化野念仏寺
当時の大学生の普通、ではなかったと思うのですが、彼女は肝試しが好きで、大学で出来た新しい友達と深夜に心霊スポットに行ってみるという事をよくしていました。
それは、新しい友達との親睦を深める彼女なりの手段だったのかも知れません。霊が見えるという彼女の個性はキャッチーでしたし、一人暮らし同士の友達との持て余していた夜の時間の過ごし方として肝試しというのは有意義なものだったのでございましょう。
そんな訳で、ある日、
とにかく、彼女たち三人は自転車を漕いで、心霊スポットと聞いたそこへ向かいました。目的地の近くに着いた彼女たちは自転車を停めて、徒歩で木々に囲まれた石段を登り始めます。鬱蒼とした夜の参道は静かで、風で揺れる木々が擦れる音と石段を踏むスニーカーの足音以外には、彼女たち自身だけが聞き取れる呼吸音しかありません。
石の階段は右へ曲がり、左へ曲がり、昼間であればちょっとしたハイキングになりそうな様相でありましたが、両脇を木々に囲まれたその登り道はやはり不気味で、妻は『あ、あそこにいるね』『あそこにもいる』なんて心霊ガイドをしながら二人の友人を連れて歩いていました。
二人の友人たちは『マジで?』『キャー!』なんて言いながら妻の後を歩いていた訳です。不思議なものですね。自分自身には見えないのに、霊能力があるという友人のガイドがあると、スリルと面白さが増幅されるんですね。お金のいらないお化け屋敷、お手軽なレジャーとして大学生にはピッタリなのかも知れません。
さて、何体の霊を見つけ、それらを友人に紹介した頃でしょうか。彼女は突然、強烈な悪意の様なものを感じ取ります。『ヤバい!これは危ないヤツだ』と判断した彼女は二人の友人に焦った声で言いました。『かなりヤバいヤツがいる。逃げよう!』と。二人の友人もその焦った声に気圧されたのか、すぐに回れ右をして登って来た石段を駆け下ります。
登って来た時とは逆に妻が一番後ろになって、自転車を停めた場所へ急ぎます。『ヤバい、ヤバい。逃げなきゃ、逃げなきゃ!』必死になって彼女たちは走ります。
その時、後ろから風がブワッと吹いてきたそうです。後ろから風に襲われているように感じた彼女たちは必死で走ります。左へ右へ曲がった石の階段の道、その何度か九十度に曲がった道を駆け下ります。
そう、九十度に曲がった箇所を何度か通ったはずなのに、何故か後ろからの風は常に真後ろから吹いています。『ヤバいヤバいヤバい』妻は汗だくになりながら自転車にまで辿り着いて、『とりあえず、明るいとこまで逃げよう!』と二人に声をかけ、今度は三台の自転車が道路を駆けます。風はやはり常に真後ろから。
自転車を最速で漕いで彼女たちが緊急避難場所に選んだのは蛍光灯の灯りが駐車場を煌々と照らすコンビニエンスストア。客のいない深夜のコンビニの駐車場に三台の自転車を雑に停めて、彼女たちは店内に駆け込みました。『危なかったー』『なんだったの?』『気づいてなかった?ずっと真後ろから風が吹いていたことに』『え?マジで?』昼間の様に明るい店内にホッとした彼女たちはそんな事を話したと言います。
そして、『とりあえず、明るくなるまでこの中にいよう』と、コンビニ店内で朝日を待つ事にしたそうです。
夜が白み始め、『そろそろ大丈夫よね?』と彼女たちはおっかなびっくりコンビニを出ました。もう、風は吹いていません。悪意のようなものも、もう感じられません。
『はー。助かったー』彼女たちはそう言って、雑に停めてあったそれぞれの自転車に向かいました。すると、何かがおかしい。止めた三台の自転車のちょうど真ん中になにかある。いや、何かあるという程ではない。でも、ついさっき体験した事がそれを奇異なものとして捉えさせたのでしょう。
雑に止めた三台の自転車。その真ん中の地面には、落ち葉やゴミが集まっていたそうです。
まるで、三台の自転車の真ん中につむじ風が立って、かき集めたゴミがそこに残されたみたいに。
つむじかぜ ハヤシダノリカズ @norikyo
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