第7話 「ささくれ」

 次の日は、早くもショドク八周年選手権の次のお題が発表される日だ。

 この日、わたしは、みんながわりと敬遠する外回りの仕事を引き受けた。

 みんなが外回りを敬遠する理由の一つが花粉、そして、わたしは花粉症ではないから。

 そして、この仕事だと、午前中ずっと出張扱いになるのだが、早めに帰って来ることができるから。

 わたしは、あの古風な喫茶店の窓際の席で、待つ。

 久礼くれ菜恵なえは昨日の夜のバスで帰って来るという。もう家に着いて、シャワーを浴びて、こっちに向かっているらしい。

 「一二時よりはずっと早く着けそうです(笑顔の女の子の絵文字)」

というメッセージを見て、わたしはほくそ笑んだ。

 今度こそ、油断している久礼菜恵をつかまえて、束縛して、理由もなく責めまくる!

 いや。

 そんな「性描写あり」、「暴力描写あり」、もしかすると「残酷描写あり」のレイティングが必要な話ではなく。

 この、きまじめな上辺じょうへん大学生清楚眼鏡っ子少女に提案してみたいことがあったのだ。

 このコンビ、ショドク八周年選手権のあいだだけでなく、もう少し、続けてみよう。

 いままでの感触だと、久礼菜恵はもっと長いものでも書けそうだ。

 ショドクの作者「くれなえ」のページを見てみても、一〇万字以上の作品をいくつも書いている。

 わたしが久礼菜恵に設定を言って、それにあわせて久礼菜恵が何か書いてくれて、それを読んでわたしがその先をさらに考える。

 そんな作業ができれば、もっと楽しいだろう。

 久礼菜恵を束縛してどうこう、と暗く想像するよりももっと楽しいだろう!

 それと。

 「合作を二つ作って、それぞれのアカウントで一つずつ公開する」。それはショドクの規約的にどうなの、というところを回避するために、まずは、同人誌を作って、同人誌即売会に持って行ってみよう。

 即売会ならば、サークルで一作品を合作する、なんて普通なのだから。

 わたしも、大学生のころには同人誌即売会にはサークル参加していたけれど、それきりだ。

 まして、まじめな上辺大学生の久礼菜恵は同人誌即売会なんか行ったことがないだろう。

 初めて参加する同人誌即売会の雰囲気に衝撃を受ける久礼菜恵!

 自分のこれまでの常識が通じずにとまどう久礼菜恵!

 それをなぐさめるふりをしつつ、さらに試練を与えるいけないわたし!

 これは……。

 ……束縛なんかよりもずっと萌える!

 いや。

 そんなことはどうでもよく。

 サークル名、そして合作作者名も考えてあった。

 「ささくれ」。

 「ささっちゃん」と「くれなえ」を合成した。

 そして、わたしに、久礼菜恵にこの提案をする決意をさせてくれた、ショドク八周年選手権のお題でもある。

 久礼菜恵は、受け入れてくれるかな?

 久礼菜恵のことだから、「くれ」が上じゃないといやだ、なんてことは言わないだろう。もし言ったら、「年齢順」という、ふだんはダメージにしかならない理由を挙げてやろうと思うのだが。

 とりあえず、いまは、この「お題」を考えてくれたショドクの運営さんに感謝しておこう。


 (終)

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「ささくれ」で小説を書く 清瀬 六朗 @r_kiyose

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