004【不思議な出会い、不思議な体験】

 ようやく眠気との闘い午後の授業も終わり放課後。帰り支度を進めていると志帆しほがお昼休みに引き続き先生に呼び出されていた。


「葵依ちゃん、また明日ねぇん」

「ん。志帆は頑張ってね?」

「んー、適当に話聞いてくるー」


 支度を終え、茅絵里のクラスへと向かう。


「茅絵里ー、帰るよー」


 返事はない。姿も見当たらない。


「あれ?」

「あら葵依さん、茅絵里さんなら学祭の準備で、先ほど買い出しに出て行きましたよ?」


 彩々芽が葵依に気づき、代わりに返事をくれた。


「あー……、んなこといってたっけなぁ」

「はい! なので、今日はなかなか帰れないんじゃないかと思いますよ? 戻ってくるの待ちますか?」

「んや、先に帰るって伝えといてもらってもいい?」

「はい! お任せください! しっかりきっちりばっちり伝えときます‼」


  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――学祭かぁ。茅絵里んとこは確かメイドカフェって言ってたなぁ。男子どうするんだろ?


 一人帰途につく葵依はぼんやりとそんなことを考えながら歩いていた。いつも一人で帰宅する時は散歩がてら少し遠回りして帰ることにしている。

 この日も、いつものようにふわっとまがったこのない角をまがり、通ったことのない道をゆったりと歩いていた。


 ――ん? あれ?


 いつも通りであれば、十数分も歩けば見慣れた道に戻る。言っても通学路である。しかし、この日はそうはならなかった。


 ――ここ、どこ?


 どこかの大きめな公園にでもはいってしまったのだろうか。周りには色とりどりの花が広がっており、目の前には噴水。そしてその奥には大きな建物がある。


 ――んー。まぁ、ちょいめんどいけど、来た道戻れば帰れはするよね!


 葵依は深く悩む性格ではない。目の前の建物に近づくことにした。


 ――こんなところに図書館なんてあったかな?


 建物の門には“精霊の書庫”と書いてある。


 「んー……。まぁ入ってみっかぁ」


 入ってみる気分になったから入ってみる。


 館内は少し薄暗く、しんと静まり返っている。司書すら居るのか分からない。


 ――誰も居ない……? まぁ少し見てみるくらいは開いてるんだし、いいよね?


 本棚には見たことの無いような文字でタイトルの書かれた本が並んでいる。間違いなく普通の図書館ではない。


 ふと一冊、手に取ってみる。と、同時に葵依の背後から物音が聞こえ、焦って本をもとの位置に戻した。振り返ると入り口横のカウンターにきれいな女性が一人立っていた。


 ――司書さんかなぁ?


「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったようね」

「ふぇ⁉ いや、大丈夫です」

「人が辿りつくことなんてまれだから、奥の部屋で少し作業していたもので」


 声まで透き通るようなきれいな声だった。


「いや、ボクも人がいないと思って勝手に……って、ん? 今、辿りつくことなんてって言いました?」

よりも、あなた……本は好き?」


 ――そんなことって……。


「好きですけど……」

「そう……。じゃあ、奥の部屋……特別にみせたげよっか?」

「え……⁉」

「だぁって、久しぶりのお客様なんだもんっ!」


 弾んだ声でそういうと、葵依は司書のお姉さんに手をひかれ、カウンターの奥の部屋へと案内された。


 ――おぉ……綺麗なところだ。


 案内されたその部屋は、建物の中だというのに現実とはまるで思えない、とても幻想的な空間だった。


 中央になにか小さめの祠のようなものがある。


「あそこは?」

「気になる?」

「少し……?」

「ならいきましょう!」

「え!?」


 ふたたび司書のお姉さんに手を引かれ、祠へと案内された。

 中にも見たことのないような綺麗な花で彩られており、中心に台座のようなものがあった。そこには開かれた本が一冊、安置されていた。


「これは?」

「……」

「あれ? お姉さん?」

「何も説明出来なくてごめんなさい」

「ん?」

「ごめんね」


 葵依は急な眠気に襲われ、意識をてばなしそうになっていた。


「おね……さ……」

「ごめんね。フラウ」


 葵依は意識をてばなした。否、その場から葵依の姿はなくなっていた。


「いってらっしゃい。英雄フラウ」

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