浮気の制裁はこの薬で

御剣ひかる

死よりも怖い?

 ちょっと、なにこのネックレス。

 金色の細いチェーンに小さな緑の石のペンダントトップ……。わたしこんなの持ってないし、趣味じゃない。


 あの人、昨日は仕事で連絡取れないからって言ってたけど、まさか浮気したんじゃないでしょうね。


 あ、戻ってきた。これは元の場所に隠しておいて……。


「ねぇ、昨日はお仕事うまくいったの? 確か騎士団の人と街はずれに出た害獣を退治しに行くって言ってたけれど」

「あぁ、うん。思っていたよりてこずったけれどね」


 あ、あごを掻いた。嘘をつく時の癖ね。

 ちょっと調べてみる必要があるわね。




 やっぱり浮気してた。街はずれの商人の女と。

 なにが害獣退治よ。

 このわたしを裏切ってさらに嘘までついたこと、後悔させてあげるわ。

 大怪我を治す薬から、心臓をそっと止めてしまう毒薬まで作れるこのわたしを敵に回せばどうなるか、身をもって知るといいわ。


 でも、あの人も「神の御手か悪魔の手先か」なんて言われているわたしの技術を知らないわけじゃないから、飲み物や食べ物に薬品を混ぜるのはよくないわね。すぐにわたしがやったってばれてしまう。


 ……そうだわ。あの人の癖を利用すればいいのよ。

 この薬を、彼がよく触るところに仕込んでおけばいい。

 それにはここをこうやって……。


 あ、彼が帰ってくる。


「おかえりなさい」

「ただいま――、あ、痛っ」

「どうしたの?」


 知ってるけど尋ねる。


「ドアの淵がささくれてたみたいだ、指にちょっと刺さっちゃって」

「あら大変。みせて」

「あぁ、大丈夫大丈夫。『神の御手』様を煩わせるなんてとんでもない」


 彼は茶化すように笑って言って「手当てしてくるよ」って部屋に入って行く。

 わたしに何か、多分秘密を暴露する薬とかを「盛られる」ことを警戒してるのね。


 馬鹿ね、もうその段階じゃないのよ。

 あなたは部屋の戸を後ろ手で、必ず同じところを押して閉めるの。これも自分では気づいてない癖ね。

 ささくれを作って、そこに薬を塗っておいたわ。

 今夜、たっぷり苦しむといい。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「だから今頃、大変じゃないかしら」

「え? ……まさか毒……」

「そんなことしたらわたしが殺人で捕まっちゃうじゃない」

「じゃあ何を?」

「些細なことでどうしようもなく笑いが込み上げてくる薬」

「あんまり大した制裁じゃないんじゃない?」

「今日ね、すごく厳しいので有名な騎士団長さんとの面談があるって言ってたわ」

「あー、そんな時に笑っちゃダメよね」

「ふふっ。耐えられるかしらねぇ。たった一度だけの浮気ならこれで赦してあげるわ」

「彼がきちんと反省してくれたらいいのにね」

「次にまたやったらもっときつーいお仕置きを考えないと」

「……ちょっと楽しそうに見えるのは気のせい?」



(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浮気の制裁はこの薬で 御剣ひかる @miturugihikaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ