仕事なので、別のことをしたいのです。


 というわけでリモートで部活とつなぎつつ、ワイワイ話しながら創作活動をしていましたところ――ささくれに、ピンとなにかが反応しました。

 思わず自分の手を見た私に部員の殆どが中二病ネタかとからかってきましたが……これは茶化して誤魔化すにはちょっと厳しい反応でした。

 頭を下げて早退し、ボウガンに矢を装填してから坂崎さんを呼びます。


「坂崎さん!なんかすっごいささくレーダーに反応があります!」

「えっ、マジっすか?なんか山とかから下りてきたんすか?」

「わかりません!交戦あるかもなんで、武器もって一緒に反応のある方に行ってもらってもいいですか?」


 了解と返答して、坂崎さんはすぐにナイフを持ってくる。

 そうして二人してささくレーダーが示す方向に向かっていく途中、私はある事に気づきました。


「……レーダーの反応が強すぎるようなー?……まさか」

「ダンジョン門ができてるんすか?」

「反応的にはそれっぽいですー……パッシブ利用の範囲で門を探知するなんて中学生以来なので、気づくの遅れちゃいました」


 歩みを進めると、外部と繋がる道路を封鎖するかのようにダンジョン門が一基、生えていました。

 即座に、普段使いの端末からダンジョン情報を送信。この近隣にはほかに人が居ないため、どうしたって初期調査には私達が向かう事になります。そして実際に、申し訳なさそうな文面ではありますが、私に調査と可能であれば破壊を行うようにメッセージが帰ってきました。


「……おや?」


 そのメッセージは、少々不審な点がありました。

 滅茶苦茶要約すると『大宮さん一人で対処をお願いします』となっていて、坂崎さんの事が書かれていないのです。

 せっかく人が増えたのです、わざわざワンオペでやる必要は無いでしょう。なのに当然のようにワンオペ対応をさせる気でいる様子の内容なのです。メッセージを送った対象は先日お叱り頂いた上司のはずなので、その時の話で新入りの事は知っているはずなのに……です。

 私の後ろからそのメッセージを覗き見ていた坂崎さんは「あぁ」と何か心得たような声を出しました。


「なるほどな」

「なにがでしょうか?」

「引っかかりを感じるって言ってたじゃないっすか。それがどういう事だったのかがわかったんすよ。 多分だけど、異世界側のスパイ的なやつが内部工作していて……その狙いは俺じゃなくて大宮さん、君っす」

「私ですか?異動させられたのは坂崎さんなのに?」


 坂崎さんは首を縦に振って、目の前にある門を指さしました。私も、思わずそちらを見ます。

 ぱっと見の門は簡素なものです。見た目での判断であれば小中学生でも潜れる程度のランクのダンジョンに見えます。


「魔力の流れを見て治すべきところが見えるって言ったじゃないっすか。あれって、要はおかしいところがわかるってやつなんで、偽装もある程度わかるんすよ……あの門、偽装されてるっす。シンプルな門でザコダンジョンと思わせて、強力なダンジョンに招き込んで殺す。そういう意図があると思うっす」


 ささくレーダーをアクティブ発動すればおそらく本来のダンジョンのレベルもわかるけれど、今日は既に使用済み。一日に複数回使った場合でもデメリットとしてはただ滅茶苦茶疲れるだけなんだけど……おそらく、私一人だったら見た目で判断して招き入れられてしまっていた。


「こういう偽装をしている以上、普段のダンジョン探知の時間の後に出現させたのも意図的な物だと思うっす。俺がこっちに来させられたのは、こういうことが起きかねない状況だと気づいた誰かがコッソリ援軍で送ったって事じゃないかと思うんすよ」

「なるほど~、納得です……そういう知恵や内部工作が可能なタイプの侵略者がこの世界にひっそり蔓延っているという事でもあるので、滅茶苦茶嫌なこと知った感もありますけれどー」

「どんだけ根を張られているか、考えるだけで気が滅入るっすね」

「ねー。  とりあえず、調査と報告自体はしていきましょう。内部モンスターが強ければとっとと離脱しつつ応援呼ぶ感じでー。囲まれないように注意していきましょうね」

「りょっす」


 そうして私と坂崎さんは、相手の罠と知りつつダンジョンに踏み込んだのでした。

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