第41話

「俺たち、これからどうなるんだ?」

 怜王が情けない声で呟いた。

「わかんねえよ!」

 怒鳴り声で、雄太が返した。

「どこかに集められて、みんないっしょに銃殺されちゃうかもな」

 翔は目に涙を浮かべている。

「そんな。これから善行しようっていう俺たちを、いくら人間たちだって――」

 怜王も半泣きだ。さっきはゴルフ場で暴れるのは見せかけで、皇の内をぶっ壊すなんて言ってたくせに。

 すると、李衣斗先生が、落ち着いた表情でみんなを見回した。

「人間たちだからこそだ。どんな理由をつけられるかわかったもんじゃない。しかも、怪獣の町のお偉方は助けに来てくれないだろう。なぜなら、俺たちは正式な許可をもらって検問所を通過したわけじゃない」

 大樹が青い顔で頷く。


「自分たちでなんとかしなきゃならないってことだな」

 晃さんが最もらしく言ったが、その方法がないから困ってるんじゃないか。


 そのとき、どこからともなく、バターを焦がしたような香ばしい匂いが流れてきた。


「いい匂いだな」

 大樹が鼻をうごめかして、天井を仰いだ。

「この匂いは、ラーメンの出汁だ」

「ラーメン?」

 驚かされた。こんな香ばしい匂いのする出汁を、人間たちはラーメンに使うのか?


「大樹さん、人間が作るラーメンを食べたことがあるんですか」

 玲王が、からかい気味に訊いた。

 玲王れおの気持ちはわかる。

 人間の町では、ありとあらゆる種類のラーメンがあるらしいのだが、それはあくまでも噂でしかない。

 元太郎の知る限り、人間が作ったラーメンを食べたことのある怪獣はいないはずだ。


「い、いや、食べたことなんかないよー!」

 妙な慌て方で、大樹は激しく首を振る。

 何を焦ってんだ?


「食べてみたいよな」

 乙部さんが呟いた。

「俺なんか年だろ?生きてるうちに食べてみたい」

「そんな……。縁起でもない。こうなった以上、死ぬときはみんな一緒ですよ」

 晃さんの返答のほうが縁起でもない。


「あれ? 誰が来る」

 かける が首を上げた。

 たしかに、近づいてくる足音がする。


 一気に緊張が高まった。

 どんな展開が待っているのか。

 みんなで部屋の入り口を注視した。


 ドアが開いた。

 と、同時に、香ばしい香りが流れてきた。


「ラ、ラーメン?」

 誰かが呟いた。

「まさか」

 そう返したのは玲王だろうか。


「その、まさかだよ」

 晃さんの声は上ずっている。


 大きくドアが開かれた。同時に、怪獣たちの腰ほどもある箱が現れた。

 いや、箱じゃない、ワゴンだ。

 そして、ワゴンの上に載っているのは――。


「ラーメン?」

 たしかに、そのようだ。怪獣たちには小ぶりすぎるが、人間たちには背丈ほどもある丼が、八個。その横には、人間たちにしてみれば電信柱と思えそうな箸が、やっぱり八個。


「どういうことだ?」

 呟いたのは、晃さんだった。



 


 


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怪獣の結婚 popurinn @popurinn

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